デス・カイザーと雑談
クレイドの物騒な考察は信じていなかったが、やはり人間。
心のどこかでは「こんなことが起きたら……」と考えてしまうものである。
しかし、その不安に反して道中は何もなく、なんなら俺たちは商人と意気投合していた。
「――そしてその時、デス様は仰ったのです。『奴隷とて人間だ。命があるのだとしたら俺が救う。宿命があるのなら共に背負ってやる』と」
「や、やはりデス様は高潔な精神をお待ちのお方ッ! このボズ、改めて仕えたく思います!」
「コイツの背には、一体どれほどの重圧がかけられているのだろうか。俺たちには知ることができないやもしれん」
「いやぁ、一つのギルドに収まるには惜しいお方ですな! そんな方に護衛してもらえるなんて……」
もちろん、もちろん過去の話はレイラの創作である。
今世でそんなイカした言葉を吐いた覚えはない。
機会があれば一度くらい「呪いに蝕まれているのなら、俺が祝福に変えてやる」とか言ってみたいけど。
ただ、レイラのパチのお陰で商人の警戒が解けたのも事実。
彼は緩んだ目元で俺やボズを見た。
「それに……ボズさんも私が想像していたような方ではありませんでした」
「……と言いますと?」
商人は頬をかきながら「はは」と苦笑を浮かべる。
「私は失礼にも、奴隷を労働力として使い潰すような方だとばかり。しかし、まさか正反対だとは……素晴らしい志です」
「なにを仰いますか。私など、デス様に比べたら児戯に等しいものです」
「それほどまでに、この方に心酔していらっしゃるのですね」
「えぇ……この方は制度を、いや世界を変えてくださる。私には分かるのです」
ボズは言い切って、俺を横目で見る。
俺は気付かないふりをして、流れる景色に意識を向けることにした。
「夜までにはバルフェスタに到着するだろう」
一時間が経ち、陽が落ちかけてきた頃。クレイドが言った。
バルフェスタとはどんな街なのか。
これまで何度か拠点を変えて資金集めをしてきた俺だが、知らなかった。
「……こほん。レイ――クレイドよ、バルフェスタとはどんなところなんだ?」
最初はレイラに聞こうかとも考えたが、彼女は知らないだろう。
クレイドは俺とレイラを一瞥して答えた。
「従者に対する心遣いか。いいだろう、俺がバルフェスタについて教えてやる」
「デス様……ありがとうございます」
「気にするな。我々は仲間なのだから、情報共有は当然だろう」
だんだん、この人たちの勘違いに乗っかっていく方が楽な気がしてきた。
俺の一人称が「俺」だったり「我」だったりするあたり、気が抜けているのが自分でも分かる。
「バルフェスタは簡単に言えば港町だ。すぐ近くにはドゥーダという山もあり過酷な地形ではあるが、人間たちが力強く生きている」
この世界では海路はあまり発達していないようだし、近くにデカい山があるのなら攻められにくいのではないだろうか。
しかし、それは一方で生活基盤を築きにくいということにもなる。
そこに街を作り上げるのは並大抵の苦労ではなく、だからこそバイタリティに溢れた人々がいるということだろう。
「力強いと言えば、海沿いでは剣が錆びる。だがバルフェスタは敢えて鍛治に力を入れていて、人工的に生み出された魔剣があるとか。人間の考えることは面白い」
「魔剣とは――」
商人としての血が騒ぐのか、ボズが会話に入ってくる。
「一般的には魔族の方が剣に魔力や呪いを込めて作り上げるものでしたね」
「あぁ。しかし人間は属性の魔石を嵌めることで、戦闘中に詠唱を解さず魔術を行使する術とした」
「剣そのものに力が宿っているか、剣と魔術が一つの器に収まっているかの違いですね」
魔族の魔剣は斬撃そのものに効果が発生するのに対し、人間の魔剣は斬撃とは別の攻撃ができるということか。
そんな高価そうな代物、俺には縁がないな。
考えていると、クレイドがこちらをチラチラ見ている。
いや、俺ではなく、俺が背負っている大剣をだ。
「デスのそれは魔剣なのか?」
「いや、普通の剣だが」
「それにしては……少々大ぶりですな」
ボズの見立ては正しく、俺レベルの冒険者は片手剣を使うのが一般的だ。
取り回しの良さや、空いた手で盾を持つことができる。
反対に大剣には力が求められ、攻撃の際に隙ができやすい。
最低でもSランクくらいの実力がないと使いこなすのは難しい。
しかし、俺の身体ではどうも片手剣は軽く、振るっている気にならなかった。
そんな理由もあって、俺は武器屋の端で埃をかぶっていた一本を愛用しているのだった。
日本円に換算して五千円。
値段的にもかなり手が出しやすい一本。
「金が問題だったのさ」
上級の冒険者しか使わないなら、そもそも製作本数が少ない。
上級の冒険者しか使わないなら、値段も釣り上げられる。
「真の強者は得物で語らないということか」
「生き様そのものが武器と……いうことですな」
「デス様かっこいい……」
どうとでも捉えるといいさ。
俺は平和主義なんだ、彼らの前で武器を振るう時など来ないだろう。
そうたかを括っていた俺の耳に飛び込んできたのは、進行方向近くの森。
――何者かに木が倒される音だった。
めちゃくちゃ進んでいない話のように感じますが、実はあとあとの伏線かもしれません。嘘かもしれません。
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