見えてきた俺の生きる道
翌日、俺はまた訓練とやらはすっぽかして、エイミーの領地巡りとやらに付き合った
護衛の兵士も何人か付いてくる
当然、俺の護衛ではないわけだが
領地巡りは場所によって日帰りだったり、何日もかけてやることがあるそうだ
この日は俺にとっての初日ということもあり、日帰りだった
この国の国王はすでに亡くなっており、現在はその妃が女王として国を統治している
王子であるクロードは軍の最高指揮官であり、今はニーレンバーグ国との戦争に備え、戦力を整えることに専念せざるを得ない
そんな中、エイミーは領地の様子を調査し、人々の声を聴き、何か改善点などがあれば女王に報告するのが役目のようだ
どうやら、この世界の一般の人々の多くは農民をやっているようだ
文明レベルもやはり中世
電気も無ければガスも無い
火は主に薪を用いており、上下水道も簡易的なものしかなく、あまり衛生的とは言えない
人々の外見を見る限り、栄養状態も現代日本に比べればあまり良いとは言えなさそうだ
人種は地球の基準で考えると、いろんな種族がいるように思える
人々の年齢と見た目は一致している
例えばエイミーは12歳と言っていたが、実際に見た目もそのくらいだ
この世界の1年は地球の1年とほぼ同じということか
しかし、クロードが俺と同い年というのはなんか納得いかなかったけどな
俺が思っていた通り、エイミーは領民に愛されているようだ
村を訪れると彼女に治療を求めてくる人もいた
彼女は申し訳なさそうに頭を下げている
そんな光景が何度かあった
そんな彼女の様子を見ているうちに、俺も何かやれるんじゃないか、そんな気持ちが俺の中で芽生えていった
「なあ、俺が怪我人を診てもいいか?こう見えても俺は元居た世界では医者を目指していたんだ」
いきなりの俺の申し出に彼女は少し戸惑いつつも、快諾してくれた
日本を含め、俺が人生で初めて診た患者は肉離れを起こして足を引きずっていた若者だった
「何か包帯の変わりになる布はないか?患部を圧迫することで痛みが軽減されるし、治癒も早くなる。あとなるべく安静にすることが大切だ。まあ全治10日ってとこかな」
もし、エイミーが治癒魔法を使えたらどうなのだろう
瞬時に治してしまうのだろうか?
しかし、俺にはそんな芸当は出来ないようだ
人々を救う道を目指していた俺に宿った魔力は、どうやら人々を殺すことに特化しているらしい
魔法を除けば、この世界の文明レベルはとことんまで地球の中世
魔法の事もまだよくわかっていないが、魔力があるはずの人達が魔法で傷を治療できないことを考えると、治癒魔法というのはかなり高度な魔法なのだとわかる
適正が無い俺もおそらくまともに使えないだろう
だが簡単な怪我の処置くらいなら俺にでも出来る
打撲や骨折や切り傷
どこの世界でもありふれたものであり、まだ学生だった俺でも対処はできる
しかし、病となると話が違ってくる
それはすぐに気づかされた
風邪の症状が出ている村人がいた
原因となるウィルスか何かは全くわからないが、どうやらそれに類するものがこの世界でもあるらしい
この世界の栄養状態はあまり良いとは言えない
その証拠にこの世界の人々の身長は現代日本人のそれよりも低いように思えた
老人もほとんどいない
平均寿命もおそらくそれほど長くないのだろう
だから、もしただの風邪だったとしても油断はできない
「なあ、この世界の人達は肉や魚はあまり食べないのか?」
ふとエイミーに聞いてみた
「ええと、そうですね。魚は内陸ではほとんど食べられません。川で小さな魚を取って食べることはあるのですが、基本的には海の近くにいる人達だけが食べています」
なるほど、とことん中世だ
冷凍保存も無ければ、物流も弱い
海の食べ物を運んでくる間に腐ってしまうというわけか
「じゃあ、肉は?」
「以前は軍の人達が野生の動物を狩る役目を担っていました。それを領民に提供していたりしたのですが、今は・・・」
なるほど、戦争でそれどころではないということか
「じゃあ、一般の領民は?野生動物を狩らないのか?」
「とんでもないです。軍の人達だって命がけで戦うんです。犠牲者が出ることも珍しくはありません」
なんだそりゃ
一体何と戦ってるんだ?
