終章 温かな木漏れ日の下で
カバラを出発してから丸一日経った。
陽の光が零れる林の中、前を行くアカツキに着いていく。
ほどなくして木の数が少なくなり、緑の草原が私の前に広がった。
「――いい場所だな」
温かい光に満たされた景色を目にして、アカツキが吐息を漏らす。
彼と同じ光景を見て、言葉を返した。
「ああ……そうだな」
葉の上に乗った雫が光を吸って瞬いている。
瑞々しい茎の先に、薄紫の菫と純白のハルジオンが咲いていた。
花の咲いていない道を選んで、アカツキと共に白と紫の草原を進む。
アカツキが進む先には一本大きな木が佇む丘があった。
その丘の上まで歩いて、二人とも腰を下ろす。
心地いい風が頬を撫でる。
木陰の下、草原を眺めながらアカツキが話しかけてきた。
「結局、追手は来なかったな」
「うむ。ソーレに見つからずにここまで来れてよかった」
緊張の糸が切れ、そのまま大樹に寄りかかって休む。私の隣でアカツキも同じようにしていた。
そうしてしばらくの間、二人で景色を眺めていた。
懐に入れていたものが私に語りかけてくる。
――言わなければ、いけないな。
アカツキの方を見て、白藍の瞳と目が合う。彼も同時に私の方を向いていた。
「……アカツキ、そなたは私と共にいていいのか?」
「……」
「そなたは私の父を殺め、私はそなたを憎んでしまった。一緒にいても、辛くなるだけかもしれない。昨日、そなたのことを眷属と言ったが……ここで、別れた方がいいのかもしれない」
白藍の瞳は静かに私を見ている。その中に私の橙色があった。
「アイリーンは……これからどうするんだ?」
「……さあ、な。昨日は必死に理想を語ったが、正直何も当てがない。『魔王』が居なくなった今、私はただの魔人だ。夢を諦めるつもりはないが、どこかで野垂れ死ぬかもしれないの」
私の返事を聞いてアカツキが心配そうな顔をする。
そんな顔をするな。私はもう、大丈夫だ。
そなたが勇気をくれたから、私は変わることができた。
寄りかかっていた木から離れ、陽の光を浴びて立ち上がる。
アカツキの顔を見て、いつか語った夢を改めて彼に伝えた。
「心配することはない。私は決めたのだ。どのような苦難にも勇気を出して立ち向かい、太陽のように輝くと」
白藍の瞳を真っすぐ見て、私の願いを彼に届ける。
「アカツキ、そなたも好きに生きよ。父を殺めたことは許せないが、そなたの幸せを願っているのも本当だ。――私を助けに来てくれて、ありがとう」
アカツキの瞳が光を映して揺れている。
彼は今、何を思っているのだろう。
悲しんでいるだろうか。
怒っているだろうか。
胸に湧き上がった感情のまま、もう一度彼に願った。
「私は自由に生きて夢を見る。そなたにも、そうしてほしい」
「……うん。わかった」
アカツキが立ち上がって、ゆっくりと私の方に歩いてくる。
何をするのだろうと思いながら見ていると、私の手を彼が握ってきた。
繋いだ手を互いの胸の位置まで上げて、アカツキが言う。
「俺は、君の隣で生きてみたい。辛くなっても、かまわない」
青空のように澄み渡った瞳を見て、気づいた。
アカツキはもう決めているのだ。私のそばにいることを。
――ああ。
もう、本当に。
面倒な男に、つかまってしまった。
「……まったく、勝手なやつじゃな。私の気持ちはどうなる?」
「それは……ごめん」
懐から笛を取り出す。
俯いた彼の頭に手を回して、それを首に掛けた。
はっと驚いたような顔をして、アカツキが自分の首元に目を向ける。
私が彼に贈った笛が、陽の光を浴びて輝いていた。
この胸に息づく温かな気持ちが伝わるように、彼に笑いかける。
「仕方ないの。もう少しだけ傍にいてやる。私の旅が終わるときまで、な」
私の表情を見て、アカツキが微笑んだ。
「一緒に行こう。アカツキ」
「ありがとう。アイリーン」
温かな木漏れ日に祝福されて。
少女と青年の、長い旅が始まった。
読了お疲れ様でした。著者の川守いのるです。アイリーンとアカツキの物語はここでいったん終了です。
本作はア二セカ小説大賞という新人賞に応募していたものですが、残念ながら落選してしまったものです。
今後の「太陽号令」についてですが、ここまでの内容をブラッシュアップして新人賞に応募しようと思っております。恐れながら小説家になろうでの更新は止まってしまいますが、より面白い「太陽号令」を読者の皆様に届けることを目標に頑張って参ります。これまで「太陽号令」という物語に付き合っていただき、まことにありがとうございました。それではこれにて。
日々を生きる貴方に、太陽の加護があらんことを。




