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太陽号令  作者: 川守いのる
第一巻
10/16

民の章 ある酒場での論争

アイリーンとアカツキは出てきませんが、重要な章です。

伏線となる描写も入っていますので、読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 太陽暦九九九年十二月三十日。王女アイリーンの公開処刑まであと二日。

 城郭都市カバラにある酒場で、三人の魔人がテーブルを囲っていた。

 猫人の娘、犬人の青年、()(たた)んだ翼を背負う鳥人(とりひと)の男が話し込んでいる。

 申し訳程度に並べられた料理には誰も手を付けていない。

 閑散(かんさん)とした酒場の中心で、論争が始まっていた。

 議題は二日後に実施される、王女アイリーンの公開処刑について。

「納得いかねぇよ!」

「……そんなに声を(あら)げなくても聞こえている」

「そうだよ。あまり興奮しないで。シモンの賛同者に告発されるかもしれないんだから」

 犬人の青年は彼らの言葉を聞いて、悔しそうに歯噛(はが)みした。

 彼は返事をする代わりに、卓上の酒をひったくるように掴む。

 猫人の娘が呟いた。

「千年続いた魔王様の治世もこれで終わるのかな。王女様が処刑されるってことは、他の王候補も危ないってことだよね」

「……可能性はある。執政官シモンは一貫した男だ。何らかの方法で王族の力を()ぐだろう」

「そうなったら……どうなるの?」

 不安を顔に滲ませて猫人が()く。

 眉根(まゆね)を寄せて鳥人が答えた。

「ベルンシュタイン家が粛清(しゅくせい)された場合、シャムスの指揮系統の頂点は各都市の執政官たちになる。順当にいけば、ソーレとの停戦を成したシモン・ハスターが代表になるだろう」

 鳥人がそこまで語ったところで、テーブルにジョッキが叩きつけられた。

 それまで黙って酒を飲んでいた犬人が、静かに怒りを滲ませる。

「……お前らは悔しくねえのかよ」

「俺たちの感情は関係ない。平民の俺達には、執政官に逆らう権限がない」

 犬人が跳ね上がるように立った。(あし)に押し出された椅子が勢いよく転がる。

「ちょっと!」

 剣呑(けんのん)な気配を察し、猫人の娘が青年を(いさ)める。

 しかし彼の(うな)りは止まらなかった。

 やがて我慢(がまん)が効かないといった様子で、犬人が()えた。

「――どいつもこいつも権利、資格……もううんざりだ! そもそも執政官の権利は魔王様から預けられてるもんだろうが! それを使って王女を処刑するなんておかしいだろ!」

「……いや、おかしいことではない……気持ちはわかるが。王族が処刑された前例はある。なによりジブリール様が亡くなった今、権利の所有者たる『魔王』がいない。したがってここカバラにおいては、シモン・ハスターが最高権力者だ」

 鳥人の男に続き、猫人が青年に言う。

「ソーレとの和平のためには……仕方ないよ。王女様のことを嫌っているわけじゃない。私たちのために頑張ってくれていたことは知ってるから。でも……もうどうにもならないじゃない。沢山魔人が死んで、食べ物もなくなって……今停戦しないと、近いうち餓死者(がししゃ)が出るってシモンが言ってた。王女様を差し出さないと、天雷の聖女と四戒剣がここに攻めて――」

「クソがぁっ!」

 犬人の青年が力任せにテーブルを殴った。(こぶし)から血が流れている。

「――! 無駄なことをするな! 物に当たって何になる!」

「るっせぇんだよぉっ!」

「オレはガキの頃ジブリール様に助けられてんだよ! あの人が来てくれなかったらどうなってたかわかんねえ! だから今度はオレが王女様を助けなきゃいけねぇのにっ……! 気に入らねえんだよ! 頭でっかちな脳みそで理屈こねて気分いいか!? 平和な時は調子よく(あが)めて危ねえ時は生贄(いけにえ)か!? 話になんねえ! てめえらに相談するんじゃなかった!」

 鳥人の男が立ち上がる。

「……表に出ろ」

「やめて! 二人とも! ここで暴れたって何も変わらない! そんなこと許されてない!」

 酒場が静まり返る。(さわ)いだ彼らを(とが)める者は、いない。

 この場にいた誰もが同じ思いだった。

 犬人と鳥人はしばらく(にら)みあった後、乱暴に椅子に座り直した。

 古びた木の床を見つめて、青年が呟く。

「この国は、どうなるんだよ……」

「……わからない。ただ、以前のような生活を送れないことだけは確かだ」

 誰もが下を向いた酒場を見渡して、娘が言った。

「一年前は、こんなことになるなんて思いもしなかったな」

「ここにはもっと人がいたし、みんな楽しそうだったよね」

「全部……悪い夢だったらいいのに」

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