【別視点】大剣使い ヴァッシュ・ストラトスの回想
主人公ではなく別視点のお話です
ヴァッシュ・ストラトスという傭兵の方です。
一応飛ばしてもメインのストーリーとは関係ないので問題はないです。
俺はそれなりに強い。
そもそもこの傭兵ギルド『鷲の爪』の幹部に一年ほどで上り詰めたのだ。
才能が無いと鷲の爪の中で評価されることは無い。
ギルド長からも才能と素材は一番だと言われ続けてきた。
そんな俺が今、ピンチに陥っている。
なぜこんなことになってしまったのか、発端は急にきた依頼主である商人の頼みからだ。
通常は護衛の任務は1週間は前に申請してもらってから、こちらが準備するのが通例なのだが、この商人はどういう訳か今すぐこの街を出る必要があると焦った様子で伝えてきた。
なにか、きな臭いものを感じたが俺たち7番隊がしばらく待機を命じられて暇だったこと、商人が急に依頼する代わりに通常の5倍の依頼料を出すと言ったこと、その依頼を聴いたのがたまたま俺で他の幹部連中は話を知らないこと、色々なことがかみ合い俺の独断で依頼を受けることにした。
人数はいつもより少ないとはいえ、うちの部隊の精鋭10人と急に募った冒険者5人で十分な任務のはずだった。
それほど遠い場所まで護衛するわけでもない。
商品も別に大きくない。そこそこ大きな箱が2、3個あるだけだ。
普通の商人より運ぶ荷物は少ないくらいだ。
いつも通りの準備で、いつも通りの警戒で、いつも通りに護衛していた。
それで、十分なはずだった。
商人はそれでも異常に怯えていた。
「おれ達の護衛で何か不安なことでもあったか?」
一応商人との認識のすり合わせも護衛のうちだ。
どの商品が価値があるものなのか?守る優先順位や逃走の仕方など、同じ認識にしていないといざというときに行動に迷いが出る。
「い、いや特に問題は無いのだが、絶対に私だけは守ってほしいのだ」
「わかった」
商品よりも自分のことを守ってほしいという商人は多い。当たり前だ、自分の命が無いと商売なんて出来ないのだから。
おれは特に疑問に思わず商人の言うことにうなずいた。
ある人通りの少ない森近くを通った時に、嫌な予感がした。
魔物の数がいつもより少ないのだ。
いつも通りならここに来るまでで倒した倍は魔物が出るのだ。
魔物が少ないときは何か理由がある。
近くにさらに強い魔物がいて他の魔物を殺しているときか、すぐ最近魔物を狩るやつらがこの道を通ったかだ。
どっちの理由にしても気を付けた方が良い。
もし魔物を狩ったやつらが傭兵などであれば問題は無い。
だが、もし盗賊などであった場合自分たちの敵になるからだ。
俺は一人警戒の度合いを一段階引き上げた。
みんなにも注意を促していた方が良いだろう。
「おい、お前らここからは気をつけ……」
その瞬間、パンという破裂音とドサッという音が隣から聞こえた。
部下のカティックが死んでいた。
「敵がいる!臨戦態勢をとれ!」
周りを確認する前に指示を出す。
俺は即座に指示を出しながら背中の大剣を鞘から取り出す。
出した瞬間、顔のところに弾丸が飛んでくる。
身体を屈め瞬時に大剣で防ぐ。
弾丸をはじいた。
周りを見ると、仲間たちも同時に射撃されていた。
その射撃で2、3人はやられた。
どう考えてもおかしい。
これは明らかに準備されていたな。待ち伏せか。
ただ俺を集中して狙ってはいない。
待ち伏せはリーダーから殺すのは基本だ。指揮系統を無くした方が後の奴らを処理するのが楽だからだ。
なら俺を狙わないということは俺たちのことを知らないから。
なぜ知らない俺たちを狙った?商人がいるから?
