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7.推薦状

 アリサはゴクリと生唾を飲み込む。

 一体いつから、そこに居たのだろうか。何故気付けなかったのか一切理解できない。

 フード付きのローブを羽織った謎の人物は両手を上げて声を発する。

 

「敵対する気は無い」


 発せられたのは男の声だった。しかも、アリサとカイルがよく知る男の。

 男はその場で被っていたフードを外す。

 そこに居たのはーー


「ーーヴィクター、様……」


 つい先程までの話題に上がっていたヴィクター・ライラック、本人だった。


「どうやって、という質問は無駄だろうな。元団員であるお前がこの本拠地の構造を知らないはずがない。だがクビになったということを忘れているのか? 無関係の者が騎士団の本拠地に無断侵入する。その意味が分からないはずがない。当然、相応の覚悟はできているんだろうな?」


 カイルは血の繋がった元息子に対して、恐ろしく冷たい声で警告する。

 混じり気のない、本気の殺意が部屋を満たしていく。

 だがヴィクターは直接殺意をぶつけられているというのにどこ吹く風といった具合で飄々と答える。


「元団員だからな。当然だろう?」


「それで? 今更お前が特務騎士団に何の用だ? (いたずら)に侵入してタダで帰すわけにはいかないぞ?」


 カイルは普段の雰囲気とは打って変わって、ひどく冷たい声色でヴィクターに話しかけた。


「我を特務騎士団に復帰させろ」


 あまりにも単刀直入なその言葉に、カイルの表情は僅かに硬直する。


「ふざけているのか?」


「大真面目に決まっておろうが」


「5年前ならともかく、今のお前の魔力量では足手纏いだ」


 そう言ったカイルに、アリサは口を挟んだ。


「で、でも、先の魔術獣の一件と合わせて考えれば、十分な実力は備えているのではないでしょうか?」


 そう言った彼女のことを、カイルはギロリと睨みつけた。


「……っ」


 初めて向けられたその視線に、アリサは全身が硬直する。


「アリサ。特務騎士団だけに限らず、騎士団の理念はなんだ?」


「そ、それは……力あるものの責務として、弱きを助け強きを挫くこと、です」


「そうだ。我々は世間一般の人よりも魔力という力をもって生まれた。その力を有効活用し、魔力という力を持たない人たちの助けをしなければならない。そうすることで、魔力を持たない人たちの営みが守られ、それが回りまわって我々の生活の基盤を支えていただく事に繋がる」


「つまり団長は……、彼が護られるべき弱者だと?」


 クラウゼヴィッツ王国は魔力の強さを絶対の価値基準としている。仮に平民であろうとも魔力さえ強ければ比較的容易にそれなりの地位を築くことができるだろう。


「その通りだ。それに、一度勘当した奴がどこで野垂れ死のうと知ったことではないが、特務騎士団で死人が出るのは勘弁だ。正義の味方ごっこがしたいなら、勝手に一人で死ね」


 アリサは、カイルの発言に酷く驚いた。

 彼は決して、このような心のない言葉を言う人間ではなかった。

 辛辣にも程がある言葉を浴びせられたヴィクターは僅かに苦笑し、小さく呟いた。

 アリサは耳で拾うことはかなわなかったが、読唇術で内容を読み取った。


「相変わらず……嘘が下手な人ですね、父上」


 彼の口はそのように動いていた。

 だが憂いを帯びた表情を浮かべたのはほんの一瞬で、次の瞬間には尊大な態度で高笑いを上げた。


「はっはっは! 散々な言われようではないか! だが反対されることなど百も承知! 一応説得するための小道具も持ってきておるからな!」


 ヴィクターはそう言ってローブの内側をゴソゴソと漁り始めた。


「武器の一つでも取り出してみろ。即刻その首を()ねてやる」


 カイルはそう警告するが、ヴィクターは対して気にしている様子ではなかった。


「そんな事ができるなら、とっくにしているだろう。……お主にはできんよ。実力以前に、その内面的な問題でな」


「知ったような口をきくじゃないか」


「何年傍にいたと思っておる」


 異様な元親子の会話に、アリサは思わず突っ込んでしまう。


「あの、ヴィクター様? 仮にも元息子ですよね? 親に対して凄い態度ではないですか?……」


 そう言われたヴィクターは、不思議そうな顔をする。


「前に会った時に言ったであろう? これが我の話し方だから気にするな、と。それに我の話し方の前に、お主の話し方もどうした? 前はそんなにかしこまっていなかったぞ?」


「え? ……あっ!?」


 あまりに異常な状況にアリサもついつい癖で学院での話し方になってしまっていた。

 幼い頃から、ヴィクターにはそのように話しかけてきたのだから致し方ないことではあるが……。


「べ、別に!? この前は元公爵家の人間だと知らなかっただけだし!? 今はほら、君があの公爵家の神童だって分かってるからつい敬語を使っちゃっただけだし?」


「何だその意味不明な言い訳は……。まあ良い。団長、これだ」


 ヴィクターは心底呆れたような顔をしたが、あまり取り合う必要は無いと判断し、本題に戻った。

 ローブの内側から取り出したのは一通の手紙だった。

 その表面には、アリサの見慣れない封蝋が付いていた。

 

「その手紙は……っ」


 だがカイルにとってはそうではなかったようで、発する言葉に僅かな焦りの色が見えた。

 震える手でそれを受け取り、封を開けて読み始めた。

 そうして手紙を読み始めてから数分後、カイルは渋い顔をして目頭を抑えた。


「どうだカイル団長? 後ろ盾としては十二分と言える推薦状だと思うが?」


貴重な時間を割いて拙作を読んでいただきありがとうございます。

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