デス・カイザーと商人
レイラの服も見繕い、これで街中で連れて歩いても人の目が気にならなくなった。
……いや、ギルドを設立した頃からか、妙に視線を集めるようになった気がする。
こういうのは大体、自意識過剰なのは知っているが、それでも気になる。
「……レイラ。俺ってどこか変か?」
「変です」
「マジで?」
「はい。ただ歩いているだけでも強さが滲み出ていますから」
真顔だがキラキラとした目で俺を見つめてくるレイラ。
聞きたいのはそういうのじゃないんだよな。
「確かに変、と言われると変ですねぇ……デス様ほどのお方が自らの足で街をお歩きになるなど」
「真に上に立つものは、日頃から下々の者の生活を理解していると聞いたことがある。デスの行動はコイツにとっては普通なのだろうが、それを理解できない平凡な者からすると異質だろうな」
「ははは、確かにクレイドさんの言う通りです。しかし、デス様と比べれば私たちなど誰もが凡庸でしょう」
違いない、とクレイドが相槌を打つ。
ちょっと見ない間にこの人たち打ち解けてるな。
若干不安に感じないこともないが、同期の絆は業務の遂行速度等に影響を及ぼすだろう。
そんなことを考えながら、ようやく依頼人の元へ向かうことにした。
……自分がどうしようもないアホだと気付いたのは、依頼人に会った直後だった。
「あ、あなた方がギルド“死合わせの森”の方ですね……」
「その通り。よろしく頼む」
「え、えぇ……ぜひ、よろしくお願い、します……」
俺が握手しようと手を差し出すと依頼人――商人は何か躊躇いごとがあるのか、数秒経ってようやく手を握ってくれる。
「メンバーを紹介しておこう。そこのイケメンがクレイド、俺の横にいるのがレイラ、丸いのがボズだ」
「ぼ、ボズ……というと、まさか……」
商人が後ずさる。
「おやおや、私のことを知ってらっしゃると?」
「……死の奴隷商人と呼ばれている方ですね」
「節操のない呼び名ですなぁ……私が本当にその気なら、そう呼んだ者を全員始末してしまいますよ」
「ひっ……」
ボズは妖しい笑みを浮かべる。
この人、絶対冗談で言ってるんだろうが、見た目が見た目だから怯えられてしまう。
「ボズ、あまりいじめてやるな」
「これは失礼しました」
「……他の二人も、この方は依頼人なんだから挨拶を忘れないように」
社会人として当然の礼儀。
リピーターを確保できれば依頼を探す手間を省けるようになる。
レイラは奴隷出身だからもとより、クレイドの所属していた魔王軍もビジネス的な面は重要視していなかったのだろう。
細かいところから矯正していかなければ。
俺の言葉を聞いてレイラは小さく礼をし、クレイドは胸に手を置く。
「……よろしく、お願いします」
「俺はクレイド。元魔王軍幹部、暗黒騎士クレイドだ。よろしく頼む」
「――魔王軍幹部ぅ!? つ、つい最近商人が魔王軍に殺されたと……」
ボズの時点で恐怖を露わにしていた商人は、「魔王軍幹部」というあからさまな嘘も信じてしまった。
蚊の鳴くような声で「ひえぇ……」と漏らし尻餅をつく。
「お、お前……」
「どうしたデスよ」
「あのな、そういう設定は依頼の時には隠すようにするんだよ」
顎に手を当てて考えるというイケメンにしか許されないポーズの後、クレイドが頷く。
「……あくまで雌伏の時だったな。すまなかった、これからは気をつける」
「あぁ……うん」
分かってもらえれば良いが、商人はもうヘロヘロだ。腰を抜かしまくっている。
「と、とりあえず行きましょうか」
商人を起こすために手を伸ばす。
「ひぇ――ゆ、許してくださいっ! 誰にも言いませんのでッ!」
「むしろ知名度回復のために言ってもらった方がいいんだが……とりあえず立ってくれ」
脇から持ち上げるようにして立たせる。
一つ一つ取り合っていると日がくれそうだし、早いところ出発したい。
「依頼の確認に入る。今回は荷馬車の護衛だったな?」
「そ、その通りです。私の店はバルフェスタにあるのですが、近頃は魔物が活発化してきているようで……送り届けていただければと」
「了解した。それでは出発しよう」
「は、はいっ! 急ぎますっ!」
商人は慌ただしく荷馬車の確認を始める。
さすが商人というところか、ボズもチェックに加わって、すぐに出発することができた。
俺たちも馬車を借りていて、目的地まで先導することになっている。
ログレアの街を出ると視界いっぱいに草原が広がっている。
この辺りは地形的にも落ち着いていて治安が良い。
「天気も荒れていないし、明日には何事もなく到着するだろう」
「そ、それなら良いのですが……」
商人の心のうちは読めないが、ずっと怯えているようだった。
まるで「自分はこれから人目に付かないところで殺されるんじゃないか」と思っているように。
……どうにも雰囲気が悪いんだよなぁ。
こういう時に雑談を振るのもギルドマスターの役目か。
「魔物が活発化していると、先ほど言っていたな」
「――は、はいッ! せ、せめて死体は家族の元へ送っていただけると……」
「何を言っている。俺たちがいる以上、依頼人には傷一つ付けん」
後方に座っているボズが「さすがデス様っ!」と盛り上げてくれる。
ようし、この調子でアイスブレイクタイムだ。
「これは冗談なんだが、ウチには魔王軍の幹部がいると言ったろう? 彼に見解を聞いてみようか」
「……魔物が興奮する理由はいくつかある。身近なものだと満月が近付いているとかだが、俺には心当たりがある。……魔王が強力な魔物を生み出しているのだ」
クレイドの視線が鋭くなる。
「特に、今は魔竜を生み出そうとしているらしい。それが成功したとしたなら……瘴気が風に舞い、魔物たちを刺激しているのかもな」
「も、もしや私も生贄に……」
……俺はもっとツッコミどころのある説を期待していたのだが、かなり深く設定を練っているせいで反応に困ってしまった。
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