だが、盗賊は普通もっと金を持ってそうなたくさん商品を運んでいる商人を狙う。
待ち伏せするほど計画的ならなおさらだ。
どの商人も狙うという奴らもいるがそういう強欲な奴らは大抵行き当たりばったりで襲ってくる奴ばかりだった。
待ち伏せするほどのモノをこの商人が持っていたということか?
くそっ、今考えてもしょうがない。
とりあえず今はここを生き残らないといけない。
「あれを使う。その間に態勢を立て直せ」
俺は大剣を大きく振りかぶり、大剣に土魔術を付与して地面に叩きつける。
『アース・クエイク』
土魔術には、硬度を変えたり、重量を変える付与魔法があるが、俺が付与したのは振動。
剣を刺した地面の周囲に振動を起こし相手の行動を止める。
どこにいるかわからない敵と戦う時はこれが一番いい。
俺の仲間にはこの魔法のことを伝えてある。
地面を揺らしている間に動揺していた連中も心の準備ができるだろ。
そう思っていたら、地面を揺らしているにも関わらず仲間が1人頭を狙撃されて殺されていた。
そんなバカな!地面を揺らしている範囲は半径300メートルだぞ?揺れている地面の中狙撃なんてまともに出来る訳がない。まさか300メートル以上離れたところから狙撃を?この森の中で?
どんなやつが狙ってきているんだ。
とりあえず技を中断する。
するとその瞬間周りにいた仲間が5人被弾した。うち2人は死んでいる。
なるほどな。大体掴めてきた。
一人優秀なスナイパーが外側で待機していてこちらを狙っている。
そして近くの茂みに数人のピストルを持った奴らがいる。
銃を持っているやつですら少ないのに、ここまで優秀なスナイパーがいるとはな。
地面を揺らしている間こいつらは動けなかったが、外のスナイパーが狙ってくるって訳か。
しかも隠れている位置も毎回変えてやがる。
用意周到すぎる。普段の彼らなら奇襲が来たとしても致命傷を避けることぐらい出来る。魔術も使えるし、それぐらい優秀な部下たちなのだ。だが、そんな彼らを一撃で仕留めにかかる奴らの方がこういう事に慣れているとしか思えない。
バラバラの位置でしかも死角からの一斉射撃なんて普通の盗賊はしてこない。
確実に俺たちを殺しにきている。
しかもこちらに遠距離武器を持っている者はいない。
最悪なまで相性が悪い。
分の悪い賭けだが仕方ない。
突撃するしかあるまい。
「俺が引きつける!動ける者は人が隠れていそうな近くの茂みに攻撃を仕掛けろ!」
俺は自分の周りにいる、まだ動けそうな数名にそう言いつつ詠唱を始める。
俺の持つ最強の土魔術を発動する。
『グランドアーマー』
自分の身体を地面の様に硬くする魔術。単純だがそれゆえにわかりやすく強い。俺が一番頼りにしている魔術だ。銃弾ごときなら容易く弾く。ただし効力は60秒だけだ。
手早く大剣を地面に突き刺し、そのまま無防備に腕を広げ前に突っ込む。
周りの茂みから一斉に俺に向けて銃弾が飛び交う。
部下たちは俺の身体の後ろに隠れている。
銃弾が止んだ瞬間を見計らい、部下たちが各自銃弾が飛んできた方向にある茂みに向かって剣を振り下ろす。
敵の悲鳴が聞こえる、予想通り茂みに隠れていたようだ。
ここは部下に任せればもう大丈夫だろう。
俺は遠くにいるであろうスナイパーを見据える。
当たり前だがスナイパーからの銃弾も何発も俺に当たっている。
グランドアーマーを使っているにも関わらず痛みを感じる威力だ。
通常ではありえない。
何か魔術で補助されている弾丸だと思って間違いないだろう。
もしかしたらあの距離で的確に当ててくるのも魔術のせいか?
