13.アリサ
「ええ? そういうものです?」
困惑するアリサに、ヴィクターは愉快そうに笑って言う。
「フハハ! まあ師匠にはまだまだ青いと吹き飛ばされる毎日だがな!」
カイルは苦笑する。
「あの方はまあ、人としての規格が違うと言っても過言じゃないからな」
「えっと、あの方って、一体誰なんです?」
アリサが尋ねると、ヴィクターとカイルが互いに見つめ合ってしまった。
「あ、あの……?」
「師匠は、そうだな……。世界各地を旅している行商人だな。表向きは」
「ああ。ヴィクターの言う通り、あの方は普段行商人をしているな。表向きは」
「何故含みをもたせるんですか!? 裏ではとんでもないことしてる人なんです!? 聞いたら殺されるとか!?」
「いや、殺されはしないと思うぞ? …………多分」
「絶対じゃない時点で関わっちゃいけない人だ! すいません聞かなかったことにしてください! 私はまだ死にたくない!」
焦りに焦ったアリサは、サヴァンを肩に担ぐとそそくさと演習場を後にした。恐らく医務室にサヴァンを連れていくつもりなのだろう。
アリサが去り、カイルとヴィクターのふたりきりになった。
血が繋がっているとはいえ、今では二人の間に公爵家のしがらみは存在していなかった。
僅かな沈黙の後、カイルが言う。
「彼女のこと、本当は気付いているんだろう?」
彼女、とはアリサの事に他ならなかった。
ヴィクターは笑いながらとぼける。
「さてな……。ただ、まあ、彼女が普通に生きてくれているならそれ以上は何も望まぬよ」
ヴィクターの脳裏に、病床に伏せていた彼女の姿が想起された。
額に汗を滲ませ、苦しそうに呼吸をする彼女の姿を嫌というほどに見てきた。何故彼女がこんな目に合わなければいけないのかと、本気で神を恨んだこともあった。神童だともてはやされていても、所詮は人の子であることを当時のヴィクターは思い知らされていたのだ。この5年の間、彼女の銀色の髪と眩い笑顔を思い出さない日はなかった。
ヴィクターの発言はもう、答えを言っているようなものだった。
「そうか……。後悔していないようならそれで良いさ」
「後悔? そんなものするはずがないだろう」
「そうか……。お前は昔からそういう奴だったよ」
そう言って感傷に浸っていたカイルはやがてそれを振り払うように頭を振り、父親としてではなく騎士団の団長としてヴィクターに話しかける。
「取り敢えず、騎士団の現状を教えるから私に付いてきなさい、ヴィクター」
そう言って先導するカイルに、ヴィクターは頷きついて行くのだった。
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