表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

#01 バラッド邸襲撃事件

帝国歴1520年4月8日 21時18分


~エドゥアルド帝国内 貴族バラッド候邸宅~



この邸宅の主、インサル=アル=バラッドは一刻ほど前から自室で、とある手紙と向き合っていた。


『1週間後4月8日22時00分

貴族 バラッド候邸宅内のダイヤモンドの指輪を頂戴しに参上する。

怪盗 ファントム』



達筆な字で書かれた白い手紙には赤い蝋で封がしてあり、一目で金持ちが出したものだとわかる。


バラッドは、怪盗が何かをわかっていない。


そもそもこの世界に怪盗という存在はいなかったのだ。


しかし、その手紙の内容から邸宅内に保管してある“あの”指輪が盗まれようとしているということだけはわかった。


バラッドは内心ほくそ笑む。


「(馬鹿め!こんな手紙など出してきおって!この時刻通りに来れば兵に捕まり、来なければこないでそれは良いこと。むしろこの予告のおかげで兵たちの警備意識の強化に繋がったわい。)」


ニヤニヤとその顔に笑みを浮かべながらバラッドは後ろにたっていた文官に問いかける。


「で?警備の状態は?」

「“あの”指輪は木箱に入れ、この邸宅の中央の保管庫に保存しております。」


文官はバラッドに事細かに現在の状態を告げていく。


「本日は本来非番の兵も出動し、万全の体制を敷いております。」


バラッドはまた笑みを浮かべる。


「ふっふっふっ。これでこの怪盗ファントムとやらも手は出せまい。」


完全に怪盗という存在を舐めきっているバラッドは目の前に置かれた手紙を破り捨て席を立った。


「どれ?その怪盗とやらの面を拝みに行くとしようじゃないか。ふっふっふっ。」


笑顔のバラッドが自室を出ていき文官が取り残される。


扉の外に出てもなお聞こえるバラッドの笑い声を聴きながら残された文官はニッと笑みを浮かべる。


「さてと、始めるとしますかね。」


ビリビリビリビリ


文官は首の辺りから皮を引っ張って自らの顔を剥がした。


すると出てきたのは、純日本人たる顔。


「よっと。」


文官改め、怪盗ファントムは胸から仮面を取り出すとカチャッとそれを顔にはめ、バラッドの机の中を一通り漁る。


「おっ。あったあった。」


ファントムが見つけた物はこの邸宅の把握図。


事前に一通り調べてはあったのだが、一応という意味で把握図を手に入れておく。


「次はっと…。」


バラッドの自室の窓から外を見る。


バラッドの私兵が5人ほど見えた。


「(全く。怪盗が来るってのにこの程度の警備でいいのかねぇ?)」


ファントムはこの世界に怪盗が浸透していない。もといそもそも認知されていないということをまだ知らないので警備体制の甘さを内心で指摘した。


しかし、いくら警備があまかろうと天下に名を轟かせる(予定)の怪盗ファントムが手を抜くはずもなかった。


ファントムは私兵たちを欺くための罠を準備する。


その準備が終わったころバラッドが部屋に入っていくのを確認したファントムは、バラッドだけは特別待遇をしてやろうと内心決意する。


ここ1週間程バラッドの近くにいたファントムは、この男の劣悪性を痛感していた。


賄賂や奴隷売買など悪行を数えていけば両手の指では数え切れないだろう。


特別待遇のために、ファントムはバラッドの自室にもう一度戻り、目星をつけていた資料を回収。

ついでに、時間をしっかりと確認する。


怪盗たるもの、時間に遅れるなど言語道断。


時間は守らなければならないのだ。


現在時刻は21時55分


ファントムは、もう一度文官のマスクを被り直し、バラッドが待っているであろう中央保管庫に赴いた。







場所は変わって中央保管庫。


バラッドは待ちわびていた。


「(この保管庫の入口はたった一つ。この大扉のみ。怪盗ファントムとやらが入ってきたら兵たちが槍で刺殺して終わりだ。ファントムの首を皇帝に差し出せば、私への信頼度も上がるかもしれない……。)」


