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隠居生活のためのギルド設立〜怪しいやつばっかり仲間になるせいで各所から悪の帝国としてマークされてるんだが〜  作者: 歩く魚


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デス・カイザーと冒険準備

「それじゃあ依頼へ向かうか……と言いたいところだが」


 俺たちが向かったのはログレアのメインストリート。

 何をするよりもまず、買わねばならない物があるからだ。


「デス様。ここで何を買われるのですか?」

「お前だ」


 呑気に質問してくるレイラに指を刺すと、なぜか彼女はビクッと跳ね、泣きそうな顔になる。


「そ、そんな……待ってくださいデス様」

「なんだ?」

「私はまだ、あなたに何の恩も返せていないのです。それなのに他の奴隷を買われるなんて……捨てないでください……」

「……何を言ってるんだお前は?」


 彼女が俺の足にしがみつくのを見て、ようやく思考を理解する。

 お前という言葉を「奴隷」として捉え、俺が他の奴隷を買うつもりだと思ったのか。


「ち、違うのですか……?」

「確かに、これは俺の言葉が足りなかった。謝罪する」


 レイラの頭を撫でてやるとすぐに涙が引っ込み、幸せそうに微笑む。

 父性というやつに飢えているんだろう。


「俺が言いたかったのはレイラ、お前の服のことだ。いつまでもボロをまとっているようでは俺の沽券に関わる」

「こ、こかん……?」

「沽券だ!」


 彼女が思ったよりアホの子なのか、沽券という言葉が一般的でないのか、どちらだろう。

 どちらにせよ、俺の股間に関わらないのは確かだ。


「――デス様、よろしいでしょうか」


 振り返ると、先ほどと同じくスーツを着ているボズと、なぜかコートにハットを被って変装しているクレイグの姿。


「……お前、どうしてそんな厚着を?」

「ふっ、お前の剣であればもっと堂々としていろと言いたいのだろう? だが、俺もそれなりに顔が売れているんだ。なに、迷惑はかけないさ」


 よし、スルーでいいな。

 コートの中は全裸でしたとか、そういうことはないだろうし。


 俺は視線をボズに戻す。

 俺から言葉をかけられるのを、申し訳なさそうな顔で待っている。


「済まないな、余計なことが気になってしまった」

「どの部分が余計だった!? やはりハットの形が――」

「ボズよ、何が言いたい」


 問いかけると、彼は深く頭を下げる。


「説明が遅れたことを謝罪させていただきたく」

「……説明?」

「はい。もちろん、人間が見た目で判断する生き物というのは理解しております。彼女には今まで何度も服を買い与えようとしたのですが、デス様の好みが分からないからと拒否していて……もっと早くに対応するべきでした。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」


 めちゃくちゃ謝られてる。

 仮に俺の好みに合わせたいのだとすれば、ボズに出来ることなんてほとんどないと思うのだが。


 どうも、ボズは俺のことを高く評価しすぎだと思う。

 いかに俺がギルドマスターだといえど、もう少し対等に扱ってくれないものか。


「……ボズよ」

「はっ!」

「畏まりすぎだ。俺とお前は共に一つの目標を達成しようとする仲間なんだ。ミスをしたなら他のメンバーがカバーすれば良い。そこに感謝は必要だが、過ぎた態度はかえって失礼になるとは思わないか?」


 そう言うと、ボズは顔中から汗やら涙やらを吹き出しながら、またしても頭を下げる。


「その寛大なお言葉――恐悦至極にございます! 私、より一層精進いたします!」


 ダメだ全然伝わってない。


「……とりあえず、レイラの服を買おう」


 異性のファッションには疎いが、この通りにある店は栄えているから人気があるはず。

 目についた店に入ってみる。


「いらっしゃい兄さん! イカしたガタイだねぇ!」


 威勢の良いオッサンに挨拶されたが、どうやらここは男女どちらの服も売っている店のようだ。

 入り口から右側が女性用、左側が男性用のエリアになっている。


「よし、レイラ。好きなものを選んでくれ」


 レイラは無表情ながら口をすぼめた。


「デス様に選んでいただきたいです」

「えぇ……」


 骨格がなんだとか、どんな服が似合うとか想像もできん。

 だが、自分で選べと言ってもレイラは引き下がらないだろう。


「なら、いくつか気に入った服を持ってくると良い。そこから俺が選んでやる。戦いでは小さな判断ミスでも命取りになる……時間はかけないように」

「――っ。わかりました」


 適当に言ったら上手いこといってしまった。

 俺の目ではギリギリ追えないくらいの速度でレイラが服を見ていく。

 三十秒後、彼女は二着の服を手にしていた。


「こ、これとこれを選びました。……どうですか?」

「ほう……」


 片方は白いワンピースだ。

 彼女の髪の色とよく合っていて、着れば奴隷から美少女にランクアップ確実。


 もう片方は黒い……なんだこれ?

 上下ともにピッタリとしたサイズ感で、たとえるならスポブラとスパッツだ。


「……なるほど。片方は個人的な好みで、もう片方は戦闘時の機動力を重視しているわけだな」


 クレイドが横から解説してくれる。

 さすがオシャレさん。ハットを被っているだけのことはある。


 だが、どっちを買ってやるべきか……。

 レイラの好み的にはワンピースらしいが、いざという時に動きにくい可能性がある。

 逆に後者だと際どいというか、目のやり場に困る。


「……よし、どっちも買ってやろう」


 レイラの手から二着を取り、カウンターへ持っていく。


「――で、デス様っ……」


 俺が貧乏に見えたのか、レイラは驚いた顔をしている。

 続いてボズまでもが口を開いた。


「デス様、ここは私が払いますので!」

「何を言っている。レイラは俺のために努力を重ねたんだろう? このくらい安いものだ」


 本音を言えば財布に大ダメージだったが、自分を慕ってくれている子の服を部下に買わせるなんて、それこそ沽券に関わるというもの。


 寒い懐事情に勘づかれないように手早く会計を済ませると、服をレイラに手渡した。


「……まともな服を着せてやれなくて済まなかったな」

「そんな……デス様から贈り物をいただけるなんて、もう死んでも良いくらいです」


 買った意味がなくなっちゃうからやめようね。

 そう言いたかったが、潤んだ目でこちらを見つめてくる少女には言えない。


「……私からも感謝を。ありがとうございます」

「ははは、気にすることはない。その分、ボズには良い武器を買ってもらおうか」

「――はっ! 王都の職人に声をかけておきますッ!」


 これが冗談だって分かってるよな?


「……まぁいい。依頼に向かうとしよう。レイラは着替えてくるといい」

「ありがとうございます」


 小走りで試着室に向かったレイラ。

 数分後、出てきたレイラは白いワンピースを着ていたが、手にはボロ布しかなかった。


「どうですか、デス様」

「よく似合っているが……もう一着はどうした?」


 すると、レイラはワンピースの裾をピラッと捲る。


「――ッ!?」


 細く白い太ももに思わず目を逸らすが、彼女の意図はそこではなかった。


「…………下に着てるわけ?」

「そうです。戦闘の時に瞬時に脱ぎます」

「それ、手間じゃない?」

 

 レイラは誇らしげに鼻を鳴らした。


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