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9話『仕事にご飯だレッタさん』




 一日の計はミサにあり。

 まあそんな感じで朝ミサを終えたオレの次の仕事は……! 

 お祈り。

 またかよ! ミサ前に祈ったばっかりじゃん!

 ツッコミ入れたくなったけど皆普通にしているのでピエレッタちゃんもお祈りしました。

 それから司祭サマは領主のところにお呼ばれして行った。教会の皆は労働に入る。


「シスター・ピエレッタは洗濯をお願いします」

「うぇーい」


 犬耳の生えた男の職員にそう指示される。ちらりと相手の名前などを鑑定してみる。



名前:フランクリン

称号:読師

職業:聖職者見習い

種族:犬人


LV3

HP60

MP20 

腕力28

法力10

体力19

敏捷19




《読師。下級の聖職者称号。聖書を読み聞かせることを許可されている。洗礼などの儀式は行えない》



 なるほど、見習い聖職者なのね。全般的にオレよりも強いけれど、法力とMPはぶっちぎりでオレが高い。スキル補正だろうけど。

 どんなもんかなと司祭館から洗濯物を盥に入れて川に運びつつ、畑仕事に出かけていく村人も鑑定してみる。

 全体的にレベルは高くて3ぐらい。スキルはほぼ持っていないし、法力が0な者ばかりだ。種族は犬人か人間。ステータスは人間より犬人の方が高い感じ。ただ個人差でばらつきはある。


『村に襲いかかる魔物で農民が対応できるというと、前のイビルスネークぐらいが関の山だからレベルもそう高くは上がらないのだろう。雑魚ばかり相手にしても試練にはならない』

「あのジョンエフケネディは相当レベル高かったけど?」

『……誰だ』

「ああ違った。司祭サマのあだ名」

『余計長くなっている。司祭クラスになると高レベルの魔物討伐任務が教会から言い渡されたり、相応のズルをしてレベルを上げる方法があるからだ』

「ズル?」

『聖地巡礼だ。ローマの四大聖堂を巡るだけで聖職者にはレベル20になるぐらいの特典が手に入る。他にもフランスのモンサンマルファスやスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ、ケルン大聖堂や聖地などパワースポットに行って祈ればレベルが上がる』

「わお。可愛い聖職者には旅をさせろって感じか」

『特に聖地はかなり効果的でな。だから宗派による奪い合いが発生しているのだが』


 聖職者ばっかりそうやってレベルを上げる手段があるなら、そりゃあ術関係は独占しているわけだ。

 考えてみりゃこのスキルなんてのは神様が与えてるわけで、神様を率先して崇める職業のやつに特典として覚えやすくするのも当然か。


『それ以外でも、戦争をしている戦士や騎士などは上がりやすいな。人と戦っても上がる仕組みになっている。だが、騎士などは余程教会に認められた者でなければ聖術は使えない。代わりに剣術や槍術といった特殊な効果のある技を覚えるスキルを習得する』

「ふーん。JFKを見るに、坊さんも戦場に出れば強そうだけどな」

『対異教徒や魔物の場合は聖職者も戦う事が多い』


 カイムの発言にオレは首を傾げる。


「異教徒? 唯一神プタヒルを世界中が拝んでるんだろ? 異教もあるの?」

『そうだな……お前は聖職者なのに基本的な常識に欠けている。仕方がないことだが。少しずつ勉強していこう』


 丁度川にたどり着いた。上流には水車小屋が見える。その水車小屋の近くに処刑台も置かれていて、オレはぎょっとした。


「げっ……ひょっとしてこのあたり処刑場か? 死体を川に放り込んだりしてねえだろうな……やっぱ上流に行くわ」

『水車は多くの農村に存在する施設で、領主が管理している。水車は穀物の脱穀・製粉。染料のための鉱石破砕。羊毛の加工などに使われるが、使用する度に税金を徴収される農民の悩みのタネだ。穀物の量を誤魔化しただのと言い争いになることもあるため、粉挽きには特別な裁判権が認められていて処刑もあり得る』

