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二人の勇者と勇者にならなかった俺

アスティア国の軍勢はおよそ5000

対するギリル要塞の守備兵は2000

数だけみれば有利ではあるが、要塞の背後にはニーレンバーグ国の国土が広がっている

そこには10000からの兵が控えているそうだ

また、要塞には魔道砲と呼ばれる砲台が20ほど集中的に1箇所の高台に配置してあり、一発ごとに魔晶石の魔力を全放出して攻撃する

つまり、魔道砲は撃つたびに力を使い切った石と新しい魔晶石を入れ替えるということになる

それでも資源量から考えて、実質的に無尽蔵に撃てることになる

有効射程は1kmほどということらしい


アスティア国の利点の一つに要塞への距離がある

アスティア国の王城から要塞へはおよそ30日の行軍となる

それに対し、ニーレンバーグ国のそれはおよそ50日である

つまり敵国の援軍が来るまでに要塞を落とすことができれば十分に勝機はある


しかし俺は、二人の勇者が無事であることが何よりの願いだった

今更俺が二人にかける言葉なんてない

そしてどうしても消えない思いがある

本当にこれでよかったのか

俺は二人が出兵していく様子をただ遠くから見守ることしかできなかった



ギリル要塞の近辺は岩山からなる山岳地帯である

要塞の北東から南東にかけて東側半分が険しい岩山で囲まれており、実質的に要塞の壁となっている

西半分には人工的な壁や柵が作られており、両国を繋ぐ街道を塞いでいるのもこの部分である

また防衛施設は西側に集中しており、その中心となるのが人工的に作られた棟に配置された魔道砲である


要塞を前にアスティア国軍は自軍を二分した

片方はクロードが率いる軍勢、そしてもう片方にはヤスタカとマリがいる

しかし、最初の同時攻撃はあっさりと撃退された

直撃はさほど多くなかったが、魔道砲の威力を前に射程内にただ飛び込むだけではかなりの損耗を覚悟しなくてはならない

ヤスタカは魔道砲の直撃を弾き返すという離れ業をやってのけたが、それでも全兵を守り切れるわけではない

その後も突撃のタイミングを工夫したり、軍をさらに細分化したり、あらゆる手を尽くしたもののアスティア国軍の被害が増える一方で全く攻略の意図が見えなかった


アスティア国軍は野営地まで一時撤退を余儀なくされた


「あの要塞は力押しでは駄目なような気がするんです」


そう言い出したのはヤスタカだ

隣にはマリもいる


「確かにそうだ。前に見た時よりも明らかに要塞の防備が強化されている」


クロードも認めざるを得ない


「夜襲であれば要塞まで肉薄できるかもしれない。あるいは要塞の南側にある森林に紛れて接近するというのも考えられるが・・・・」


思案を巡らせるクロードに対し、ヤスタカが思い切った案を提示した


「内側から攻めましょう」


「何?」


クロードはその提案の意味を理解できなかった

ヤスタカは続ける


「夜間の少人数であれば接近にも気付かれにくいでしょう。そして潜入に成功さえすれば、マリの力があれば一人で内部をかく乱できる。敵兵を同士討ちさせることも可能でしょう」


「しかし、2000人を相手に一人では、いくらマリでも魔力が尽きるぞ。それにもし流れ矢の一本でも当たればマリにとっては致命傷になる。それは危険すぎる方法だ」


クロードが反論する


「狙うは一点、魔道砲の奪取です」


ヤスタカは続ける


「まず何人かの敵兵を操り、要塞の東側で騒ぎを起こす。おそらく敵は東側に敵がいると勘違いし東側に兵を移動させるでしょう。その隙に魔道砲に接近し、砲撃手を操り要塞内部に向けて砲撃する。これであれば何百人も魅了する必要はない」


