刻印
刻印、なんだそれは。
そう思ったのとほとんど同時、刻印に関する知識が、記憶が、知らなかった、いいえ、知り得なかったはずの情報が頭の中を駆け巡った。それはまるで刻印というものを知っていたかのように、自然に知識として呼び起こされた。
使い方も、何の為にそれがあるのかも、説明される必要性がない。周囲を見れば、理解の及ばない超常現象に、誰しもが呆気にとられていた。
刻印とは、力を求めし者の意志の結晶であり、肉体に秘めし可能性の具現。すらりと、頭の中にそれが浮かんだ。
左手を開き目を凝らすと、微かに手のひらが緑色の光を帯びて、螺旋模様を描いた。
未だ何者にも染まらぬ仮初の刻印。不定の刻印。
そして、力なき者の証。つまり、刻印とはレベルのようなものだろう。
決して死ぬことがない電脳の世界。肉体はAIによって管理され、寿命が来ない限り殆ど死ぬ可能性はない。
果たしてこの世界から抜け出したいと誰が思うだろうか。
外界の一切が遮断され、何も知ることができない隔離された場所。それはある意味では異世界と変わりがないのだ。
少なくとも俺は、痛い思いをしてまでこのゲームに適応するということには乗り気になれない。
刻印。現実と見間違えるほど精巧な世界で目の前に現れた異物を俺はじっと眺めた。
死ぬことがない、ある意味で楽園のようなゲーム。果たしてそんな甘い話があるだろうか。もしかしたらこのゲームの資源は限られていて、それにありつけなかったものはゲームがクリアされるまで空腹感に苦しむかもしれない。
俺は淡く光る刻印が刻まれた左手を強く握りしめた。
覚悟は早いほうがいい。きっとそうだろう。俺は街の外に向かって歩き出した。