とにかく、今日エイミーに同行することで、俺はまだまだこの世界について知らないことが多いのがなんとなくわかった
と同時に、地球となんら変わらないことのほうが多いとも感じた
翌日、この日はエイミーの領地巡りは無いようだった
「なあ、クロード。魔法の使い方を教えてくれないか」
俺の申し出にクロードは少し意外そうな顔をしたが、すぐに皮肉めいた顔になった
「戦わないんじゃなかったのか?」
当然そう来るよな
しかし、戦う戦わないはともかく、魔法を使えるようになれば何かの役に立つ可能性がある、と昨日感じた
クロードにとってもメリットはあっても特にデメリットのある話ではない
「まあいい。まずはヤスタカとマリの様子を見ていけ。こっちだ」
案内されたところでは二人が何やら儀式めいた事をやっていた
「お前達はまず魔力量を己の限界近くまで高める必要がある。いくら素質があってもそれを引き出せなくては意味がない。具体的な魔法を使うよりもそっちが先だ」
二人のほうを見ながらクロードが俺にそう説明した
なにやら二人とも魔法陣のようなところで目を閉じてそれぞれに難しそうな表情をしている
勇者と言ってもいきなり戦力にはならないんだな
「お前もやれ」
何を?
いきなり言われても全くわからないんだが
どうやら、この魔法陣には己の魔力を感じやすくする作用があるようだ
それを手がかりに少しでも大きな魔力を出す方法をあれこれ試していく
地道な試行錯誤の繰り返し
時々クロードからアドバイスが飛んでくるが、内容が抽象的すぎて実行方法がまるでわからない
それでもコツを一つ見つけ、また別のコツを見つけて、それらを組み合わせたりすることを繰り返す
「ほう・・・・」
クロードがつぶやく
「あいつ、二人よりも飲み込みがいい。それとも魔力の限界値が二人より高いのか?」
俺はこの修行を3日間続け、簡単な炎の魔法の使い方もわかった
まだ全力では使っていないが、試射だけでかなりの威力があることがわかる
この3日間で、あまりよく会話をしたことがなかったヤスタカとマリとも初めていろいろ話せたと思う
二人は自然体に見えた
この異世界でも、お互いの存在がお互いの不安や心配を打ち消しているんだろう
ごめんな、最初バカップルなんて思っていて
再びエイミーの領地巡りがある日が来た
今回は2日かけて行うらしい
俺もそれに同行した
確かめたいこともあった
「なあ、エイミー。野生動物はどのあたりにいるんだ?」
「え?」
「一度見てみたいんだ。もしこの領地の人達に肉を供給することができたなら、きっといろんなことが改善されると思う」
俺の食生活を含めて
「まさか、あなたが狩るのですか?」
「勇者だからな」
ま、はぐれ者勇者だが
「大丈夫。勝てないと思ったら全力で逃げるよ」
そうやって、教えてもらった場所に一人で向かってみた
村からはそれなりに距離がある巨大な森林
初めて遭遇した野生動物
イノシシだ
いや、イノシシのように見える
イノシシってこんなにでかかったか?
体長は5mくらいはありそうだ
「でっか」
思わず口に出る
巨大イノシシは俺を見るや、明らかに敵意を向けて突進してきた
魔法で倒せなかったら打つ手なしだな
俺は一息つくと、突進してくる巨大イノシシに魔法を放った
結論から言うと、どうやら、魔法で倒せないということはなさそうだ
巨大イノシシは五体がはじけ飛んだ
目の前の光景はとてもエイミーには見せられそうにないグロさだ
「もっと手加減しても大丈夫そうだな」
そんな事を考えながら、さてどうしたものか
まさかこれほど巨大な生物がいるとは思わなかった
村人では歯が立たないのもよくわかる
せめて、足の一本だけでも持ち帰るか
そう思い、モモから残った比較的形が良い足を一本担いだ
これ、人間三人分くらい重くないか?
