ミリアside
「失礼いたします! 旦那様!」
泣きながら戻ってきた奥様。あんなにも色気に溢れて愛らしくて美しい奥様を泣かせやがっただと!?
入室許可なんて無視して、力任せにドアをノックして入室したところ、奥様以上に悲痛な顔をした旦那様に出会いました。
「ミリアか……ユリーシャは大丈夫か? すまないな……」
「えっと……なぜあのような愚かな真似をなさったのですか? いつものように欲望のまま動けばいいではないですか」
お前は僕をなんだと思っている、とでも言いたげな瞳を向けられたので、言い返すことができますか?と視線で問いかけると、旦那様は俯いた。結婚して1ヶ月、毎夜毎夜奥様を無理させた自覚はあるらしい。
「呪われたんだ」
「は?」
「愛し愛される女性をそういう意味で愛するとその女性が死ぬという呪いを……」
「クソみたいな呪いに呪われて帰ってきましたね。世間一般での初夜っていう日に」
「そういうことで、下手にユリーシャに近づいて自分を抑えきれなくならないように、距離を取ろうと思って」
「その呪いのことを奥様に……あ」
「そうだよ。あの事件を思い出させるようなことをしたくはない。せっかく忘れているのに」
「呪った相手は誰なんですか? そこまで考えて呪ってきたんですか?」
「……立場的に明かすことのできない人だよ。ただ、そこまで考えて、僕たちを不仲にしようとしてきた可能性は高いよね」
「うっはぁー。厄介なのに目をつけられたんですね、旦那様……。わかりました、難しいかと思いますが、私どもも奥様のフォローに回らせていただきます。早く解いちゃってください」
「精一杯頑張るよ。すまない、ありがとう」
項垂れた旦那様は捨て置いて、当家の使用人に緊急事態を知らせます。情報を共有し、奥様のフォローを徹底するように努めます。
さて、私は奥様のところに戻って慰めますか。
「奥様、失礼いたします」
「ミリア。アレンに怒りに行ってないですか? 迷惑をかけてはいけませんよ?」
「ちょうど旦那様に用事があったので事情を伺いにいきました。男性は、物理的に愛せない体調になることがあるのです。ただ、プライドにかかわることなので、本人には絶対話してはいけませんよ? 旦那様は自信をなくしていらっしゃいます。今、奥様と接触して、そういうふうになれなかったらもっと自信を無くされるかと思いますので、極力近寄らないようにしてあげてください」
「……まぁ。アレンは大丈夫ですか? 私が近づかない方がいいのね…………頑張るわ」
「頑張ってください、奥様」
その日からお二人は最低限の挨拶のみされ、社交もお二人でのご出席は控えられました。
落ち込んだ様子で、しかし、お仕事としての教鞭はしっかりととられる奥様。
ご無理なさらないでほしいです。
奥様には呪いのことはお話しできません。奥様は結婚前に、奥様に好意を向ける男性から呪われたことがございます。その呪いのせいで自分が旦那様を殺害しようと動かされました。目の前で倒れる旦那様とご自身の手に握られた凶器。あまりのショックで記憶を失われて、お医者様より記憶を蘇らせるようなことをするなと言われております。
なお、旦那様は鍛えられているせいか、結局普段の訓練の傷に紛れて、傷跡は全くわかりません。
私どもも必死に傷跡が残らないように努力いたしましたから。
旦那様の懇願で婚約解消には至りませんでしたが。
旦那様はおっしゃらなかったですが、私には、今回の犯人が関わっている予感がぷんぷんといたします。
公にできないご身分となると、おそらく王族。予想では、旦那様に好意を向けられていたと有名な末っ子王女様ではないかと思います。
確かに、最近の社交には姿を現していらっしゃいません。塔に幽閉でもされているのでしょう……。
戻ってこられると厄介ですので、少々対策を考えましょう。
「ミリア……少し休んでもいいかしら?」
「もちろんです。奥様」
旦那様に愛せないと言われてから、流石にショックを隠しきれないユリーシャ様。特に最近は眠気を訴えられることも多く、食欲もあまりないご様子です。
「う……うぇ……」
「大丈夫ですか!? 奥様……って、もしかして……? お医者様を呼んで参ります」
「ご懐妊ですね」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます。ミリア……アレンは喜んでくださるでしょうか?」
「もちろんですよ! ただ、大切なお身体に負担がかかると困りますので、奥様はゆっくり寝ていてくださいね」
「旦那様!!!」
「どうした? ユリーシャは体調がすぐれないと言っていたが、大丈夫だったのか!? 何かあったのか!?」
「ご懐妊でした!」
「子を!? 本当か!?」
それはもうこの世の喜びを全て集めたかのような表情を浮かべられる旦那様。って思っていたら、神妙な面持ちになられました。
「僕の子が生まれたら、呪いは解けるって言っていたが……懐妊でもこの世に生を受けたと考えられるのか? それとも、出生が必要なのか……下手すると、子が狙われるぞ」
「どういうことですか?」
「我が家の中なら比較的結界に守られて安全だが、相手が相手だからな……」
「王女殿下の手の者が旦那様と奥様の子を狙いに来るってことですね?」
「……相手が王女って話したか?」
「話してないです」
「だよな……まぁいい、バレているなら話は早い。ユリーシャの妊娠は極力隠して、ユリーシャは家から出ないようにしてほしい」
「つわり中はお仕事を休まれるように懇願できますが、安定期に入られたら、お仕事にいかれる可能性があります。また、お医者様にも口止めをしないと」
「医者には我が家に常駐してもらうように依頼しよう。また、口外した場合について誓約させよう」
「わかりました。あと、ちょっとだけ王女殿下に痛い目見せていいですか? 安全のためなので」
「……罪に問われない範囲にしろよ? ミリアが抜けるのは痛い」
その夜、王女の幽閉される塔に忍び込み、食事にある薬を入れました。この国では知られていない、薬です。
善人薬。簡単にいうと、善人になる薬ですが、素が悪人であればあるほど、副作用が強く出ます。副作用については、想像にお任せいたします。
「……ミリア。王女が幼子のようだと聞いたのだが、何したんだ」
「いいえ。私は王女が善人になるよう、お祈りしただけです」




