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飛竜の華  作者: 黒宮涼
哀を唄えば
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悪魔のような囁き

 春木夕子はるきゆうこは笑っていた。何がおかしいのか自分でもわからない。

 悲鳴が聞こえる。地面に血が落ちている。原因は自分だ。それはわかっている。けれど止められなかった。自分の中の闇の力が増していくのがわかった。

 竜人の娘が、竜の姿になるのが見えた。憤慨しているようだった。それが何故だかおかしくてまた笑った。何をそんなに必死になっているのか。とても滑稽に思えた。目の前で人が傷つこうがどうでもよかった。自分はどこか壊れている。そういうものだと思った。


「それが本来の姿なんだ。そのままでいればいいのに。何で人の姿になるの。人に恋でもしているの。ねぇ。君たちも愛し合っているの」


 壊してしまわなければと夕子は思う。互いに傷つく前に。彼女たちの関係を壊さなければ。皆が不幸になる。


「知ってる? 竜人と人間は、結婚したらいけないの。どうしてだろうね。皆が反対するの。今すぐ別れろっていうの。それはいけないことだからって」


 かつて夕子には、竜人族の恋人がいた。結婚したいと思っていた。けれど周囲の反対が酷く、それは叶わなかった。互いに不幸になるだけと言われた。どうして。そんなことを言うの。自分は今のままで幸せなのに。彼を愛しているのに。


「あたしたちは別に、そういう関係じゃないわ。ずっと一緒になんて、叶わないのよ。人間の寿命は、竜人族よりずっと短い。今のこの出来事だって、長い人生のたった一部でしかない。けれど、それでも。大切な一部よ。なくすなんてこと、絶対にしたくない」


 竜の彼女はそう言って、夕子をその大きな手で地面に押さえつけた。力の加減を一歩間違えれば、夕子は潰されてしまうだろう。でも彼女はあくまでも夕子を捕らえるつもりらしい。


「そんなことわかっている。でも。だったらどうして共存協定なんて結んだの。なくなればいいのに。そうすれば、こんな思いせずにすんだ」


 竜の大きな顔を見上げながら、夕子は言った。

 夕子の恋人は人間たちの目に耐え切れず、森の村へ帰っていった。自分が傷つくのをおそれていたのかもしれない。裏切られた気分だった。夕子はそれでも愛を貫くつもりだった。一生を捧げる覚悟ができていたのに。


『鍵を開けなさい』


 幻聴が耳元で囁く。


『己の鍵を開けなさい。導きに従いなさい』 


 誰が、どこから夕子に話しかけているのかはわからない。姿の見えない何かがいるようなそんな気さえする。

 己の鍵とはなんだろう。夕子は持っていた鍵を見る。幸い、手は動かせた。


『城へ向かえば、あなたの望みは叶うでしょう』


「そうか……。最初からそうすればよかったんだ」


 夕子は幻聴の意味を理解して、黒い鍵を、闇の主を呼び出す鍵を、自らに刺した。


「何をしてっ」


 驚いた声が聞こえる。

 夕子は自らの鍵を開けた。黒い扉が開き、大きな真っ黒い球体がそこから飛び出す。それは人の姿をとり、目の前に現れた。


「主よ。何なりとご命令を」

「まずは、ここから動けるようにしてもらおうかな」


 現れたおぬに向かって、夕子はそう言った。


 行こう。城へ。そしてすべての元凶を排除するのだ。

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