16.被害状況
「基本的に、王都の外郭地域に被害が散見している。あくまでも今のところという話にはなるけれど、王都中心付近で命成魔術が目撃されたことは一度もないな」
たまたまなのか、それとも何らかの意図があるのか、それはまだ特務騎士団でも把握しかねていた。
「しかもお前がこの国に戻ってくるのとほぼ同じ時期から、匿名の予告状なんてものまで出してくる始末だ」
カイルはそう言って、ボロボロの紙に書かれた予告状を机の上に置いた。
紙にはシンプルな地図と時間が示されているのみだった。
「匿名ということは、一体どういった手段で騎士団の本部に届けているのだ?」
「どうやら風の魔術に乗せているようだな。しかも相当迂回させているのか、基本的に手紙は雨や土で汚れているものばかりだ」
「そんな超長距離を魔術で運べるということはそれだけで魔術の技術が推し量れるというものだが、目的が分からんな。少なからず犯人と関係があるかあるいは本人なのであろうが」
「ああ。正直助かっている面はあるが、差出人が不明のままではどこまで信用して良い物かも分からないしな。ガセネタを掴まされる危険性もあるから過剰な戦力の集中だけは避けなければならないし、かといって今まで嘘の情報が紛れたことがないだけに邪険にもできないしで……、正直判断が難しいよ」
一体こんな事をして、差出人に何の利益があるのか、さっぱり分かっていない状況だった。分からないことだらけではあるが、特務騎士団の最重要任務はあくまでも命成魔術の被害を最小限に抑えることであるため、犯人の捜索にまでは手が回っていないという現状だった。
一応、王国直下の治安維持騎士団に犯人を探させてはいるようだが、まともな手掛かり一つ存在していないため闇雲に探しているだけだった。
「他の騎士団が見つける可能性も0ではないけど、過度な期待はしない方が良いだろうな……」
カイルはそう言って、一息つくために紅茶を一口すする。
ヴィクターも話が一段落したことを感じ取り、同様に紅茶に口を付けた。
同時に、扉が3回ノックされた。
「どうぞ」
カイルが短くそう言うと、アリサが扉を開けて入ってきた。
「失礼致します」
彼女はそう言って丁寧に頭を下げた。
さらりと、滑らかな髪質の茶髪が垂れた。
顔を上げて、僅かにその瞳を見開いた。
「カイル団長はいると思っていましたけど、ヴィクター……もまだいたのね」
反射的にヴィクター様と呼んでしまいそうになるのを必死に堪えた。
「団長に今の特務騎士団が当たっている任務について聞いていたのだよ、アリサ」
「ああ……。サヴァン副団長に勝ったんだからそっか。任務について聞いておかなきゃだもんね」
カイルは二人の様子を見て微笑みながらアリサに話しかけた。
「それで、サヴァンの様子はどうだい?」
「医療魔術師の話では命に別状は無いそうです。いや、まあ別状があったら大問題なんですけどね……」
「我を何だと思っているのだ……。手加減はしたに決まっておろうが」
あれはただの模擬戦であり、殺し合いなどではないとヴィクターは捉えていた。
当のサヴァンは平民一人殺したところでもみ消せると思っていたため本気で斬りかかっていたのだが、それはまた別の話。
実際、ヴィクターが本気を出せばサヴァンの命を取ることは赤子の手を捻るよりも簡単な事だった。あの模擬戦でヴィクターが披露した体術は基礎中の基礎のみであり、本来はもっと攻撃的な手段に用いることも可能な代物だった。
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