それぞれが選んだ道
敵兵が要塞を迂回して挟撃の形になっていることはヤスタカ達にもすぐにわかった
しかし、敵兵は動きを見せない
「なぜ、攻撃してこない」
要塞内部では困惑が広がっていた
このまま時間が過ぎれば逆に南側の敵は挟撃される形になる
援軍が来るまで、30~40日といったところか
30日だって?
軍議の場でヤスタカは尋ねた
「水と食料はあと何日分あるんですか?」
「補給が途絶えたからあと15日分ほどだ」
まずい
敵の狙いは兵糧攻めだったのか
だとするとどうする
南側の敵を排除しなければ先に力尽きるのはこっちだ
要塞の守備兵が半数であれば食料は持つかもしれない
しかし、口減らしのための突撃戦など許されない
野戦になれば数で有利なのは敵だ
「睨み合いの状態が続く限り、水と食料の消費を半分にしましょう」
ヤスタカはそう提案した
それから30日が経過した
ニーレンバーグ国軍は包囲したまま一向に動く気配がない
援軍はいつ来る?
いよいよ後が無くなってきた
要塞内には悲壮感が漂っている
「私達、ここで死ぬのかな?」
マリはそう呟いた
「絶対に死なせない」
ヤスタカが返す
「使えるのが空を飛べる魔法とかだったらよかったのにね」
マリはどこか悲しそうな顔をする
「諦めちゃ駄目だ。きっと・・・」
そこに二人を呼ぶ声があった
南側の敵兵に対し、野戦をしかけるという決定がなされた
その連絡だった
「しかし、勝機は薄いのでは?」
ヤスタカが尋ねる
「そうかもしれない。しかし明日にはもっとその確率は落ちる。今が最後のチャンスかもしれない。力を貸してくれ」
「わかりました」
ヤスタカはある種の決意を込めて返答した
最低限の守備兵を残し、攻撃が決行された
マリの活躍はまさに一騎当千だった
それを守るヤスタカ
戦況は五分と五分に見えた
しかし、ある瞬間から状況は一変する
「マリ!」
マリが急に膝から崩れ落ちた
まずい、魔力がもう・・・・
「マリ!要塞まで逃げ帰るんだ」
「でも・・・」
「マリの魔力が尽きかけている。今のマリはただの女の子だ。戦場にいていい存在じゃない!」
「ヤスタカはどうするの?」
「マリが安全な場所まで行くのを見届けてから考える。早く!」
マリはふらふらと立ち上がり、気力を振り絞って走り出した
ニーレンバーグ国軍の勢いが増すかと思ったその時、敵に動揺が走る
南方からのアスティア国の援軍が確認された
あと少し、あと少し持ちこたえるだけでいいんだ
ヤスタカは自分にそう言い聞かせる
戦闘の様子はクロードからも確認できた
「急げ、全軍敵兵になだれ込め!」
突撃の指示を出した後、クロードが俺を見る
「キミヤ、お前も戦ってくれるのか?」
「二人を助けるためなら、その覚悟を決めるつもりだった」
だが、もはや敵味方入り混じっての混戦となっている
これじゃ俺の魔法はどうしても味方まで巻き込んでしまう
「すまない、この状況では俺は力になれそうにない」
ヤスタカ、マリ、お前達もこの戦場のどこかにいるのか?
俺は、ただ見ていることしか出来ないのか?
