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人生2回目だったようです


(そうだVRだ…そういうラノベあったもん…)


最後によぎった考えを思い出すことで、意識がはっきりしてくる。もしそれ通りなら私の脳は焼ききれて死んでしまうのではないかという考えは置いておこう。だってまだ自分という存在を認識しているのだから。


我思う故に我あり。


本当の意味はよく知らないが、私が夏凪真緒であると思っているのだから、夏凪真緒はまだ生きている。このよくわからない無地の空間で生きていると言っていいのかは知らない。むしろ死後の世界では?と思う方がしっくりくる場所だ。フワフワと漂っていると見覚えのある景色が見えてきた。


(あれは…私がいつも使ってる路線の電車…?)


テレビの上空映像のような風景に違和感を覚えながらも、特にどうすることも出来ない。これ自動進行イベントだなと勝手に決めつけてそのまま見続けると…


(えっ?!)


目に入った情報は間違ってなかったと証明するように、音が辺りに轟く。


踏み切りで立ち往生した大型トラックと電車が接触。暗いこともあってか電車は減速していない。トラックも電車の前車両もぐちゃぐちゃ。誰が見ても大事故だった。


次第に人のざわめきが激しくなり、赤いランプが辺りを埋め尽くしていく。



その光景に嫌な汗が背中を伝っていった。


(私、あの電車に乗ってた…?)


外からの景色なのに何故かそう思った。それに私…夏凪真緒の最後の記憶、電車の中で眠ったということとも繋がる。



(つまり今の私は…)




ーーーーー






「幽体離脱じゃん!」


ガバリと起きれば、背中に物凄い痛みが走る。その痛みで「違うそこじゃない」と目が覚める。起き上がろうとしたことを猛烈に後悔しつつ目線だけ動かせば、今いる場所が病室だということを何となく理解した。一人部屋のせいか他には誰の姿もない。ベッドの脇のサイドテーブルには、誰かがお見舞いで持ってきたのだろうか美味しそうなお菓子が置いてあった。まあ重傷者が食べられるとは思えないけど。それより今大切なのは…


(この痛みは事故…でもどっちの…?)


説1。


電車の中で事故にあった私は今の今まで走馬灯代わりに元彼を思い出していた。だからあんな夢を見てた。走馬灯なんて見てしまったらそのまま死ぬ気がするけど運良く生き残って、この場に至る…。

もしかしてあの時剣が刺さった痛みは、この怪我の痛みを実体の私が感じたからかもしれない。


つまりここが現実。この痛みは本物だ。夢でこんなに痛いのなら、人は夢を見て死ぬことが出来るだろう。だがそんなことはない。年1くらいで高層ビルから落ちるものの何故か着地に成功する(実際だったら仮に着地出来ても衝撃で死に至るだろう)夢を見る私が生きているのだから保証する。


痛みと戦いながらそんなことを考えてた時だった。



「マオ…!」


扉の方から聞こえたのは驚いたように私の名を呼ぶ声。


「良かった、起きたんだね」


それは私の今までの考えを否定する声。


「どう言えばいいんだろう…僕のせいで怪我をさせてしまって…」



…説2。


(え、嘘でしょ…まさか…)


転生。


オタクならそれなりの頻度で見るその2文字が頭の中を走り抜けていく。だが何度も読んでいようと現実として受け入れられるかは別問題だ。


(…私は死んだってこと?)


死んだ可能性は十分にある。それはさっき見た通りだろう。そして未練というか…最期の日に思った願望がきっかけとなり、修くんそっくりの彼がいる世界に転生した。何だろう、あり得ないがあり得なくない。現実的ではないが非現実を沢山見てきてしまっている。沸き上がった矛盾した感情を不思議と思わない自分をどうすればいいのか。


「マオ、ごめん…」


何も言わない私が怒っているのかと思ったのか、シュウくんはまた謝ってくる。そんな顔させたくないのに。問題があるのは貴方じゃないのに。


もう考えても無駄な気がする。私の理解を越えているし、私の常識なんて広大な世界と比べたらちっぽけなものなんだ。だったら救われた命を大切にする方がよっぽど建設的ではないか。ありがたいことにこの世界で生きることを受け入れ始めている自分がいるのだから。


