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10.神童の真価①


 特務騎士団が所有する演習場で、ヴィクターとサヴァンは互いに向かい合っていた。

 サヴァンは片手で持てる直剣を軽く振って感覚を確かめていた。


「お前は武器を使わないのか?」


 カイルがヴィクターにそう尋ねると、ただ一言ーー


「ーー必要ない」


 そう答えた。

 ヴィクターは単純に徒手空拳が最も得意という理由でそう言っただけなのだが、サヴァンはその発言を驕りと受け止め、怒りのあまりビキリと血管を浮き上がらせた。


「あまり人を舐めるのを大概にしておけよ、ヴィクター……ッ」


「別に馬鹿にしたつもりはないのだが……?」


 溝が深まるばかりの二人の間にカイルは立ち、両者の顔を順に見ながら言う。


「それじゃあ、早速始めようか。二人とも準備は良いか?」


「うむ」


「はい」


「よし! それじゃあ、始め!」


 カイルはそう言うと同時に後ろへと飛び上がって、一気に演習場の外壁まで後退する。そうしてアリサの真横にストッ、と軽やかに着地した。

 開始と同時にどちらかが飛び出すと考えたからだ。

 しかしーー


「ーー何故動かない?」


 ヴィクターとサヴァンの二人とも、開始されたその場から動いていなかった。

 サヴァンは自身と同じように動かなかったヴィクターに尋ねる。


「どうした? 私が怖いか? それとも、勝てないと理解して足がすくんだか?」


 その問いに、ヴィクターは眉一つ動かさず答える。


「我が動いたら一瞬で勝負が決してしまうだろう? それでは団長に力を示す事には繋がらない。ただ、それだけのことだ」


「ふ、フフフフ……。ハッハッハッハ!!」


 サヴァンは高らかに笑い声をあげるが、その表情は一切笑っていなかった。

 目をこれでもかと開いて、声だけ上げているのだ。


「こ、こわぁ……」


 カイルの隣で観戦していたアリサは思わずそんな感想が零れ落ちた。

 この4年間でサヴァンの人となりは知っていたし、それほど気が長い方でも無いのは承知の上だ。それでも、これほど激昂しているのは見たことがない。

 いくら何でも煽りすぎだ。これでは、サヴァンがヴィクターのことを殺しにかかってしまうかもしれない。


「その思い上がりごと消してやる……ッ」


 サヴァンは強化された肉体を駆使して全力でヴィクターに斬りかかった。

 特務騎士団の副団長という肩書は伊達ではない。

 恵まれた魔力により強化された肉体が生み出す速度は、常人が反応することすら叶わないほどの超高速の攻撃を生み出す。


(当たる!!)


 アリサがそう確信した瞬間ーー


「ーーなっ!?」


 ーーサヴァンが驚愕の声と共に、演習場の外壁に叩きつけられていた。

 ドゴンッ! と鈍い音を立てて背中を打ち付けたサヴァンは、ドシャリと地面に崩れ落ちた。


「ご、ゴホッ! な、何が……?」


 そう呟いたサヴァンにアリサも心の中で同意した。

 サヴァンの剣が当たると思った次の瞬間には、彼の体は吹き飛ばされていた。

 ヴィクターはその場から一歩たりとも動かず、ただ一言、


「終わりか?」


 そう語りかけた。

 その金の瞳は雄弁に語っていた。

 この程度で終わりなのか、と。


貴重な時間を割いて拙作を読んでいただきありがとうございます。


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