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飛竜の華  作者: 黒宮涼
哀を唄えば
59/60

これからと、それから(1)

 雲雀ひばりは森の中にいた。

 太鼓たいこの音が鳴ると、周りの木々も一緒に震えて葉っぱを鳴らした。

 竜人族の村の中心には、やぐらが建っている。その周りでは、人族と竜人族が入り乱れて円を作りながら踊っていた。

 今日は感謝祭三日目。竜人族の村へ、人族の立ち入りの許可がでた。二千年続く国の歴史の中で、おそらく初めてのことだろう。

 突然のことに新聞記事や雑誌記事は様々な憶測を立て、二日前の皇城爆発事件となにか関連があるのではと書かれた。しかし、詳細は謎のまま。皇家側からの圧力で何一つ具体的な記事は書かれていなかった。

 

 今回の事件、皇家は未だに混乱の渦中にある。


「踊らないの」


 円の外で一人たたずむ雲雀に声をかけてきたのは、ルリだった。彼女は踊り子の衣装に身を包んでいた。


「そんな気分でもないから」


 雲雀はルリに答えた。

 未だに病院で治療を受けている葵と月見のことを想うと、素直に祭りを楽しめなかった。

  二人は隠と戦った日以来、帝都の病院に入院している。

 ワカバも怪我をしていたが、竜人なので直りが早く。動けるぐらいには回復していた。今は蓮太と二人で街に繰り出しているだろう。


「雲雀ってば、元気なーい。そんな顔してると、月見に怒られるよ。気にせずに行ってこーいって言われたんだから」


 そうなのだ。雲雀は月見に病室から蹴りだされてしまった。


「怒られてもいいよ。やっぱり俺、色々考えたいこともあるし戻るよ」


 雲雀が言いながら踵を返すと、「雲雀、ちょっと待って」とルリに右腕を掴まれた。


「あ、れ」と彼女は人差し指でとあるものを示す。


 雲雀が首をかしげてそちらを見ると、すみれとチトセがどこかへと一緒に歩いていく姿が目に入った。

 菫も病院にいると言ったが、月見に追い出されたらしい。

 面白そうだから尾行しようと、ルリは言った。雲雀はやめとけと言ったが、無理矢理引っ張られていった。

 村から少し離れた場所で、菫とチトセは立ち止まった。

 雲雀とルリは彼らから見えないように、木の陰に隠れて様子を見た。


「話ってなんだ」


 そう切り出したのはチトセだった。


「私、あなたに謝らなければいけないことがあるのです」


 菫は真っすぐにチトセのことを見つめていた。


「何のことだ」


 チトセは首を傾げた。

 雲雀とルリも顔を見合わせる。


「私、ずっと昔にあなたに会ったことがありますよね」


 菫の言葉に、チトセが目を丸くする。雲雀も驚いた。

 事情を知らないルリは小さな声で「ねぇねぇ。知ってる?」と問いかけてくる。

雲雀は「あとで」と小さな声で返した。

 チトセは何と答えるのだろう。まさかこんなチャンスを逃すはずがないよな。と雲雀は思った。

 菫は小さいころ、森でチトセと会ったことがある。しかしその記憶は、妖精たちによって菫の頭から消えていた。チトセは再会の約束をした菫に会いに人間の街にでてきた。

 雲雀は二人がちゃんと再会を喜ぶ姿を見たかった。チトセの記憶の一片を見たとき、あれからずっと思っていた。


「そうだ。思い出したのか」


 チトセは顔色を変えずに頷いて、それから尋ねた。


「いいえ」と菫は首を横に振る。


「ただ、初めてあなたに会った時、なんだか懐かしい感じがしました。そのことを、言うタイミングがわからなくて。だから、ごめんなさい。ずっと黙っていて」


 菫はそう言って、チトセに向かって頭を下げた。


「顔をあげろ。謝る必要なんてないだろう」

「ですが、チトセのこと傷つけました。他にも色々。謝りたいことがたくさんあります!」


 叫ぶように、菫は言った。


「謝るな。俺はお前に感謝しているんだ。幼いお前に出会っていなかったら、俺は今ここにいない。ずっと村に引きこもっていた。でも、お前と約束したから。お前との約束があったから、お前に会いに村を出た」


 雲雀は、菫の目から涙が零れるのを見てしまった。


「何で、泣く」


 チトセは息を吐いた。


「嬉しいからです。純粋に、嬉しいから、涙が出ました」


 菫は涙を指で拭った。

 チトセが困ったように笑った。

 雲雀も思わず顔が緩んだ。よかった。これでもう、思い残すことはない。


「あー!」


 突然、雲雀の隣で二人を見ていたルリが叫んだ。雲雀は驚いて急いでルリの口をふさぐ。


「わっ。ばか」


 チトセと菫がこちらに気づく。


「チーちゃん、なんで菫を泣かしてるの! いじめちゃダメ!」


 ルリは雲雀の手を払いのけてそう叫んだ。

 覗いていたことの言い訳なんてもう通じなさそうな状況だった。雲雀は頭を抱えた。


「お前ら、いつから覗いていたんだ」


 チトセは当然、ご立腹。


「あらあら。違うんですよ。ルリちゃん。いじめられていません。泣かされたのは事実なので否定はしませんが」

「って、おい」


 雲雀はチトセと菫のやりとりに、思わず吹き出す。チトセに睨まれた。


「なんだ。そっかー」


 ルリは能天気に笑っていた。

 緩んでいた顔を正すと、雲雀は改めてルリとチトセ。それから菫の顔を見る。


「あのさ。俺も皆に話があるんだ。俺の――これからのこと」

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