敵味方の兵達が次々倒れていく中、俺は”それ”を見つけた
「ヤスタカ?」
要塞の南側に配置された敵兵は最終的にクロード率いる4000の兵と要塞からの兵の挟撃に合い、撃退された
兵糧が尽きていた要塞の内部は疲弊しきっていた
要塞の入口にはマリの姿があった
理由はわかっている
ヤスタカを待っていたんだ
運び込まれたヤスタカの亡骸を見たマリのことは語るまでもないだろう
ヤスタカは最後まで女を守り抜いたんだな
簡易的なものではあるが、ヤスタカは要塞の内部に埋葬された
マリはそこから動こうとしない
「クロード、話がある。城での続きだ」
「わかった。付いてこい」
クロードも応じる
まず俺は尋ねた
「戦況全体は今どうなっている?」
「我々が合流したことで要塞には6000の兵がいる。敵は要塞の北側に逃げ帰った兵も含めて7000といったところだ」
相手も本国に予備兵はいるだろうが、やはりそう簡単に決着するものではないな
「わかっていると思うが、エイミーを救うためにはのんびりと戦争をしているわけにはいかない」
俺は念を押した
「・・・・そうだな」
クロードは一呼吸を置いて
「お前に賭けることにしよう」
そう答えた
講和の調停はギリル要塞内で行われた
要塞の中央付近、防衛設備はあまりなく、宿舎との間のちょっとした広場になっている場所だった
ニーレンバーグ国からは王子のウィラード、それに王女のテレジア、護衛数人が来ている
ウィラードは念入りに講和の条件を確認している
タダで要塞を返すってのだから、まあそりゃ驚くだろう
「了承した」
ウィラードは短くそう答えた
クロードとウィラードは調停にサインし、握手をした
この世界でもあるんだな、なんて思ってしまった
同時にテレジアはクロードの傍に歩みよってくる
全くの美男美女だ
お似合いすぎて腹が立つ
「さて」
俺は唐突に声を上げる
「これは講和の条件とは関係ないんだが、俺の決意表明だと思ってくれ」
ウィラードの表情は「なんだこいつ?」だ
クロードは何も反応を示さない
「よーく見ておけよ」
俺はそう言うと魔力を高めていく
その場にいる全員の表情がみるみる強張っていくのがわかる
俺は両手を魔道砲のある要塞西側に向け、魔法を放った
これが最初で最後の俺の全力だ
俺の放った魔法は要塞の西側一帯を吹き飛ばした
もちろん魔道砲もだ
ちなみに、あらかじめ西側には誰もいないようにしておいてくれとクロードには伝えてある
唖然と恐怖の中間といった表情のウィラード
まあ、そうなるよな
それに対し、クロードは別の表情をしている
なんというか、以前のように俺を見下していたような雰囲気ではなくなっていた気がする
「もし講和が破られるようなことがあれば、俺が敵になると思ってくれ」
そう言い残して、俺はクールに立ち去っていく
魔力を使い果たしてヘトヘトなのがバレたくないのもあった
こんなのは2日に1発くらいが限界だ
一度寝たら、起こされない限り半日以上は眠っていることだろう
しかしその前に俺にはもう一つやっておくことが、いや伝えなくてはならないことがあったんだ
マリは相変わらずヤスタカの墓の前にいた
全く動こうとしない
「なあ、マリ」
マリは返事しない
「これからどうするんだ?」
しばらくしてマリは口を開いた
「あなたが正しかった。勇者なんかになるんじゃなかった。あなたのように拒否していたらヤスタカは死ななかった」
そうかもしれない
しかし・・・・
「それは俺にも言えることだ。俺もお前達と一緒に勇者をやっていたらヤスタカは死ななかったかもしれない」
しばらくの沈黙のあと、俺は告げた
「なあ、俺はこれから日本に帰ろうと思っている」
初めてマリが俺の顔を見た
「帰れるの?」
「ああ。それに帰らないといけない理由ができた。一緒に帰らないか?」
「・・・・・」
マリはしばらくの沈黙のあと
「私は帰らない。ヤスタカを一人に出来ないから」
そう言った
俺は力づくででもマリを連れて帰るべきなのだろうか
この異世界でマリはたった一人になる
果たしてそれはマリのためになるのだろうか
ヤスタカはどう思うのだろうか
俺は・・・・
「そうか」
と答えることしかできなかった
俺が傷物にしてしまった要塞からアスティア国軍は引き上げた
同時にニーレンバーグ国軍が要塞内に入る
マリはニーレンバーグ国側で暮らしていくと決めた
ヤスタカの墓を守っていくということなんだろう
俺とクロードは城に戻るとエイミーに事情を説明した
エイミーは俺と一緒に日本に行くことを了承してくれた
そして、転移魔法の準備が行われた
俺は予めこの世界に呼ばれた時の服装に着替えている
財布やら家の鍵やらも持って帰らないといけないしな
「いくぞ」
クロードが魔法の準備に入る
「クロード、頑張れよ」
「何をだ?」
「子作りだよ。でないとエイミーはいつまでも帰って来れないぞ」
「わ、わかってる」
なんだ、こういうのには弱いのか?
「あと、俺がこの世界にいないってことは絶対にバレるなよ」
「それもわかっている。キミヤ、エイミーのことを頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
次の瞬間、目の前が真っ白になった




