異世界にきたみたいです
目が覚めるとそこは異世界だった。
なぜ異世界だとわかったのか。
何故なら目の前にスライムとゴブリンがいてどちらが俺を喰うのか口論してるからだ。
こんな非現実的な場面にも関わらず俺の精神はなぜか冷静だった。
しかも、なぜかそいつらが喋っている内容が理解できている。
おそらく神が付与した能力の一つなんだろう。
「コイツは俺が喰うゴブ」
「ダメスラ。コイツは自分が最初に見つけたスラ」
どうやら俺が目覚めたことには気づいていないようだ。
数はどちらも一体ずつ。
おそらく餌を見つけるために単独行動していた個体なのだろう。
とりあえず魔物どもに見つからない様に周りを観察する。
周りは木に囲まれている。側には湖も見える。
湖面に写る自分の服装を見てみると、まるで某ファンタジーゲームの主人公の様な奇抜な黒ずくめの服だった。中二病全開の謎のアクセサリーがたくさんついている上に、穴あきグローブまでつけて黒いコートがバサバサ風に揺れている。
カッコいいが動きにくそうな服だ。
よく見れば容姿も前世の俺とは違う。
俺が好きだったゲームで、自分の容姿を美化して作ったものに近い気がする。
目はキリッとしているし鼻も高く身長も高くなっている。西洋風の顔立ちに近くなってる気がする。
前世では似合わないと馬鹿にされたデコを出した黒髪センター分けの髪型も清潔感のあるスタイリッシュな顔立ちに見える。
だが、ここはゲームの世界ではないだろう。なぜならあのゲームは、ゴブリンやスライムと戦うゲームではないからだ。どちらかといえば人同士の戦いを描いたゲームだった。
ここはどんな世界なんだろう。
腰には二本の刀が差してあった。謎は多いがどうやらこの武器で戦えってことらしい。
一応自分の能力についても把握しておこう。
頭の中で能力について考えると薄いウィンドウみたいなものが
目の前にあらわれステータスを確認できる。
筋力や魔力、俊敏さは現在上げられる上限に達していますとの表記がある。
スキルについてもいくつか流し読みする。
何個もあるが説明欄を見るだけでも強そうなのばかりだ。
特にこの『重力操作(自)』『空中ジャンプ』『ガード不能攻撃』がわかりやすく強そうだ。
ただ一つよくわからないものがある。
■■特典『神の加護・■■の否定』
スキル名も所々読めないが、説明欄がすべて文字化けして読むことが出来ない。
まぁわからないものは今考えても仕方ない。とりあえず目の前の魔物をどうにかしよう。
静かに立ち上がる。
魔物どもは相変わらず言い争いしていて気づいていないようだ。
駆け出し、走りながら腰の刀を抜く。脚の速さも以前とは比べ物にならないくらいの速度が出る。
この時点になって、魔物二体もこちらの様子に気づいた様で迎撃態勢になっている。
型も切り方も分からないはずなのにイメージした様に身体が動く。
まるで夢か、ゲームのキャラを操作しているみたいだ。
スライムは酸性の液体を吐き出し、ゴブリンはナイフを持って切りかかってくる。
それをジャンプして避ける。それだけで二階建ての建物くらいは飛び上がり驚く。
自分の重力を操作し反転、空中側に落ちる様にする。そして、その空中を地面を踏みしめる様に蹴り出して空中ジャンプする。
急に姿を見失った魔物たちは俺の姿を探してキョロキョロしている。
その無防備な姿に向け、近づきながら刀を二本交差させながら魔物二体を同時に切りつける。
「クロス×バイツ」
技名っぽいのを適当に叫びカッコつける。
刀は見事に魔物を両断したみたいだ。
切りつけた後、地面側に自分の重力を戻して着地をする。
生き物を殺したというのに、抵抗感や実感は無い。
おそらく、神が施した精神耐性のおかげだろう。
だが、別の実感はある。
「そうか、ホントに異世界に来れたのか…,…」
俺の呟きは異世界の風にさらわれ誰にも届くことはなく消えた。
いや、正確に言うとある生き物には届いていたらしい。
上空から【龍】が俺を睨みつけながら降り立った。
その図体はゆうに20メートルは超えてるだろうとひと目でわかる。
「そこまでのスリルは求めてなかったんだがなぁ……」
その【龍】は口を大きく開けて何かを吐き出そうとしてるので、俺はどうやってここから逃げ出せばいいのか頭を巡らせつつ、自分の武器を握りしめていた。