「私が、助けたい、と、思ったの…」


途切れ途切れに紡ぐ声は今まで生きてきた世界との別れの言葉のようだった。このまま言葉を繋げてしまえばもう元には戻れない。いや、もう戻れる世界はない。


「謝ってほしくなんて、ない」


目の前の人を、世界を、新たな現実として受け入れる覚悟。夏凪真緒ではなくマオとして生きる覚悟。


「だから笑って、ね?」


今度こそ、この人と共に生きる決意。


「うん、そうだね。じゃあ代わりに…」


彼の暖かな両手が私の手を包み込む。これからどうなるかはわからない。でもこの決意を後悔することがないように。



「ありがとう、マオ」


そう願って彼の熱に身を委ねた。





ー 胡蝶の夢。



もしかしたら夏凪真緒として過ごした20何年間の方が夢だったのかもしれない。成宮修斗と迎えたのは行方不明エンドなんかじゃなかったんだ。あれはこの√に繋がるためのプロローグだったんだ。


些か強引な思考なのは自分でも認めるし、全てを受け入れているかと言われたら頷けないけれど、今の私にはそう思うしか出来なかった。





ーーーーー





あれから3ヶ月が過ぎた。




暑さは和らぎ、むしろ最近は風が冷たく感じるくらいである。しかし寒さはあまり感じない。何て言ったって魔法で自分の周りの温度を調整すればいいのだから。寒がりの私的には最も魔法の恩恵を感じるときである。

温度調整の魔法と言えば、冷たいお布団を暖められることに気がついたとき時、あまりに幸せだったのかその晩猫に囲まれる夢を見たほどである。それだけ寒さは敵だったのだ。


(冬服って概念もないのいいよね!一年中この可愛い制服を着てられるし)


それでも日本人たるもの季節感は残しておきたいので、これに頼りきらないようにしたいところだ。あくまで願望であり、頼らないとは言ってない。


「おはよう、マオ」


ゆったりとした足取りでこちらに向かってくるのはシュウくん。


あの一件以来、シュウくんの表情が柔らかくなった気がする。といっても転生してシュウくんと会ってから2日くらいしか見ていないので、実際に変わったのは私が持つシュウくんの情報量…つまりは仲良くなっているからだろう。


「おいっす!」


そして相変わらずユウは少し遅れて駆けてくる。私、シュウくん、ユウ。三人仲良しグループって感じだ。ほんと全くの別人とは思えないくらい元々の関係性に似ている。私とユウは幼馴染みだし、シュウくんとユウは親友って感じだし。私たちが付き合った後も三人で遊んでたりしてたっけ。


「おはよ~」

「おはよっ!」


三人で並んで歩いていると他の子からも挨拶される。ありがたいことに三人揃って成績上位者であるから一目置かれる存在になりつつある。


ん?私も成績上位者なのかって?

勿論魔法で他をカバーしているからね!

ついでに魔法研究も始めたからそれも成績に加味してもらっている。独自の単位制度により、もう武器なんて持たなくても十二分な成績は修められているのだ。「あの件で武器が怖くなっちゃって…」とさらっと嘘を混ぜておけば、誰も強要しない。わざわざ痛い思いをするほどMじゃないし、自分がやりたいと思うまでは魔法に頼ろうと思っている。


そんなわけで、成績をキープするために今日も今日とて魔法を学んでいる。今日は空いた時間で思念の実験をしていた。

この世界には電話やメールはないが、魔法で思念を飛ばして会話することができる。

通常は一対一で行うものだが、今日やるのはグループでこの思念伝授は行えるのかの実験だ。何故そんな実験をするのかというと…


『シュウが言ってたんだけど、約束の時間13時だって』

「おけおけ……あの。思ったんだけどさ、これ三人共通の連絡なのに誰かを経由するの面倒じゃない?」

『言われてみれば確かに』

「…ちょっと実験付き合って」


この世界のめんどくさいという概念はかなり薄いらしい。だから実験の殆んどは私のめんどくさい精神から始まることが多い。めんどくさい精神といっても現実…じゃなかった前世から見たら普通のことだし、めんどくさい精神が大きな発明を産み出すことは良くあるからこの精神は捨てないでおこう。


「よし、やってみますか」



思念伝授には2つのステップがある。1つ目は相手の魔力の捕捉。魔力は人それぞれ性質が違うのだ。番号を知らないとかけられないのと一緒で魔力の質がわからない人には届けられない。また魔法の類であるから魔力を消費するし、互いにある程度魔法を扱える人じゃないとこの思念伝授を使えないという難点があった。


そこで生まれたのが思念伝授の魔法具だ。

詳しい仕組みはわからないけど、携帯電話みたいに、ブレスレットに働きかけると相手と思念を繋いでくれる。料金の代わりにちょこっとの魔力を消費するってわけ。イメージがはっきりしている分、誰にでも扱えるし魔法具に頼る方がよっぽど楽だ。