そんな魔術聞いたことないが…。
とりあえず牽制する必要があるだろう。
「みんな、借りるぞ」
死んだ仲間の武器を拾い魔術を流し込む。
通常、魔術を武器に流し込んで効果を付与する場合、武器が壊れない量しか流さない。
流せる許容量は武器によって違うが、良い武器ほど許容量がデカい。
仲間たちの武器は俺の大剣に比べれば劣るが十分良い武器だ。
その武器に限界を超えた量の魔術を無理やり流し込み貯める。
過剰な魔術を流し込まれた武器は少しでも衝撃を与えると暴発した魔術の奔流によって爆発する。つまり、今爆発寸前になっているこの武器をスナイパーのいる方に投げ込めば、お手軽爆発投擲武器で牽制することが出来るって訳だ。
武器を風の魔術で誘導しつつスナイパーがいそうな方に2,3本投げ込む。
直後、地面に届く前に空中で爆発した。
「こりゃ予想以上に強敵みたいだな……」
俺は、投げた剣や槍が空気の抵抗やらなんやらで爆発しない様、風の魔術で膜を張って覆っていた。それをアイツは空中で膜を打ち破りつつ剣を撃ち落とした。どんな制度の射撃だ。
こっちの唯一の遠距離攻撃も防がれたとあったらとれる手段は一つだけ。
「全力で突撃する‼‼」
迷っている暇はない。
「サク!俺は遠くのやつを倒してくる!ここはお前に任せる」
「ちょっ!そんな無茶……」
側で戦っていた仮面の男である副隊長のサクライに、簡潔に伝えて向かうことにする。なんか言ってたが無視だ。
アイツなら大丈夫だろう。
スナイパーに背中を向けて、大剣を地面に振り下ろす。
剣には火と風の魔術を同量流し込んでいる。
2つ以上の魔術を同時に使用し、別の魔術へと昇華させる魔術の極意『複合魔術』
俺はこの複合魔術が使えることでこの地位まで上り詰めた。
火と風の複合魔術は『爆発魔術』
火の火力を強め、風の範囲を広げた魔術。俺の得意技だ。
それを地面に叩きつけた衝撃で俺の身体はスナイパー方向に吹き飛ぶ。そして、風の魔術で滑空する。飛んでいる間は無防備になるが、まだグランドアーマーの効力が残っている。
銃撃が飛んでくる方まで近づいてきた。
「あの茂みだろう」
明らかに一つ人が隠れられそうな茂みがある。
俺は空中で爆発魔術の準備をする。
着地と同時に茂みに向かって爆発魔術をぶち込む。
ちょうどグランドアーマーの効果も切れる。
「くらえぇええええ、『大轟撃』」
……?思った衝撃はこなかった。魔術の不発?
瞬間、後方の仲間たちがいた方が爆発した。
「今のは、爆発魔術?」
俺以外に爆発魔術を使うやつがいる?そんなことあるのか?
いや、使えるとしたらもっと早めに使ってきていたはず。
そして、もう一つ不自然なことが。
目の前の茂みには人っ子一人いなかった。
その代わり、空中に黒い穴のようなものがある。
なんだ?これは、見たことがない。
魔術ではあるのだろう。だとすればあのスナイパーの?
穴をのぞき込もうと少し近づいた瞬間、黒い穴から弾丸が飛び出してきた。
咄嗟に身体をひねったが、左肩に当たる。
その場に無いものが急に現れた!?
その時、ある一つの魔術について思い至った。
以前、カシラに聞いたことがある。
闇の魔術の最高位には重力や空間を操るものがあるという。
空間魔術……。そんなものが本当に実在してるとは。
ということは、今までもここからではなく別の場所から狙撃をしていたということか。
そんなもの本体のいる場所なんてわかる訳がない……。最強の暗殺術だ。
……いや、待てよ?
先ほどの爆発。不発だった俺の爆発魔術。そして茂みにある空間魔術。
まさか!
俺は後方の仲間がいる方に顔を向けた。
すると、火の魔術が上に打ちあがる。
あれは仲間と決めていた、緊急時の連絡法。
火の魔術を上に一発は、『全滅の危機、火急の集合』
俺は顔を青ざめて仲間のもとに急いで駆けた。