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飛竜の華  作者: 黒宮涼
哀を唄えば
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父親(3)

 神楽坂菫かぐらざかすみれ奪還にあたり、雲雀ひばりたちは作戦を練ることになった。全員が部屋の前に置かれた背の低い長机の前に座った。

 時間はあまりないことを伝えると、雲雀は野駒日雀のごまひがら深山鶫みやまつぐみのことについてみんなに説明した。父の目的と、鶫が利用されようとしていること。途中、あおいと黒田が頭を抱えたのは言うまでもない。けれど雲雀にはそちらも放置しておくわけにはいかなかった。


つぐみのことも、俺は助けたい。だからみんなの力を貸してほしいんだ」


 雲雀はそう懇願した。問題が大きすぎて、雲雀の手には余る。思い出していたのは黒田の言葉だった。いざとなったら手を貸し、力になるという。だから雲雀はここに戻ってくることを決めた。短剣を手に取れない臆病な自分を手助けしてくれるだろう人たちのこと。数か月前だって、みんなで街を守ったと雲雀は思っている。


「そうゆうことなら仕方ないよねー。チーちゃん」


 ずっとむすっとした顔をしているチトセに笑顔を向けながら、ルリはそう言った。


「ふん。言ったはずだぞ。俺は許す気はないと。どんな理由だろうと。誰に利用されていようと。俺は」

「チーちゃん。意地はってないで素直になろうよ」


 ルリの言葉に、チトセは両腕を胸の前で組んだまま黙り込んだ。


「チトセ。深山鶫のこと、嫌い? 色々と思うところはあるかもしれないけれど、彼女のこと嫌いじゃないなら雲雀に協力してあげてほしい。あたしは、あの子。不器用な生き方しかできないんだと思う」


 ワカバがしっかりとチトセの目を見て、言った。


「あー。もう。今回だけだぞ」


 それでようやく折れたのか、チトセは頭を右手で掻きむしりながら言った。ワカバはそんなチトセを見て微かに笑みを見せた。


「雲雀よう。飛び出していったときは心配したが、そんなことになっていたとはな。つまり深山さんがおぬの媒体にされるのを防げば、皇帝陛下は殺されずにすむし、城内を混乱させずに菫さんを助け出せるかもしれないか」


「陛下の目的がわからんから、何とも言えんぞ。蓮太くん」


 蓮太の言葉に、黒田が難色を示す。


「皇帝陛下が隠をおそれているのは間違いないだろう。だったら、いっそのこと隠を利用するというのはどうだろう」


 葵が言う。雲雀は目を丸くした。


「ちょっとまってください。それは、鶫を見捨てるということですか。俺は、鶫と菫さんの両方を助けたいんです」

「雲雀くん、落ち着いて。別にそんなつもりで言ったんじゃないんだ。勘違いしないでほしい。鶫さんから出た隠の話じゃないんだよ。今朝の爆発の件だ。隠の鍵を持つ者の標的が鶫さんに移る前に、それこそ助け出さなければいけない」


 葵が慌てて説明したことに、雲雀は自分が焦っていることに気づいた。


「すみません」


 雲雀が謝ると、葵は首を振った。


「いや。俺も言葉足らずだった。すまない」


 葵が謝る必要はないのに、と雲雀は思った。焦るのは良くない。冷静な判断をしなければ。今回は街一つでは済まない。国の命運がかかっているのだから。


「葵。僕はその案には賛同できない。隠を利用するということは、誰かがその罪をかぶらなければならない。鍵の所有者の目的がわからない以上、得策ではない」


 黒田が真剣な表情で言った。正直、隠については現時点でわかっていることが少なすぎた。誰が、何のために。何をしようとしているのかがわからない。


「なら、どうやって菫を助ける! 俺はもう警戒されていて城には入れない。帝国騎士団の名目は使えない。城は厳重な警備。正面から行っても門前払いが関の山だろう」


 葵の言葉から、焦りが伝わってくる。


「お前も落ち着け。一度、冷静になれ。利用できるものは他にもある。なあ、そうだろう。野駒大臣の息子くん」


 黒田が葵をなだめてから、雲雀のほうに視線を向けた。


「え? 俺、ですか」


 雲雀は目を丸くする。


「そうだ。君は君にできることをやればいい。これから僕が考えた作戦を説明するよ」


 黒田はそう前置きして、作戦を話し出した。

 要約すると、こうだ。

 まず雲雀と他数名が森へ行き、野駒大臣と鶫に接触。野駒大臣に菫を助け出す協力を持ち掛ける。その間、残りの数名が鍵の所有者を確保。雲雀は大臣と共に城へ入り、菫を何とかして助け出す。


「父上が協力してくれるとは限らないけど、その時は?」


 雲雀は黒田に向かって尋ねる。正直、確率はかなり低いだろう。説得するにしても、雲雀には自信がない。


「協力してくれるさ。――いや。協力させるんだ」


 黒田は自信がありそうな顔をして言った。

 雲雀は黒田の作戦に乗ることにした。それが一番、危険が少なそうだったからだ。もちろん、そう簡単に上手くいくとは思っていない。父の説得に失敗するかもしれないし、鍵の所有者の確保に失敗するかもしれない。最悪、鶫も菫も救い出せないかもしれない。けれど葵の言う通り隠を利用し、城に乗り込めばもっとひどいことになりかねない。黒田の案は父と陛下も救うものだと雲雀は思った。


「まったく、お前らしい作戦だな。結果的に全員を助けようとする。お前のそういうとこ、好きよ」

「やめろ、気持ち悪い」


 葵の茶化すような口ぶりに、黒田は顔をしかめた。


「総一郎の案に異論のあるやつ、いるか?」


 葵の質問に、誰も手を上げなかった。ワカバとルリが顔を見合わせる。


「いいよ、ね」

「そうね。あたしもいいと思う」


 こうして作戦は全員一致で決まった。その後、雲雀のお腹が盛大に鳴りみんなに笑われたので、まずは腹ごしらえをすることになった。


 


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