2つ目は音を届けること。こちらも元々は最初に使った火の魔法の時のように見えない線を繋いで音を伝える…つまり糸電話のようなイメージだった。しかし魔法具のお蔭で、魔法具が音を吸収し、相手の持つ魔法具でそれが発生するという仕組みになっている。前者だったら線に介入して盗聴出来るなんてこともあったかもしれないので、そういう意味でも後者の方が優れていると思う。


これ音だけじゃなくて実態があるもの吸収させられるのでは?と思うが、存在しないことを考えるとそれほど複雑な魔法具を作るのはなかなか手間なのだろう。


「やっほー、二人とも聞こえる?」

『聞こえるよ』

『おー、すげぇ!』


これを行うに辺り、一番の課題は吸収した音を複数に届けなければいけない時に相手方に届く音は減少するのではないか?と考えた。繋げることはみんながやらなかっただけで出来ると思ってたし。


つまりこっちから送る音を1とすると二人に届くのは1/2、三人なら1/3になる、ということだ。


そしてそれは予想通りだったみたい。いつもよりも音量が小さく感じる。なるほどね、だからグループ通話が使われないのか。魔力を追加すればいいという訳でもないらしいから、今日できるのはこれくらいかな。拡声器の仕組みとかを知っていれば良かったんだけど。


実験はこれくらいにして後は雑談の時間とでも言うように三人でお喋りする。他愛ない時間を楽しいと思えるのは幸せな証拠だ。


『そういえばユーリ、さっき先生に呼び出されてなかった?』

『ってもうこんな時間?!俺抜けるわ。また明日な!』

「え、ちょ…」


楽しい時間は唐突に終わりを告げるのはよくあることだ。突風のようにそれだけ言うと、辺りに沈黙を残して去っていった。騒がしかった分、何だか寂しい。一人が抜けたら全部の回線が切れるのかな?予定外だがいいデータになりそうだ。




『ねぇ』


ぼんやりそんなことを考えているとシュウくんから声がかけられる。さっきまで声が小さかった分、近くに感じてドキッとした。

てっきり切れてしまったと思ったけどまだ繋がってたみたい。余計なこと考えなくて良かった。伝えようとする意志がなければどうせ伝わんないけど。



『ねぇマオ。話したいことがあるんだ。』


鼓動がいつもより早いのはシュウくんの声がいつもより低く囁くようだったからだろう。低音フェチだもんね私。うんうんそうに決まってる。


「うん、何?」

『出来れば直接がいいな…一段落したら呼んで?迎えにいくから』




ーーーーー




つれてこられたのは学園の渡り廊下。秋風に乗って色づいた葉が舞い落ちている。落ち葉を乗せた風は冬の近さを肌に直接感じさせた。


風が二人の間を通り抜ける音で記憶が呼び起こされていく。


(この光景…知ってる…?)


現じ…じゃなくて前世の記憶と重なる。


学校の渡り廊下。休み時間に前触れもなく呼び出されたことがある。あの時は鈍感…というか(乙女ゲームの)経験がなかったからわからなかったけど、恥ずかしがり屋な面がある彼はとても緊張していたはず。


この状況はあの時とかなり類似している。つまりこれは。


(告白…?)


普段なら「告白イベント来たぁぁぁ!いぇぁ!」なんて心が大暴走するところだし、もし告白イベントなんてことが起きれば十中八九そうなると予想していた。


だが実際は頭が真っ白になっている。こんな純粋な面が残っていたのかと自分でも驚く。もしかしたらマオとして生きる決意をしたことで、精神年齢が小学生に寄っているのかもしれない。


「僕を庇ってくれた時、マオの強さに触れた。申し訳なかったし、ありがたいとも思った。でもそれ以上に。僕は君よりも強くなりたいと思った。」


「もう怪我させたくない。今度は僕が守りたい。」


「マオのことが好きなんだ。僕に一番近くで守らせてくれないかな」


ひとつひとつ丁寧に紡がれていく言葉たち。それら全てに力強さを感じる。一方で今までの言葉とは裏腹に、最後の言葉は弱々しく紡がれた。


「マオは…好きな人いる…?」


さっきまでの男らしさはどこへやら、不安そうな顔。その顔に胸が甘酸っぱくキュっとなる。

私がもう10年近く貴方のことが好きなことを伝えたら一体どんな反応を見せてくれるのだろう。それは言ってはならないことだから想像に留めておくが、きっと安心したような可愛い反応をしてくれるんだろうな。


(やっぱり愛しい…)


前世で彼が何て言ってくれたのか。ただ自分が何て言ったかは覚えている。あの言葉をもう一度、貴方に伝えよう。




「私が好きなのは…今私の目の前にいる人です…」





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