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「悪役令嬢はエルシア・ターシェント。だが君は今現在、市井(しせい)にいる」

「うん」

「実は、悪役令嬢のエルシアもヒロインと同じく市井育ちなんだよ」

「悪役令嬢も⁉」

「そ。エルシアがターシェント侯爵家に引き取られるのは5歳……来年だな」

「な、なんで……」


ターシェント侯爵家なんて知らない。

そんなところに来年引き取られる?

冗談じゃない。


「エルシアの両親は駆け落ちなんだよ。ターシェント侯爵家令嬢と、出入り商人の子息。今もターシェント侯爵家の監視が付いてるはずだ」

「え……」

「身分よりも番が優先されがちだとはいえ、さすがに貴族位のない者とは無理だったようだな」


両親の馴れ初めなんて、初めて聞いた。

それを今日初めて会った相手の口から聞くというのも、なんだか変な感じだ。


「ここからは君にとって残酷な話になる。無理そうだったら止めていいから」

「うん……」


アレジオ君が気づかわし気に手を握ってくれる。

温かくて、少し落ち着いた。


「……エルシアの両親は、娘が生まれた当初は愛情を注いで育てていた」


私の様子を窺いつつ、話し始めるアレジオ君。


「初めは、可愛がっていたんだ。だが、エルシアが育つにつれて魔力も強くなっていき、忌避感から無意識のうちに距離を置くようになる。獣人の本能だな、強すぎる力を持つものを避けてしまうんだ」


……そうじゃないかという心当たりが、ある。

赤ちゃんだったころに比べ抱っこがめっきり減った。

それぐらいなら、重くなったからだと思っただろうが。

手をつなぐこともほとんどなくなった。

だからこうして迷子になっている。

一人で放っておかれることも、最近では多くなっていた。


「そして、いよいよ耐えられなくなった両親によって、エルシアはターシェント侯爵家に送られる。それが5歳の時だ」


でも、そんなはずない。

だって、あんなに可愛がってくれていたから。

手放されるなんて、そんなこと、ありえない。


「大丈夫か?」

「……うん、続けて」

「無理はするなよ?」

「うん」


握った手の力が、少しだけ増した。


「侯爵家では、母親の兄、つまり伯父の子ということになった。白い毛並みに利用価値があると判断されてそれなりの扱いはされていたが、しょせんそれなりでしかなかった。そんな中でもエルシアは必死に貴族らしくあろうとして、結果それが周りには高飛車な性格に見えてしまったわけだ。ヒロインに絡んでいたのも、実は似た境遇のアンジュが庶民感覚を捨てきれていないのを心配してのことだしな」


ゲームの私は、どうやらから回ってしまったらしい。


「そして攻略対象に振られたエルシアは侯爵家内で無能の烙印を()され、いないものとして扱われるようになる」


使えそうだから引き取って、都合が悪くなったら無視。

そんなの、ただの道具じゃないか。


「ここでアレジオが出てくる。さっき、ヒロインとエルシアのモロ被りな番候補に例外がいるって言ったろ?」

「うん」

「それ、実はアレジオなんだよ。ヒロインの番候補には含まれていないが、エルシアの方には含まれてる。だからエルシアはアレジオが近づくのを許したんだよ。で、アレジオには番候補は一人しかいなかった。それがエルシア」

「えっ⁉」


思わず俯いていた顔をアレジオ君に向ける。

空いている方の手で頭をなでられた。


「アレジオはなんというか、かなりの人間不信でなぁ……。育った環境を考えれば無理からぬことではあるんだが。王城は魔窟だし、兄弟仲は王位継承権をめぐる争いで最悪。現に俺、何回も殺されかけてるし」

「だっ、大丈夫だったの⁉」

「まあ、なんとかこうして生きてるよ。そういうわけで、アレジオは人間不信なんだよ。ただし、番候補のエルシアは例外な。周りになんと言われようと前を向き続けたエルシアに、尊敬の目を向けてたくらいだ」


俺もエルシアは例外だな、と言われ、目の前のアレジオ君も人間不信だと悟る。


「そんなアレジオが、傷心のエルシアに近づくのは自然なことだろ? ただ、エルシアを元気づけたかっただけなんだよ、アレジオは」

「えっと、じゃあ、負の感情、魔力の増幅云々(うんぬん)は?」

「乗せられたんだよ、暗躍してる連中に。それでアレジオはエルシアを番にして兄弟を排除し、王位に就こうとした。結果捨て駒にされ、失敗し、暴走する魔力に呑まれてエルシアと心中ってわけだ」


これは……確かに、悲惨だ。

制作陣はエルシアとアレジオに何の恨みがあるんだろうか。

切実に問い(ただ)したい。

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