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2.変哲を煮詰めたかのような頓珍漢な男

「ヴィク、ター……」


 呆然と、アリサはそう呟いた。


(ヴィクター……様……。私のーー)


 一瞬、名前だけ同じの別人かとも思ったが、彼女が彼の顔を見間違えるはずもなかった。

 実際に会うのは5年ぶり程になるが、成長はしていてもその面影は残っていた。

 何よりも特徴的なその金の瞳を持つ者は、彼女が知る限りこの国でも彼一人だった。

 アリサは彼の手を取り、立ち上がる。

 ヴィクターはそんなアリサの顔をマジマジと見始めた。


「な、なんですか……?」


(も、もしかして気付かれた? 私が本当はーー)

 

 アリサは胸をドキドキと高鳴らせる。

 しかし次の瞬間発せられた彼のセリフに、彼女は頬を紅潮させることとなる。

 

「ふむ……。それにしても、綺麗な顔をしているな。大事にするが良い」


「は……? はあ!? な、何急に!? 口説いてんの!?」


 焦りに焦る彼女を見て、彼は愉快そうに笑って言う。


「いやなに、ただ綺麗だからそう言っただけだ。深い意味はない」


(一体誰だ、この変哲を煮詰めたような頓珍漢な男は)


 少なくともアリサの知る彼は、このような性格ではなかった。

 しかもどうやら、彼はアリサの正体に気が付いていないようだ。


「だ、大体何なの? その話し方。まるで物語の王様みたいな、変な話し方」


 5年前まではもっと普通だったはずだ、と彼女は訝しむ。

 普通とは言ってもそれはあくまで言葉遣いの話で、公爵家の嫡男だった彼はその異様な魔術の才から神童と呼ばれ称えられていた。


「はっはっは! 変! そんなに我の話し方は変か!」


「な、何がおかしいのよ」


「いやなに、久方ぶりに師匠以外の人と話すものでな。改めて変だと言われると、何と言うか……。フフフ……。やはり、変なのであろうなぁ……」


「い、意味わかんないんだけど」


 若干引き気味に言うアリサを、ヴィクターは気に留めた様子もなかった。


「まあ、とにもかくにもこれが我の話し方なのだから。気にするな、としか言えんな。それで、お主の名は?」


「…………アリサ」


 彼女は己の正体に気が付かない彼に内心がっかりしながらもそう答えた。

 自身が所属する特務騎士団のことを言うのは憚られた。

 特務騎士団は公に存在する騎士団とはやや立ち位置が異なるため、あまり周知されているものではなかったからだ。


「そうか。ではまたな、アリサ」


 所属を言わなかった事を気にもしていないのか。彼はそう言って踵を返し、スタスタと真夜中の街道を歩いていくのだった。

 アリサは呆然とその背中を見送り、少ししてから、はっと気付く。


「また……?」


 彼の先程の言葉の真意を知るものは、既にこの場にはいなかった。


貴重な時間を割いて拙作を読んでいただきありがとうございます。

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