1 黄色い線の外側
2月の冬、張り詰めた空気の寒さに耐えながら
終電を待っていた
今日は俺の誕生日
でも祝ってくれる人は一人もいない
父も母も俺を残して、先に死んでしまった
これは俺が小さい頃に父さんから聞いた話だが
母は元々持病があったようで、体が持たず
俺を産んでくれた代わりに死んだ
父さんは俺が部屋で引きこもってゲームをしてる
間、仕事帰りに車に引かれて死んだ
父さんが死んだ日は今でも鮮明に覚えている。
半年間頑張ってクリアしたゲームに喜びのあまり
近所の店で酒を買って
帰ろうとしていた時のこと、
信号が赤になっているのにもかかわらず
たくさんの人だかりと一緒に救急車の音がした
気になって俺は少し背伸びして現場を
覗いてみたら、救急車の中に運ばれているのは
父さんだった
お医者が言うには
父さんは頭の打ち所が悪かったそうで
今から治療をしてももう遅いと言われた
俺は父さんがゆっくりと死んでいくのを
見ることしか出来なかった
そして父さんは死んだ。
頭が追いつかないまま、
死亡証明書を書き
すぐに火葬の話に進んだ
今までは父さんが一人で働いてくれていたが、
もうお金を稼いでくれる人はいない。
豪華な葬式は大金がかかるから、
できるだけ安い金額で小さく済ませた
次に
俺は家の引き出しと父さんの部屋を手当たり次第
探ってできる限りのお金を集めた、
10…20…30…40……ざっくり140万円はあった
相当な金額だ…!
それでも一生生きていくには安すぎる
最初は社会に出るのが怖くていつも通り部屋に
引きこもっていた、
あまりにも働くのが怖くて自殺も考えたが
命を削ってまで産んでくれた母の事を
思いだし、ふと俺は玄関前の家族写真を見つめた。
…もしここに母さんがいたらなんて言っただろう
そうして手取りが4000円になった時
俺は人生で初めての就職を決意した
会話が苦手だからか
俺は何度も面接に落ちながら
やっとの思いで特殊清掃員という職に就けた。
中学生の頃は
グロい画像をみる俺がかっこいいと思っていたから
怖くなっても強がって沢山見ていた
だから少しは耐性があると思っていたのに
俺は手を合わせ、お辞儀をして他の仲間達と一緒にマンションの中に入って行った
「………お邪魔します。」
実際現場に行くと画像からでは想像出来ない
ほどの悪臭がする…この世の匂いとは思えない、
そして壁や床、天井にまで小さな虫がびっしり…
天井がやけに狭いと思ったら床は尿の入ったペッ
トボトルや食べかけの空き缶、ごみ袋が重なって
床を埋めていたことに気づく。
死体はもう先に片付けられていたが
部屋の端っこに小さな布団が敷いてあり、
マットレスには寝ていた痕跡があった。
半年間も放置されていたらしく
腐敗した体の油がシーツに染み付いていた
長年働いている先輩に教えてもらいながら
今日もなんとか乗り切った
そうして今、真夜中に電車を待っている、
ずっと部屋にいたからか、今日もすごく疲れた…
そういえば、
休憩中に、先輩から聞いたのだが
実は、この部屋で死んだ人と死ぬ前から
面識があったらしい。
その人の本名は知らないようだがゲームで
たまたま知り合い、その後ゲーム外でも会うようになったようで死ぬ前の彼は
自身の名前を サイロー と名乗っていたそう
サイローは優しく、怪しい人にも親切にしてしまうそうでよく詐欺に引っかかっていたとか…
先輩は涙目になりながら話していた
「サイローは本当にいい奴だったんだ、話すときはほとんどゲーム内でだったけど…しばらく
会わないと思ったら、
ここでまさか再会する事になるなんてな、不幸なのか奇跡なのか……」
先輩の言葉を聞いて、何となく
サイローさんは俺と少しにている気がした
いや、俺が優しいとかそんなんじゃないけど
サイローさんの部屋が俺と似ていたんだ
俺は心の中で、サイローさんがどこかで
報われることを願った。
今日あったことを思い出しているとお腹が
小さく鳴った…あーお腹すいたな
あの部屋から出たのに匂いがまだ鼻の奥に残ってる…今日も昼ごはんは一口も進まなかった、
でも丁度いいや、
だってそのお陰で今日はお金は使わずに済んだか…
「オェッ…うっ…」
あの時の光景を思い出して吐き気がした、
近くに並んでいた人達が俺を見始めるので
咳をするフリをしてなんとか誤魔化した
人の視線は苦手なんだ、こっちをみないでくれ。
寒さに凍え震えながら電車を待つ。
気持ちの悪さと空腹が俺を襲う
寒いけれど金が無いから何も買えない
お金は家賃に全て使ってしまった
こんなに仕事が辛いなんて思わなかった
こんなに苦労する事になるなんて思わなかった
悔しくて、だんだん俺が惨めな人間に見えてきて
誰かにすがりたくても誰にも連絡出来ない
そんな信頼できる人、周りには一人もいない
……ずっと前の事…
俺が再び部屋に戻る直前、
父さんは少し心配そうな顔をして俺を引き止めた
「ゲームばかりしてないで、たまには仕事でも探してみたらどうだ?最近ちょっとキツくて…」
そんな父さんの言葉を思い出した
…………家族の大切さに築くのに遅すぎたんだ
駅のスピーカーからアナウンスが流れた
やっと電車が来るようだ
俺は電車が来る直前に駅のホームに飛び出した。
今日は俺の誕生日
ここで俺の人生は幕をおr
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ひ、人が…」
「終電で自身事故?!どうしてくれるんだよ!!」
「とりあえず、乗客の人に説明を…」