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「まず、舞台は王城。俺んちな。学園なんてものはない」
王城が俺んちとかいうパワーワード。
「プレイヤーが操作するキャラ……ヒロインは子爵令嬢のアンジュ・フィーデンス。アルビノのリス」
「ヒロインも白い毛並みなの?」
「そ。悪役令嬢が絡んでいく要因の一つだな」
なるなる。
「アンジュは城下町で育ち、7歳でフィーデンス家に引き取られる。その後教育を受けて、ガーデンパーティーに参加するために登城するようになる。このガーデンパーティーってのは、貴族子女のために王城で定期的に開かれてる交流会だな」
「そこで攻略対象や悪役令嬢に出会う、と?」
「そういうこと。そのあたりはテンプレ通りと思ってもらって構わない」
「了解です」
攻略対象に一目ぼれしたり、悪役令嬢に突っかかられたりってことね。
「そこからなんだが、番とか、番候補とかって言って理解できるか?」
「あー、一応は」
番、番候補。
この国、エストラーゼとその周辺国はほとんどが獣人の国である。
獣人は自分と相性の良い相手に惹かれる本能を持っていて、その相手を番候補と呼ぶ。
そして番とは、番候補の中から互いに相性が良い、番候補の中でも特に相性が良いという条件で厳選して伴侶、またはそれに準ずる絆を結んだ相手のことなのだ。
番候補を集めてハーレムを作る獣人もそれなりにいるけど。
金持ちや権力者にハーレム持ちは多い。
なぜ知っているか?
例の読み聞かせです。
泥沼恋愛からの政治問題に発展した話とか幼児向けの読み聞かせの内容じゃないよ。
「悪役令嬢とヒロインの番候補、例外はいるがモロ被りなんだよ。だからヒロインがどの攻略対象を選ぼうと、悪役令嬢はエルシア・ターシェントになる」
わお。
「ヒロインはガーデンパーティーなんかでエルシアと顔を合わせる度に、あれがなってない、これが変だ、とかって絡まれるんだが、飲み物ぶっかけたり足引っかけて転ばせたりってのはなかったな。高慢ではあるが、正々堂々と、真正面からって態度だった。だからわりとエルシアは人気あったりする」
根は良い子タイプの悪役令嬢なのか。
良かった。
「ほっとしてるとこ悪いが、ここから急展開だ」
「え」
「ルートによって時期は違うんだが、条件を満たした時、ヒロインは攻略対象から番の申し込みを受け、エルシアは振られる。婚約とかはしてないから婚約破棄はないんだけどな」
「ふむふむ」
「ここで俺、第三王子のアレジオ・エストラーゼ登場。振られて傷心のエルシアに近づく」
「うわっ悪い奴だ」
「悪役王子って言ったろ」
そういや言ってたね。
「アレジオは闇系統の魔術と親和性が高くてな、エルシアの負の感情を利用して魔力を増幅させようとした。だが失敗してエルシアともども自滅。ジ・エンドだ。言い換えれば死亡フラグ無事回収」
「全然無事じゃないから!」
死んでるじゃん⁉
「とまあ、これが表から見た悪役令嬢エルシアと悪役王子アレジオの物語だ」
「表から見た……?」
「裏……エルシアとアレジオから見た真の物語は、それはもう悲惨の一言に尽きる。これを聞いたらヒロインと仲良くしてフラグ回避、とか生ぬるいこと言ってらんないぞ」
今までの軽口を叩くような態度から一転。
真剣そのもののアレジオ君に、緊張感がうまれる。
「お、お願いします……」
正座をするような心もちで、続きを促した。