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6.特務騎士団団長 カイル・セルランス

「あ~~! イライラする!」


 アリサは茶色のポニーテールを揺らしながら、ドスドスと特務騎士団の廊下を歩いていた。

 力任せに、談話室の扉を開けた。

 バタン! と扉が大きな音を立てる。

 扉の先にはーー


「ーー今日はまたどうしたんだ? らしくないじゃないか? オジサンで良ければ相談に乗るよ?」


 一人の壮年の男性が書類作業をしていた手を止めてアリサの事を見ていた。

 男は短く切り揃えた金髪に切れ長の眼を持ち、理知的な印象を与える風貌をしていた。


「だ、団長……。ここで仕事していたんですか……」


「うん。昼間は書斎で仕事してたんだけど、夕方からは気分転換も兼ねて場所を移したんだ。勿論、持ち出す書類は比較的木っ端なものだけにしてあるよ」


 穏やかな口調でそう答えたのは、特務騎士団の団長を務めるカイル・セルランスだった。公爵家の当主でもある彼はヴィクターの実父である。

 5年前、魔力回路を失ったヴィクターに勘当を言い渡したのも彼だった。


「それで? どうしてそんなに気が立っているんだい?」


「い、いえいえ! 大したことではありませんので……」


「そんなに邪険にしなくても良いじゃないか! 少しでも頼ってくれるとオジサンは嬉しい! ほら、座りな座りな!」


 そう言って己の前のソファに腰掛けるように勧めるカイル。

 とても公爵家の当主とは思えない程に砕けた態度のカイル。だがそんなカイルのことをアリサはそこまで嫌いではなかった。

 とは言え、悩みの内容が内容だけにどう話したら良いものかと逡巡する。


「あ、あの……、ヴィクター様が学院に復学された事はご存知ですか?」


 彼女がおずおずと切り出した瞬間、彼の表情が僅かに強張る。


「ああ。ところで……、今のアイツはただの平民だ。様付けするのは不適切だろうね」


「は、はい。申し訳ありません。つい、癖のようなものでして……」


「それで? アイツがどうしたんだ?」


「あ、あの! やっぱりこの話は止めておきます」


 そう言うと、カイルは苦笑した。


「私が相談してくれと言って、気乗りして無さそうな君から聞き出しているのだから途中で止めるわけにはいかないさ」 


 アリサは申し訳無さそうに話を続ける。


「学院での彼は、何故か力を隠しているようなのです……。その理由が分からなくて……」


 アリサがそう言うと、カイルは眉間にシワを寄せて考え込むような仕草をした。


「ふむ。何故そのように思うんだ? アイツが勘当された理由は公にされていないが、君なら知っているはずだが」


 5年前、魔力回路を失った彼に貴族としての価値はなくなった。クラウゼヴィッツ王国は良くも悪くも魔術と共に発展してきた国である。故に王侯貴族の価値基準には魔術の才能が用いられることが常となっていたのだ。その点で、神童ヴィクターは頭抜けた存在だったと言えるだろう。だが今となっては平民にも劣る魔術しか使えない彼を認めるものは少なかった。


「あ、あの……、つい一月前に私が任務で取り逃がした魔術獣を倒したのがあの方だったのです。一応報告書も上げていたはずなのですが、目にしていませんか?」


「一月前……? その時期は確か……、近隣諸国に出張していて、特務騎士団の業務は副団長に一任していたな……。特別問題がなければ報告しなくても良いと言っておいたとはいえ、報告の必要が無いと判断したのか君の報告書を眉唾物だと握りつぶしたのかのどっちかだろうな」


「そ、そんな……」


「しかし、にわかには信じ難いな。何かの見間違いってことはないのかい?」


「私が嘘を吐いていると?」


「違う違う! 君が正直者だということは疑っていない。そうではなくて、倒したのがヴィクターではなかったとか、そもそも魔術獣が極限まで弱っていたとかそういう可能性は無いかという話さ」


「そんなことーー」


 ーーありえない。そう続けようとしたが、突如団長は椅子にかけてあった剣を引き抜き魔術を待機状態まで展開した。

 団長は真剣な表情で部屋の隅に対して声を掛けた。


「誰だ?」


貴重な時間を割いて拙作を読んでいただきありがとうございます。

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