11.神童の真価②
「ふざ、けるなああ嗚呼!!!!」
激高しながらサヴァンは起き上がり、再び斬りかかった。
しかしーー
「何ぃ!?」
ーーサヴァンの攻撃はヴィクターに当たる直前で進行方向を変えた。
ヴィクターがやっていることは言葉で言うのは非常に簡単なことだった。
振るわれる剣の側面にそっと指を添わせ、力の流れを逸らす。ただ、それだけの事。
だが、行うが難しにも程がある常識外の行為だった。
「凄い……」
アリサは無意識に、非常に単純な感嘆の言葉を口にした。
ちらりと隣を見ると、カイルもまた、その両目を見開いて驚愕しているようだった。
ヴィクターの身体強化はお世辞にもさほど強力とは言えない。サヴァンの身体強化と比較してしまえば、誤差と呼んでも差し支えない程度には微々たる強化しか為されていないだろう。
二人の魔力量の差を考えれば、初撃で決まっていてもおかしくない勝負だ。
それを、ただの技術のみで覆そうとしている。
ヴィクターは猛攻の中であっても冷静に攻撃を捌き続け、一歩たりともその場から動く気配がしなかった。
(……流石は、副団長と言ったところか)
攻撃を完璧に見切りながらも、ヴィクターは一分の油断もしていなかった。
「ハァ!」
気合と共に振り下ろされるその剣の側面を優しく撫で、自身に当たらないようにする。
ザン、とサヴァンの剣が地面を切り裂き、威力のあまり大地に亀裂が走る。
サヴァンはそのまま斬り返し、横薙ぎにヴィクターの胴体を切断しようと剣を振るう。
勝負が始まってから、ヴィクターは一定の範囲内から動いていなかった。だが横薙ぎに剣を振るうのであれば、流石に後退せざるを得ないだろう。
サヴァンはそのように考えたが、その考えには一つ重大な見落としがあった。
「何……だと……ッ!?」
ヴィクターはサヴァンが横薙ぎに振るった剣を右手で掴み取った。
後退させるには、ヴィクターが攻撃を受け止められないという前提が成立していなければならない。
しかし、たかだか魔力強化された程度の剣をヴィクターが受け止められない道理はなかった。また、剣の刃が当たっている掌の一部だけを集中強化し傷がつかないようにしていた。その異常なまでの魔力コントロールを見抜くことができたのは、その場にいた者の中ではカイルだけだった
ヴィクターは右手で剣の衝撃を受け止め、そのまま左手に流入させる。
「フッ!」
短い吐息共に右脚を大きく踏み込み、吸収した力を全て左拳に乗せて放つ。自らの技の威力はサヴァンの腹に突き刺さり、彼は外壁に勢いよく叩きつけられた。
「グ……、ゴホッ……」
サヴァンはせき込み、地面に鮮血をまき散らす。
一方、ヴィクターは油断なく残心をとりながらもやはり最初の初期位置からほぼ動いてはいなかった。
誰がどう見ても、優勢なのはヴィクターだった。
そんなヴィクターの姿を見ながら、サヴァンは吐き捨てるように言う。
「人が魔術を使わないでやっていれば、いい気になりやがって……ッ」
サヴァンは魔術を使うまでもなく圧倒できると勘違いし、勝手に使用を控えていた。それははっきり言ってしまえばただの驕りでしかない。
(何故常に最善を目指さない? ……昔から変わらないが、やはり理解ができないな)
ヴィクターはサヴァンを見据えて構えながら、そんな事を考えていた。
「我は魔術を使うななどとは一言も言っておらん。使いたければ使え。結果は変わらん」
サヴァンは不敵な笑みを浮かべ、魔術式を展開していく。
「後悔するなよ……ッ!」
直後、数十の風の刃がヴィクターへと飛来した。無詠唱でそこまでの魔術を放つことができる者はそうはいない。この技術一つだけでも、サヴァンは騎士団の副団長に相応しい実力を持つ証拠になりえた。
放たれた風の刃威力はそれ程でもないが、それはあくまでも一般的な騎士団員に向けて撃った場合の話だ。ヴィクターの身体強化では皮膚が容易に裂け、血を撒き散らす結果になるだろう。
「ハァ!」
風の刃と並走し、サヴァンは地面を踏み抜いて加速する。足元と背に風魔術を発動し、先刻までの3倍以上の速度でヴィクターに迫った。
また、ついでと言わんばかりに剣に風属性の付与まで施している。マトモに当たれば仮に魔力を大量に持っているアリサでも一刀両断されかねない。
「流石にやりすぎじゃっ!?」
アリサは反射的に飛び出そうとするが、カイルが手で制す。
「団長……?」
「多分、大丈夫だ」
カイルのその言葉と同時にヴィクターに数十の風の刃とサヴァンの剣撃が打ち込まれた。
ドウッ! と勢いよく砂埃が舞い上がり、二人の様子が一切見えなくなる。
「ど、どうなったの……?」
アリサがそう呟いた瞬間、砂埃の中で鈍い衝撃音がなり、地面が大きく揺れた。
音と同時に砂埃から一つの影が飛び出し、ゴロゴロと転がり、アリサ達の目の前で止まった。
転がってきたのはーー
「サ、サヴァン副団長……」
白目を剥いて気絶したサヴァンだった。普段は色鮮やかな緑の髪は砂と血で見る影も無くなっていた。
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