クロードはしばらく思案する


「しかしそれでもマリは敵の攻撃に晒される可能性が高い。護衛はどうする?」


「もちろん、僕が命に代えてもマリを守ります」


ヤスタカはきっぱりと告げた


要塞はコンクリートの壁で覆われているわけではない

ところどころ柵の隙間にはなんとか人が通れるくらいの箇所もあった

たった二人での作戦

この行軍は敵も察知できなかった


「マリ、大丈夫か?」


ヤスタカが尋ねる


「信じてるから。きっと守ってくれるって」


マリは自分の運命を自分以外のものに託した

もし、それが裏目に出て死んでも構わない

自分で決めたことなのだから

そういう強さ

覚悟を決めた強さ


要塞の内部は混乱を極めた

敵がどこにいるのかわからず、指揮官もどういう指示を出せばいいのかわからない状況だった

それでも何か指示を出さなければならない

そして指揮官が出した決断はヤスタカの狙いどおりのものだった

要塞の東側にまわされた兵士達が魔道砲により撃ち抜かれた


ここで要塞の指揮官は魔道砲が奪われたことに気づいた

敵兵が確実に要塞内にいる

内側にいる敵兵をせん滅しなくてはならない


魔道砲の発射は同時にクロードに対する合図でもあった

もし魔道砲が要塞内に発射された場合、それは作戦の成功を示す合図であり、突撃の合図でもある

予め突撃の準備をしていたアスティア国軍は最速の行軍を起こす


要塞内ではある種の同士討ちが起こっており、魔道砲の射手は味方により倒された

マリはゴーレムを作り出し、要塞の門を内側から開けた

それに気づいたニーレンバーグ兵はマリに狙いを定める

しかしヤスタカはその全ての攻撃を弾き返した

何者もその鉄壁の防御を打ち破れなかった

とはいえ、無限には防ぐことができない

ジリ貧になろうかという状況・・・・


クロード率いる軍が要塞になだれ込んだ

これがトドメとなった

要塞は陥落した

数で圧倒的に劣る要塞守備兵は投降した

二人は本当に英雄になったんだ



「よくやってくれた」


クロードは二人に心からの感謝を述べた


「さすがに疲れました」


ヤスタカは安心したような気持ちでへたり込んだ


そう、アスティア国は悲願であったギリル要塞の奪取に成功した

両国の戦力差は大きく縮まった

ほぼ五分と言っても良いほどになった

生き残ったアスティア国の4000ほどの兵は要塞の守りとしては十分だろう

これで何か事態が変わるのかもしれない

俺達三人が勇者として呼び出されたのも、そのためだったのだから


しかし、俺にとっては国の存亡なんかより、個人的にもっと重大な事態が起こっていく


ギリル要塞の陥落後、小競り合いは続くものの大きな戦況の変化はない

そんな時、クロードの元に一報が届いた


「クロード様、エイミー様が・・・・」



二人が出兵した後も、俺は相変わらずエイミーと共に領地巡りを続けている

二人の無事を願いながら

そんな俺の様子を見てか


「大丈夫ですよ。あの二人も勇者なのですから」


なんとも返答に困る

どこか引け目に感じるところもあったのだ

でも今は信じるしかない

たとえ戦で負けてもいい

無事でさえいてくれたら

俺達は同じ世界から来た唯一の仲間なのだから


「今日から何日かかけて、領地の中では最も遠いスメイル地方へ向かいます」


エイミーが告げる

なんでも、近くに他の村も無い、辺境のような孤立した土地であるらしい


その道中、異様な光景に出会った

難民のような人々と遭遇したのだ

まるで土地を捨てて何かから逃げているような


エイミーを見るや


「エイミー様、助けてください」


只事ではないのはわかった

そう、これこそが俺が最も恐れていたことだったんだ


スメイル地方に残された人々はまともに動ける者も少なかった

どう見ても普通じゃない

すでに死者も多く出ている

俺は断じずにはいられない


「これは、何かの伝染病だ」


一体なんだ?

中世・・・

まさかペストのような病気なのか


「半年前に来た時は、確かに何人かが重い病にかかっており、亡くなりました。それがわずかな期間にこんなことになるなんて・・・」


エイミーはそう呟く

俺はエイミーに告げた


「これは人から人へと感染する何かの伝染病だ。まず、俺達全員、口と鼻を布で覆うんだ」


それから俺は、知っている限りの感染症の症状と照らし合わせた

しかし、異世界では確実な診断を出すことはできない

これは未知の病なのか、地球でも知られている病なのか

とにかく俺はこの世界で出来る限りの処置をするしかなかった


栄養価の高いスープも作った

しかし、領民は次々と力尽きていく

その間に聞き取りを行いわかったのは、個人差はそれなりにあるものの発症してから1年前後で致死率はほぼ100%だということ


「エイミー、半年前に来たときは治癒魔法を使ったのか?」


「はい。ですが病を治すことはできませんでした。一時的に苦痛は緩和されるようなのですが、そのくらいしか・・・・」


「治癒魔法でも病気は治せない。だとしたら・・・・」


救える方法があるとしたら、地球での医療、つまり抗ウィルス薬や抗生物質のようなものを作るしかない

しかしこの中世の世界でそんなこと可能なのか?

俺は過去に創作物で見たことがある

何も無い世界で自力で抗生物質を作り出す

そんな事、俺には到底無理だ

だから免疫力を信じることしかできない


「とにかく、休養と栄養を・・・」


そう、これがこの世界での限界なんだ

仮に救えなかったとしても、俺のせいじゃない

運命として受け入れるしかないんだ

自分にそう言い聞かせた


しかし、言い聞かせられない事態が起こった


エイミーにこの病の症状が現れた

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