ビターチョコレート
こんな世界だったら、という、私の思いを込めて書きました。
「久しぶり。」
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
鬱陶しいぐらい暑い夏の日。
蝉も空も太陽も、うるさいぐらいに夏を伝えてくる。
「あっつ〜!!なんで夏ってこんな暑いの?」
「さあね。僕にはわからないよ。」
「はー!?知っとけよ〜。というかさ、こうゆう日ってアイス食いたくならね?」
「フフ…コンビニ寄るかい?」
「おう、いくいく。」
この日の僕たちはあたりまえのようにくだらない話をしながら歩いていた。でも僕はアイスなんて食べたくない。
ー僕は嘘をついた。小さな嘘を。
ただ1つ、あたりまえじゃないことと言えば、僕は君を好きだということ。
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
俺の隣にはいつもこいつがいた。
幼なじみな訳でもなく、気づいたら隣にいた。親友。
なんでも相談し合える唯一無二の俺のダチ。
でも俺はこいつに言えないことがある。
それは俺に彼女が出来たこと。
普通は男同士だし言えないことじゃない。
・・・でも俺には言えなかった。
俺は知っている。こいつは俺のことが好きだということ。
「好き」って言われたわけじゃない。
でもこいつは俺のことが好きだ。親友の勘ってやつだ。
傷付けたくないからこそ言えない。
いや、俺は認めたくないんだと思う。
ーこいつを好きだということ。
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
「僕彼女が出来た」
「は?まじ?」
「うん。隣町の女子校の子。昨日告白されて、今日返事しようと思って。」
「・・・そっか(ボソ)。あー…寂しくなるな!たまには遊んでくれよな笑」
「…んー、でも僕の初めての彼女だから大事にしたいんだ。これから先あんまり遊べなくなるかも。」
「っ…なんだよそれ。親友の俺より今日これからできる彼女を優先するのかよ。」
「…。君だって彼女がいるんだろう。別にいいじゃないか」
「お前知ってたのかよ…。」
「でも君は親友の僕に何も言ってくれなかったよね。」
「それは!…ックソ!お前のためを思って・」
「もういいよ。何が僕のためだって?僕は君の口から聞きたかったよ。ハァ…僕達はしばらく距離をおかなきゃいけないみたいだね。お互い少し頭を冷やそう。」
「あーそーかい!しばらく?ずっと距離をおいてやる…!」
ーごめんね。でも、これ以上一緒にいたら君に迷惑をかけてしまう…。好きだという気持ちが抑えきれない。ずっと…か…いや、明日にでも謝りに行こう。
本当は告白なんてされていない。これは僕がついた大きな嘘。大好きな親友のためについた…くだらない、大きな嘘。
ー初めて喧嘩したな…。ずっとなんて言っちまったけど、本当は少しも離れたくない。今さら気持ちに気づくなんてな。はは…明日にでも謝りに行くか!よし!
俺はこのとき、あんなことになるとは思わなかった。
誰が思ったって…誰も思わねーよ…
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
「よし、昨日あんだけ練習したんだ。俺ならいける。行ってきまーす!」
ーあいつどんな顔するかな。まだ怒ってんのかな。クスッ…でも…あいつの怒った顔見たいかも。
俺はそんなことを考えながら学校に行った。
あいつに言いたいことを考えながら、どんな顔するのかなーとかなんて返事するんだろうとか、俺の頭の中はあいつでいっぱいだな。
「大丈夫…僕なら言える。大丈夫・・・ゴホッ。風邪でもひいたのかな?こんな夏に…か。ついてないな、僕」
ー昨日あれだけ考えたんだ。でも…やっぱ僕にはこれしか残らなかった。告白をする。振られることぐらいわかってる。でも…後悔はしないだろう。
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
「ゴホッゴホッ。んー、やっぱ風邪ひいたかな…。でも熱ないしな…ゴホッゴホッ。あの…あいついる?」
ーああ、あいつならトイレ行ってんぞ。
「そう…わかった。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぅ…スッキリしたー。あ、そーいえばすぐ近くにあいつのクラスがあるよな…よし!行くか」
ー…あいつに告白したらなんて返事がくるかな。びっくりするかな?笑楽しみだなー。
・・・ドンッ
「す、すみません!僕前見てなくて…。」
「あ、ああ、大丈夫だけど…ってやっぱ大丈夫じゃない。話あるからちょっと来いよ。」
ー聞きなれた声。昨日喧嘩した君の声だ。話…か…。なんの話しをされるんだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「話って…なに?」
「俺、お前のことが好きだ。本当は、認めたくなかったんだと思う。親友であるお前を好きになることを。でも、昨日喧嘩して、距離を置こうって言われたとき離れたくないと思ったんだ。だから俺とつきあ・」
「ま、まって!ぼ、僕のことがす、好きって本当に言ってる?僕お…おとこ…だし。君には彼女がいるじゃないか!」
「おう。本当に言ってる。彼女とは昨日別れてきた。」
「そ、そっか…。」
「んで、どっちなの?付き合ってくれんの?くれないの?」
「…ぼ、僕も好き。君のことが好き…だから…僕で良かったら…つ、付き合ってください。」
「ククク…そっかー…お前が俺の彼氏か…ハァ、緊張した〜。でも、これでやっと俺のものだな。大事にしてやる」
ニヤッと笑った顔でこっちを見てきた君の顔は僕にはまぶしかった。
「君こそ、僕に愛される覚悟をしときなよ」
お前のはじめてみる顔…かわいいな…。
━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━ ━━━━━━
「…フフ。ああ、ごめんね。なぜだか君と付き合った日のことを思い出してね…。懐かしいな。」
「ゴホッゴホッ。ー、そろそろ病院に戻らなくてはいけない。」
ー僕はあのあと、すぐに病院に入院した。癌だった。
「今年も…暑い夏がやってきたようだね。アイス食べよーぜって、君は僕の知らないところで言ってるのかな。」
ー君は僕が入院している間にいなくなってた。
「君の死からもう1年も経つんだね。あっという間だよ…本当に…あっという間に…君はいなくなってっ…」
ー殺人事件だった。警察から逃亡中の犯人に刺された青年がいた。近くの家の人が通報したため犯人はその場で捕まった。だけど、青年は刺されどころが悪く病院に着く前に亡くなったという。その青年が君だった。
「なんで…なんで君なのかと僕は何回も思ったよ…。ゴホッゴホッ。それじゃあそろそろ…またね。」
僕の大切な君へ
ずっと愛してるよ。
ビターチョコレートを口の中に運ぶ。胸が苦しくなるほどに苦いチョコレート。溶けてしまっても、あのときの思い出が僕の口の中にずっと残る。
読んで頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、これからも書いていきますのでよろしくお願い致します。