「家でゴリゴリ石臼とかで引いちゃ駄目なのか?」

『場所によるが、手引きは領主から禁止されているところが多いな』

「世知辛いねえ」


 オレは洗濯物を上流に持っていくと、村の女もそこに洗濯しに来ているようだった。

 お話してみたい気もしたが、カイムとの話の途中だったのでニコリと会釈をしてやや離れたところで川に手足を突っ込み、盥に水を入れてかき回して服を洗う。

 小声でオレは会話をする。


「で、異教徒って?」

『異教というか宗派の違いのようなものだな。プタヒルを信仰していることに違いはないのだが、土地によってオリジナルの解釈を追加して自分らに都合の良いようにする。それも我が神は禁止などしていないがな。結局、信仰が集まればどういう形でも構わないから』

「それで宗教争いね……ちなみにどんなのがあるんだ?」

『多いのはお前も所属している、世界全土に広まった通称[新教]と[正教]だ。大抵どこの国でも教会がある。新教はローマ、正教はコンスタンティノープルが本拠地だ』

「アレとアレね。何となく想像はつくけど、世界中に広まってるわけか」

『次に比較的新しく誕生した中東を中心にアフリカ・インドなどでも広まっている通称[異教]。異教徒の争いというとこれが主になる。

 あとは古くからある啓典の民が心の拠り所にしている[旧教]。少数民族が世界中に散らばっている』

「詳しくは言えねえけどアレとアレね。オンエア時はもっとボカすことにしよう」


 じゃぶじゃぶと服を洗いつつぼんやりとだが世界の宗教事情は見えてきた。

 残念なことに仏教は存在しないらしい。だったら奈良に何があるってんだよ。オレの故郷の奈良によ。奈良から寺を抜いたら何が残るんだ。まあ日本があるか微妙なところだけど。世界地図、よぉーく見たらアジアの東端あたりに幾つか島もあるんだよね。

 

「ファー!」


 ボーッとしてたらオレの洗濯盥にどしゃーって土みたいなのが零されて……オエッ。モザイクかけろよ。顔をしかめるような便臭に嫌な顔をする。

 うんこだこれ。肥桶をぶちまけて来やがったのは厭らしい笑みを浮かべたヒッピー・パープリン・ガールの蛇女ルシなんとかだ。

 便所掃除のまだ途中なのか、嫌がらせの為に一個残していたのか。幸いなのは、村の皆様よりは下流で洗濯をしていたから被害が広まらなかったってことかな。


「ごっめーん。手が滑っファー」

「滑っファー!?」

「ファーッファファファ。しっかり臭いが取れるまで洗うことファー!?」


 そう言い捨ててルシ公は走って逃げ去ろうとしたのだが、白蛇ディビットに噛みつかれて悲鳴を上げていた。ざまあみろ。

 あーあー汚え。オレは汚物を川に流してもう一回服を綺麗に晒した。

 それから桶に貯めて他の人に見られないように背中を向け、


「洗礼洗礼また洗礼。あと解毒」


 桶の中に聖なる水を叩き込んでついでに解毒も掛けて服を綺麗に除菌。多分。気分的に出来たと思う。ほーら綺麗な白さ鈴蘭の香り。

 まあ白くねえんだけどな。どの衣装も。真っ白い服着てるやつなんて全然居ない。そういう時代なんだろうな。だから多少汚れていようが大丈夫だろう。洗剤もねえんだし。

 

「やっぱり洗礼ウォーター便利だな。しかしこれ散々使ってるけど、聖術のレベル上がらねえの?」

『聖術は1つの術の使用数ではなく他の術も関わってくるからな。お前の場合、改悛を最低一度は行わねば上がらないだろう』

「んー……罪の告白を適当に聞くのは勝手にやっちゃ駄目だろうなあ」

『司祭に頼んでみることだな。次に行われる際に代理で秘跡の授与を行いたいと』


 そうしてみるか。出来ることなら聖術のレベルも伸ばしたい。

 聖術ってのは儀式に使う秘跡って名目で、他への応用は普通しないんだという。洗礼に使う水を旨いからってグビグビ飲んだり、礼拝堂のキャンドルでタバコに火をつけたり、教会で渡されるパンをおかわりしたり転売したりしたら非常識みたいな感じだ。

 しかし鑑定でこれから先覚える事のできる能力を見ると微妙に便利そうなわけだ。



《聖術LV4 聖体(プロスフォラ):パンとワインを聖別する。

 聖術LV5 堅信(コンフィメーション):対象のステータスを強化する。

 聖術LV6 塗油(アノイント):病気を和らげる聖別された油を出す。》



 この辺りやたら便利そうじゃない? 

