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アレンの変化

 あの日の朝は、いつものようにお話をしていました。


 次期辺境伯といえども、まだまだ義両親が現役なので、王都の辺境伯邸で私たちは暮らしております。


 アレンは王城に勤めていて、私は貴族学園でたまに教鞭をとっております。




「アレン。今日のお戻りはお早いですか?」


「そこまで遅くはならないけど……ユリーシャは?」


「今日は、貴族学園での子女教育の講義がありますが、そちらが終われば帰宅できます」


「早く仕事を終わらせて、ユリーシャの講義が終わるまで待っているから、一緒に帰ろう」


「ありがとうございます」





 そう言って一緒の馬車で出勤いたしました。



 私が馬車を降りる前には、いつものように優しく口付けをしてくださり、そっと抱きしめて耳元で……これは私だけの秘密にしておきましょう。


 いつものように学園の教職員出入り口までエスコートしてくださいました。……もしかして、アレンにお手間をかけすぎてしまったせいでしょうか?


 以前、アレンの負担になるかと思って毎朝のエスコートを断ったところ、とても悲しそうに“毎朝の僕の癒しの時間を奪うの?”と言われてしまったので、続けていただいていたのですが……。そうですわね。私は愛していない妻ですから……明日の朝からは、1人で歩いて参りましょう。


 ……もしかして、お仕事を早く終わらせてくださっているのもご負担かもしれません。アレンは優秀だと聞きますが、それでも業務量が変わらず勤務時間が短くなるのは大変なことでしょう。もしかしたら、お昼を抜いていたり……大変ですわ。明日はお弁当を作ってお渡ししてみましょう。……ご迷惑かしら? 以前、ピクニックに行った時は、喜んでくださったけど。



「ユリーシャ! お弁当を作ってくれたの? ユリーシャの作ったものが食べられるなんて夢みたいだ。僕のためにつくってくれたんだね?」


「え、えぇ。そんなに喜んでくださるなんて、嬉しいですわ。お口に合うといいんですけど……」


「ユリーシャの作ったものが口に合わないわけないよ。でももったいなくて食べられないな……保存魔法で保管しておいて、毎日少しずつ食べたら……」


「せっかく作ったのだから、アレンが今食べてくれたら嬉しいです。また、お作りいたしますので」


「約束だよ?」



 そう言って、美味しい美味しいと喜んで食べてくださいました。以前お約束したのですから、きっと嫌がられることはないでしょう。お手紙をつけておいて、アレンがお嫌でしたら控えます、と、お伝えいたしましょう。






 あの日、講義を終えて外に出たところ、いつもなら待っていてくれるアレンの姿が見当たらず、アレンの部下のエドワード様と馬車だけがいたのです。


「奥様……その、アレン様はトラブルがあって、仕事が終わらず……大変申し訳ございませんが、私がご自宅までお送りさせていただきます」


「まぁ! そんな大変な中、エドワード様が抜けてしまったらご迷惑ではないでしょうか? 私、1人でも帰れますわ?」


「いえ! 詳細はお話できませんが、今のところのトラブルはアレン様だけなので! 念の為に奥様を決して1人にするなとアレン様から申しつけられておりますので、お願いですから一緒について行かせてください」


「まぁ。でしたら、お願いいたします。お時間があったら我が家で一息ついて行かれますか? それとも、お早めに戻られた方がよろしいのでしょうか?」


「うーん……念の為、少しお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか? ……アレン様に自慢できるし、警備の確認のために必要なことだからな」


「では、お茶をご用意いたしますね。何かおっしゃいましたか?」


「いえ! なんでもございません!」






 そう言って、エドワード様とご一緒に帰宅して、おもてなしをいたしました。これでもお茶を淹れるのはうまいとよく言われます。きっと、エドワード様にもご満足いただけたでしょう。



 エドワード様が帰られてすぐ、アレンはお戻りになられました。タイミング的には入れ違いでしたので、もしかしたら何かお話しされたのかもしれません。




 落ち込んだ様子で、しかし、どこかイラついたご様子でご帰宅されたアレン。

 そして、あのセリフをおっしゃったのです。



「おかえりなさいませ、アレン。今、エドワード様がおかえりになられたところです。お仕事が大変だったみたいで、お疲れ様です。いつもお忙しいのに、ごめんなさい」


「いや。いいんだ……。その、すまない。ユリーシャ。やはり…………君を愛せない」


「え?」


「今夜から1人で寝ることにする」


「は、はい」




 きっと捨てられた子犬のような瞳をしていた私を目に入れないように、アレンはそう言って去って行ってしまいます。



 貴族として感情を抑えなければならないとわかっておりましたが、あのときは眼からぼろぼろと涙がこぼれ落ちてしまいました。侍女であるミリアに支えられながら、夫婦の寝室に入り、考えていたところです。


 奇しくも、今日は貴族における初夜に当たります。結婚して1ヶ月。関係性を築いた上で、そういった行為を行うのが一般的です。

 ただ、私たちの場合は、アレンに“やっとユリーシャが手に入ったと思うと我慢できないんだ”と結婚した日に言われ、そこから毎晩、共に眠っておりました。




 ……貴族の義務として、後継を残さねばなりません。そして、今夜は初夜に当たります。……その、愛していただけるのか、確認に行く分には問題ありませんでしょうか? 1人で眠るとおっしゃってはいらっしゃいましたが……。

 愛していない女性でも、男性はそういうことができると、以前聞いたことがあります。


 断られる覚悟で聞きに行ってみましょう。ミリアに相談したら、お任せください、と、服を用意してくださいました……これを着るんですか!?

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