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12.神童の真価③

「ふぅ……」


 やがて砂埃が晴れ、パンパンとローブについた砂を払いながらヴィクターはこちらへと近付いてきた。

 その身には、かすり傷の一つすら付いていなかった。


「あ、ありえない……」


 先日、ヴィクターが魔術獣を砕いた時と同様に、眼前で己の常識を否定される衝撃を彼女は感じていた。

 彼の魔力量が大したことないのは紛れもない事実。にもかかわらず、彼は一体どうやって魔術による攻撃を防いでいるのだろうか?


「内臓が多少傷ついているだろうが、回復魔術さえあれば然程問題となることはあるまい。それで、カイル団長。これで現在の我の実力は分かってもらえただろうか?」


 ヴィクターの問いに、カイルは頷く。


「ああ。想定以上だ。…………よく、頑張ったな」

 

 その一言は、今の模擬戦のことだけではなかった。魔力を失ってからの5年間、ヴィクターは血の滲むような努力を積み重ねてこの高みまで到達しているのだ。その事実を感じ取り、カイルは血の繋がった愚息を心の底から称賛した。

 カイルの感傷を読み取り、ヴィクターはほんの少し頬を染めながら答えた。


「ぬ……っ。ま、まあ! 天才の我にかかればこのぐらいは当然のことなのだよ!!」


 何だか見たことのない反応だったため、アリサはサヴァンに回復魔術をかけながらニヤニヤと話し掛けた。


「あれ? もしかして照れてる?」


「照れてないわ!」


「いや照れてるでしょ。何だ、可愛いとこあるじゃない。……それで、どうやってサヴァン副団長の攻撃を凌いだわけ? こっちからじゃ砂埃で見えなかったんだよ」


 その問いに答えたのは、アリサの隣にいたカイル団長だった。


「恐らく、サヴァンの魔力の波長に自身のソレを同調させて、触れた魔術式の魔力循環を停止させたんだろう。結果として、魔術は崩壊したってところか?」


 カイル団長の推測にヴィクターは同意する。


「うむ。アリサが襲われていた魔術を破壊したのも同様だな。魔術など術式を弄れば壊れる儚いものだからな。強力な魔力など不要なのだ。……しかし、よくあの一瞬でそこまで看破できるものだな?」


 感心するヴィクターをよそに、アリサはあんぐりと大口を開けていた。


「ん? どうしたのだアリサ?」


「ど、どどど、どうしたじゃないよ!? 何でカイル団長もそんな平然としているんですか!? 魔力の波長を同調させるなんて、机上の空論ですよ!?」


 人に流れる魔力の波長は、呼吸や体温、疲労具合や精神状態など、その他様々な要因で絶えず細かな変化を繰り返している。ある程度固有の波長はあり、大きく外れることはないが、それでも一定の揺らぎは生じてしまうものなのだ。

 そもそも、魔力波長は任意に変化させられないとされているのだ。

 だが仮に波長を同調させることができるのであれば確かに、ヴィクターの言うように魔術に干渉することは可能なのであろう。尤も、そんなことができる人間は歴史上存在していないとされているが。


「私はこの子が産まれてからずっと傍で成長を見てきたんだ。だから、この程度で驚いてはいられないよ」


 そう言って心の底からの笑みを浮かべるカイル。ヴィクターは、自身の息子は、魔力を失った今でも神童だったのだと、そう思えたからだ。


貴重な時間を割いて拙作を読んでいただきありがとうございます。


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