うん、諦めよう
もっと軽そうなのを持って帰ることにする
それでもそこから村までの道のりはとても遠く感じた
「それ、まさか本当にお一人で?」
エイミーの質問に頷いた後、へたり込んだ
「次からは運び役で何人か用意したほうが良さそうだ。領民を何人か借りてもいいか?あとこれだが、肉の部分だけ切り分けて塩漬けにするのはどうだろう。そうすれば日持ちもする」
これで何人前になるだろうかなどと考えながら、領民達に振る舞った
それ以降は段取りが良くなり、いろんな村を巡りながら、その都度何人かの領民に同伴してもらい、獲物を狩ったあとに運んでもらった
10mくらいありそうなクマとかもいた
ロボットアニメを思い出したよ
多くの人に感謝もされたし、領民の栄養状態も改善されると思う
なんというか、この世界に来て初めて自分の居場所が見つかったような気がした
そんなある日、俺はクロードに正式に告げた
「やっぱり俺は戦争の道具にはならない。別の道で生きていくよ」
あんな威力の魔法を人に向けるなんて俺にはとても出来そうにない
クロードはまるで最初からわかっていたかのようだった
「そうか」
と短く返答し
「今使っている部屋はそのまま使い続けてもいいぞ。エイミーと領地を巡るならそのほうが好都合だろう」
と付け加えた
エイミーとの領地巡りはそのまま続き、俺は領民の治療や狩りの他、収穫を手伝ったり、家を修理したり、子供の遊び相手になったり、そういう日々を送っている
領地巡りが無い日はヤスタカとマリに付き合って魔法のことを勉強している
やはり俺には治癒のような魔法は使えないらしいこともわかった
ヤスタカは魔力が尽きるまであらゆる攻撃に対して鉄壁の防御を発揮できるようだ
兵士相手に木剣の試合で100人抜きしたらしい
いくら打たれても平然としているらしいから当然か
マリは土の中からゴーレムを作り出し操っていた
あと、見せてもらってないが、人間を魅了し操るようなこともできるそうだ
なにか恐怖を感じる力だ
それと、領地巡りの道中、エイミーとの会話からいろいろなことがわかった
アスティア国とニーレンバーグ国がある地は、そこそこ巨大な島らしく、タレス島と呼ばれている
周りは海で囲まれているそうだ
海の外にどんな世界があるのかはエイミーにもわからないらしい
元々二国はそれほど対立していたわけではなかった
クロードはニーレンバーグ国の王女と何度か会っており、縁談まであったそうだ
「魔晶石の大鉱脈が見つかったことで二国の関係は一気に変わりました」
エイミーは少し悲しそうな様子でそう語ってくれた
魔晶石は軍備に使えば強い力になる
たとえアスティア国に侵略や支配の意図はなくとも、それが可能であるということ自体が恐怖を産み、正気を失わせる
そういうことなのだろう
ニーレンバーグ国が武力でギリル地方を占領し、そこに要塞を築いたことで、その関係は修復できないものになっていった
二国を繋いでいた街道は要塞により塞がれ、両国を行き来できる手段は限られている
今や軍事力の差は7:3と言われている
7がニーレンバーグ国だ
軍事バランスが崩れたことでタレス島に統一国家を作るという野心が芽生えたというわけだ
その状況を打開すべくアスティア国は軍備を整えている
それと同時に勇者を呼び出した
当面の目標はギリル要塞の奪取だ
しかし、仮にその作戦が成功したとして、その後どうなるというんだ
ニーレンバーグ国が要塞の再奪取に動くことは間違いない
相手を滅ぼすまでこの戦いを続けるつもりなのだろうか
それはわからない
俺は戦争のことはあまり考えないことにしていた
それより人々の役に立つことをやりたかった
しかし、ヤスタカとマリは戦争に参加すると決めた
同じ世界からやってきた仲間として気がかりではないといえば嘘になる
いつかあいつらも戦場に行く日が来るのは間違いない
それがいつなのだろうか
しかし、俺が思っていたよりも早くにその日は来た
ギリル要塞の攻略戦が始まった




