神と神
『…………いった?』
蒼い光の玉がひょこっと顔を出す。
『ったく、全部俺に任せた上に静かにいなくなりやがって。めんどくさいことを全部ボクに押し付けるんじゃないよ』
白い玉が嫌味交じりにそう返す。
すると蒼い玉はバツが悪そうに言う。
『悪いね。私は演技下手だから、どうしてもああいうのは苦手でね……』
『まぁ、いいけど』
『どうやら彼は信じてくれたみたいだね』
『ああ、もっと疑われるかと思ったけど予想以上にあっさりだったね』
白い玉は安堵した様子である。
『それにしても、キミはよくあんなに平然と嘘がつけるよな?私は良心がいたんでしょうがなかったさ』
『それこそ嘘だろ。だって、彼を選んでここに連れてきたのはお前だ』
白い玉は呆れ気味に言葉を吐き出す。
『確かに選んだのは私だけどね。推薦したのはキミだろ?ましてや記憶を消して、あまつさえ彼の大切な人もこっちの世界に引き込んでいる』
『……しょうがなかったのさ。この世界を救うためにはね』
『でもさ、あそこまで綺麗さっぱり記憶消さなくても良かったんじゃないか?』
『いや、俺が消したのはごく一部の記憶だ。……たぶんあそこまで記憶が消えているのは、前の世界の記憶が辛過ぎたせいだろう。自分で耐えられず無意識に消してしまったんだと思う』
白い玉は蒼い玉にそう説明した。
蒼い玉は納得すると喋り出した。
『なるほど、そういうことだったんだね。まぁ、結果的に良かったんじゃない?後々の彼の行動を誘導できる訳だし』
『彼にはどうしてもこの世界の魔王を消してもらう必要があるからね。たとえ彼が死ぬほどつらい目にあったとしても』
『むしろつらい目にあわせる方が主目的なんだろ?』
『まぁ、そういう側面があることも否定しないけどね』
『……彼は、今度こそ魔王を倒してくれるかな?』
蒼い玉は少し思案気に言った。
『大丈夫。またダメならもう一回記憶を消してやり直してもらうだけさ』
白い玉は無慈悲にもそう言い放つ。
『簡単に言うね~。さすが神様、無慈悲って訳だ』
蒼い玉は明るい調子でからかうように言った。
白い玉は少し落ち着いた口調で喋り出す。
『むしろこれはボクの最大限の慈悲なんだけどね』
『そして、そこまでして苦労して魔王を倒した彼にキミは告げるわけだ』
蒼い玉は皮肉気に間をためて白い玉に言い放つ。
『最後のその瞬間に、キミは死んでくれ。それがこの世界を救う条件なんだ、ってね』
『…………』
『ほんと残酷なことするよね。神様って』
『キミも神だろうに』
『そうだよ、私もキミと同じ残酷な神だ。だからキミと同罪なのさ』
これは蒼い玉なりの慰めだったのかもしれない。
『そうだ、勇者よ。キミの結末には絶望しかない。ハッピーエンドなんて期待するな。絶望しながら前に進め』
白い玉は蒼い玉にではなく、もういなくなった消えた人間に対しての言葉を零した。
それが彼に届くことは決して無いのだが。
そう、これは絶望の物語。
夢のようにチートを振るえる異世界にきた彼を、絶望という現実に突き落とす物語。
彼のこれからには地獄の様に辛い現実が待ち構えているでしょう。
そんな彼が絶望に立ち向かい乗り越え、最後には死ぬ。
そんなサイコーに絶望的なやり直しの旅である。
こうして勇者リョーマの絶望の旅路が幕を開けたのでした。
ここまででプロローグは終わりです。
遅筆な私ですがお付き合いいただけると幸いです。