 

「あと思うにね、油があると料理の幅がぐっと広がる。もう完全にチキンフライ屋じゃんオレ……」

『病人に塗る油で鳩を揚げるな!』

「ひょっとして何か薬物の混ざってる油だったりする?」

『いや……聖別されただけの植物性油だが……』


 大体油なんて持ってて損はしねえ。怪我に塗ってよし、乾燥肌によし、道具の手入れによし、相手にぶっかけて火を付けてもいい。

 油を延々出せるなんてとんだ便利スキルだぜ。石油王ならぬ塗油王にでもなっちまうか。

 ま、そうするためには結婚式の経験が必要なんだが。改悛も勝手にやったら問題だろう。JFKに後で聞いてみよう。

 オレは絞った洗濯物を盥に詰めて、教会までえっちらおっちら歩いていった。





 *******





 お洗濯物をロープで干したら、次のオレのお仕事は!

 農作業。

 

「農民かっての」

『田舎の聖職者などそういうものだ。金持ちの寄付が集まる修道院ならば働かずに食っていけるが』


 秋蒔きの小麦を植え付けてやった。こいつが収穫できるのは来年だ。既に今年の分の穀物は収穫済みになってる。

 もう丸一日食ってねえからマジで腹が減って仕方がねえ。


「ヒャッハー種籾だー!」

『食えないからな』

「わかってるよ」


 農作業もほどほどで終わりその次にやることは!

 本日三回目のお祈り。


 うん……うん……!


 そしてお祈りの後は待望のご飯タイムだった。ヒャッハー。

 教会の皆が食堂に集まり、それぞれの机に食事が並べられる。

 本日のメニューは……


 小麦のパンおおよそ150g

 野菜とそら豆のスープ

 鯉の切り身塩焼き

 謎の醸造酒


 パン150gってどれぐらいかっていうと四枚切りの食パンの一枚半ぐらい。

 わあこのスープ。塩ゆで汁って言うんじゃないかな。でも飲み干す。胃袋にじんわり溜まる。旨味とかそんなのは無い。

 鯉をバッサリぶつ切りにして焼いて塩を振った感じ。悪くはないけど温かければもっと良かった……ついでに言うと手づかみだった。ワイルドかよ。

 多分大麦を原料とした酒だと思う。気の抜けたビールを酸っぱくした感じ。ハードボイルドだ。朝に一杯これを飲んで冷めた残り物のピザを食いたい気分だ。


 結論。多分あんまり美味しくないんだけど腹が減りすぎてわかんない。

 しかし足りねえ。特にパン! 主食! カッチカチだから多少食べごたえはあったけどよ!

 こんなので労働者のカロリーベース足りてるのかよ!?


『ちなみに農民や労働者は……そうだな、お前にわかりやすい量的に言えばフランスパンのバゲットを一日に4本ぐらいと、ビールを1リットルぐらい飲む。その代わりパンは燕麦やキビなど家畜用のマズイ穀物を混ぜて量を増やしているがな』

「そっちの方でいいよオレ……とにかく腹いっぱい食いてえ」

『想像を絶する不味さだぞ』

「それでもだ」

「ピエレッタ。食事中の私語は禁止です」

「へーい」


 まるで食ったことがあるかのようなカイムの解説だ。天使様がそんなクソ不味いパンなんて試食すらしないと思うんだが。

 しかしこれじゃ一人で野生生活してたほうが腹いっぱい食えそうだぜ。絶対おかわり要求できる雰囲気じゃねえだろ。

 コミュニティ内での集団食事ってやつはマナーだの食事量だの制限があるからな。旅に出たらちっとはマシになるか? 外でならチキンフライ作ってても誰も文句言わないと思うんだがな。

 村のどっかでこっそりメシを食っててもバレねえ場所とか探そうかしらん。





ヴィール!!

酸っぱくてぬるくて変なの混じってる(最悪)


江戸なのであるの方は正月でお休みします

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