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「ちょっとこっち来て」
「えっ? ちょっ⁉」
男の子に腕を取られ、人気のない裏路地近くに連れていかれる。
「確認。君の名前はエルシア、現在4歳。白いキツネでオッドアイ。父親は商人。合ってる?」
「えっ? う、うん……」
なに?
何が起きてるの……?
「うっわどうしよ……」
なにが?
「って、なんで知ってるの⁉ 私の個人情報!」
「気付くの遅いよ」
心なしか男の子の呆れた視線が刺さってる気がする。
「ねぇ」
「なっ何⁉」
「異世界転生キタコレ、とか思ってない?」
その言葉、も、もしや……⁉
「転生者⁉」
「個人情報なんて言葉を使ってるからもしやと思ったけど、やっぱりか」
「え、ないの? 個人情報」
「ないの。プライバシーなんてへったくれもないから。世界観考えてみてよ、あると思う?」
「ないと思う」
でしょ? という転生者仲間君と、うんうんと頷く私。
「ひとまず、せっかくのお仲間さんなんだから自己紹介しておくか、一応」
「一応」
「敵になるかもしれないだろ?」
「えぇ……」
あるかなぁ……?
あったとしたら、勝てる気がしない、切実に。
なんか私より頭良さそうだもの。
私がアホの子なだけなんてそんな事実はありません。
「名前はアレジオ、現在6歳。黒虎で金目。以上」
端的に述べ、フードをちらりとめくって顔を一瞬だけ見せてくれる転生者仲間君改めアレジオ君。
将来確実にイケメンになる顔してる。
「えっと、エルシア、4歳です」
「知ってる」
私も自己紹介しようとしたらぶった切られた。
そうでした、やけに私について詳しいんでしたね。
「ところでエルシア、これ普通の異世界転生だと思ってる?」
「そもそも異世界転生って普通なの?」
「それ言われるとなんも言えねぇな……」
だよねー。
「でもまあ、言っておかなきゃいけないよなぁ」
「なにをでしょう」
改まった空気を感じて、ピシッと気を付けの姿勢。
「ここ、乙女ゲーの世界なんだよね」
「えっ」
「んで、君が悪役令嬢」
「えっ⁉」
「ついでに言うと、俺、悪役王子」
「はっ⁉」
ちょいちょいちょい待って待って待って⁉
「質問いいですか!」
「はいどうぞ」
「乙女ゲーだと知ってるということは、中の人は女性ですか!」
「男だよ! 姉貴に巻き込まれてたんだよ!」
なる。
「質問です」
「なに」
「悪役令嬢が城下町で迷子になってていいんですか」
「一人でなにしてんだと思ってたら迷子かよ! こっちが訊きたいわなに迷子になってんの悪役令嬢⁉」
ノリいいねぇ。
「質問です」
「今度は何⁉」
「王子が城下町で迷子になってていいんですか」
「俺は迷子じゃないから。君とは違うから。城抜け出してきてるだけだから」
「ダメじゃん」
「やることはちゃんとやってんだから文句は言わせねぇよ。第三王子が一人どっか行ったって特に問題はないだろ」
いやあるでしょ。
「とりあえずその乙女ゲーのストーリーざっと教える。変わり種だから、色々変則的でわかりにくいんだよな。そのあとで質問受け付けるから。おーけー?」
「おーけー」
さあ、どんとこい!
「いやそんな身構えないでよ、やりづらい」
「すいませんっした」