バラッドは決意を持った目で扉を見つめる。


「(そのためにも、“あの”指輪だけは守らなくては…。これを奪われるようなことがあっては我が国の“戦力”が危ぶまれることになる…。」


ドクドク


バラッドの心臓が音を鳴らす。


自分のこれからやるべき事の重さを確認するごとに、重圧に押しつぶされそうになる。


ドクドク


時計の秒針とバラッドの心臓の音がちょうど重なるようにして1秒また1秒と時間が進む。


「ゴクリ」


バラッドが生唾を飲み込む。








帝国歴1520年4月8日 22時00分


「静かだ…。」


バラッドの手元の時計は既に22時を回っていた。


「来なかった…のか…?」


バラッドは安心した。


その責務が果たされたとそう心の底から安心したのだ。


しかしその安心もつかの間。


中央保管庫にバタバタと足音が聞こえてきた。


バンッと大扉が開け放たれる。


「何事だッ!!!」


バラッドは大急ぎで走ってきたであろう文官に問いかける。


「ハッ!!門にて、怪盗ファントムと名乗る黒装束の男が!!!」


報告を聞いて、バラッドはニヤリと微笑んだ。


正面から来るのであればこんなに対処しやすいことは無い。


「よし!全兵正門へむかえ!!ファントムを逃がすな!!!」


「「「ウォーーー!!!」」」



兵がファントムを捕らえに駆け出していく。


「(これでもう安心だ。)」


もう安心とたかを括り、かけてきた文官にバラッドは礼を言った。


「うむ。ご苦労だった。そなたのおかげで、ファントムなどという賊は今頃串刺しだろう。ふっふっふ。」


気味の悪い笑みを顔に張りつけ笑いながら、正門へと向かうバラッドを見て、文官は一言こう言った。


「いえ。ありがとうございますバラッド様。これで“邪魔”はいなくなりましたので…。」


「(ん?)」


バラッドは、文官の言ったことの意味がわからず、後ろを振り向いた。








その日は満月の夜だった。


バラッドが後ろを振り向いた時、既に文官はおらず、開け放たれた中央保管庫の扉の中に開かれた木箱が見える。



「ッッッ!!!!まさか!?!?!?!?」



バラッドは保管庫の正面に位置する中庭に飛び出し、上を見上げた。


満月に照らされた黒い仮面の男。


その手には赤子の拳ほどの大きさのダイヤモンドがはめ込まれた指輪がはめられていた。


唖然とするバラッドに気づいたのか仮面の男が話しかけた。


「おや。これはこれはバラッド候。22時00分しっかりとこちらの帝国の秘宝“紫”は頂きました。」


それは、宣言だった。


元々の持ち主であるバラッドに、一応理っておこうという程度の軽い宣言。


それを聞いたバラッドは、顔を赤くし男に向かって怒鳴った。


「おっ!お前!!いっ!一体何者なんだ!!!」


バラッドが叫ぶと同時にガシャガシャと鎧の音を響かせながらバラッドの私兵が走ってきた。


そして私兵が戻ってきたのを見計らって男は全員に聞こえる声で言い放った。


「私の名はファントム。怪盗ファントムです。今後しばらくこのエドゥアルド帝国にて活動を行わせて頂きますので、今後ともによろしくお願いします。」


兵たちは思った。


あれが、ファントムなのかと。


そのぴっしりとした燕尾服のような服装からあまり訓練はしていないということがみてとれる。


なのにも関わらず、バラッドが保有する私兵団約50人を翻弄し、指輪を奪っている。


その事実に兵たちは戦慄する。


そして、同時にファントムはあっそうだ。と思い出したように言った。


「あぁ。それと、こちらはこの街の騎士団に渡しておきますので…。」


ファントムは胸から大量の紙束を取りだした。


その紙を見た瞬間真っ赤だったバラッドの顔色が真っ青になる。


「まっ!不味い!お前たち!早くあの男をとり抑えろ!」


バラッドにその紙が見つかることは皇帝を裏切ることの次に怖いことだった。


バラッドの命を受けて兵たちが走り出す。


「おっとそれでは。」


そして、それと同時にファントムも夜の闇の中へと消えていった。



「早く追え!!!!」


バラッドは兵たちを叱責する。


兵たちが出ていったあと1人残されたバラッドは、芝の生えた中庭に膝をつき吠えた。


「クッ!!畜生!!!」



本能ではわかっていたのだ。


もうファントムには追いつけないと…。







そして後日。



悪徳貴族こと、インサル=アル=バラッドの貴族剥奪の命令が出た。


彼が収めていた地の領民たちは嬉しさに泣き叫び。


貴族から降ろされたバラッドもまた獄中で泣き叫んでいたのだった。



そしてここから怪盗ファントムの名が世界に広がり始めたのだ。




プロローグと合わせまして、ここまで読んで下さりありがとうございます。

少し長かったかもしれませんが、次からは長い話を区切っていく予定ですので、ご安心ください。


さて、これが公開される頃、おそらく私は第5話くらいまでは書いているはずです。


第1章をどれくらいの長さにするか迷っているのですが、1章は少し短めにして2章に入るつもりです。


でも1章に過去編も入れたら長くなるかもしれません。


つまりはまだ何も決まっていないということです。


作者はこれまで何度か途中で執筆を諦めてしまっているので今作こそは完結をめざして頑張りたいと思います。


ので、前置きは長くなりましたが、何卒評価していただけると幸いでございます。(作者のやる気upのためにも)


多分1日投稿のはずですので、また明日の分でお会いしましょう。


(明日からは多少短くなります。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