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7話『物分りの良い司祭と謎のシスターとレッタさん』





名前:ジェフカ

称号:司祭

職業:聖職者

種族:人間


LV31

HP50

MP150 

腕力41

法力190

体力70

敏捷93


スキル

聖術LV7

聖法術LV6

祓魔術LV3(授)




 ってのが鑑定で見た神父さんのステータスだ。ジェフカ。なんか言いにくいな。JFKでいいだろ。ステイツの大統領みたいでステキ。

 そこまでステータスとかの伸び方はオレと変わりがない。法力とMPが多くて他は低い感じ。レベル31でそれだから伸びしろ無いんだろうか聖職者って。

 聖術と聖法術を両方高レベルで習得してる。でも祓魔術の(授)ってなんだ?


『他の高位聖職者からスキルを授かったのだろう。基本的に授かったスキルは殆ど伸びない』

「ほへー」

『そして祓魔術のレベル1で習得出来る[晴眼(センスアイ)]は悪霊や妖精など姿を消すことができる相手を見れるようになるので、便利だからよく継承されているようだ』

「なるほどね。虚空を眺めてリアクションしてる不思議ちゃんを見かけてもそういうスキルなんだと思っておくぜ」

『他人には聞こえない私の声と会話しているお前も周りからは奇妙に見えるだろう』

「ちぇっ」


 そういえばカイムの声は他の人にはさっぱり聞こえないらしい。天の声スキルを持っている人も稀で、しかも一時的にスキルを持っていてすぐに消えたりもするとか。こうやって会話したり呼びつけたりできるのは例外中の例外だそうだ。

 さてはて、どうにかこうにか村人さん達の試練に立ち向かう熱い覚悟のお陰で、スネークストリーム蛇地獄!って感じの名作映画みたいな状況は解決した。

 か弱い少女がポーラでぶん殴れば死ぬ程度の蛇だから、普段農作業で鍛えられた農民の一撃で魔物は沈んでいった。まあ、数が多かったんで危ない場面もあったけどオレが延々回復させたので死人や重傷者は出ていない。

 お陰でMPが切れかけてスゲエ疲れた。肉体的にも全力疾走の代償でクタクタだし、足なんかも超痛い。 

 座り込んで木の靴を脱ぐとウワア皮がズルムケで血がー!


「[治癒]っと」


 治った。でも気持ち悪いことには変わりがない。


「こんなサクッと傷が治るとかインディアンの大地のオキテに背いてる気がするぜ」

『お前インディアンじゃないだろう。そしてこの世界にインディアンは居ない。インドはあるが』

「インド行ってハッパ吸ってハッピーになってから聖地向かうのって駄目?」

『聖地より遠いだろうがインドは……』


 それより気になったことがあるので、カイムに尋ねてみる。


「ところで天使サマよ。気になるんだけど何か村人の中に犬耳みたいなの生えてるやつらがいたぞ。ひょっとしてハロウィンの仮装中だったか?」

『この世界の人間は十三の支族に別れていて、それぞれ容姿が異なる』

「ホワイトとブラックとイエローみたいな?」

『似たようなものだ。ヨーロッパに多く分布しているのは、犬人と猫人、それにお前の人間種族だ。まあそもそもこの世界は基本としての人間という概念が存在しないので、[人間]という種族は読んで字の通り中間ぐらいの特徴が無い人種族という意味だ』

「姿が違うとなると人種差別も大変そうじゃね?」

『全て聖典に記されているからな。出自ははっきりとしている。それでも差別が起こらないわけではないが……』

「ふーん」


 などと喋っているとJFKがいつの間にか近くで不審そうにオレをジロジロと見ていた。

 鏡と会話をする不思議少女に見えたかしら。

 オレは誤魔化すように満面の笑みを作って話しかける。


「こんにちは神父様。あなたの上に神の平穏と恵みが訪れますように(挨拶)」

「はあ。一体誰と会話をしてらっしゃったんですか? ピエレッタ」


 キョロキョロとJFKは周囲を見回す。ひょっとして悪魔でも居るんじゃなかろうかと晴眼のスキルを発動しているようだ。

 説明して疑われたりするの面倒だな。オレはスマホ(本来の名称なんだっけ?)に自分のステータスを出してJFKに見せた。


「神父様。山奥で修行してたらこんな感じになりましたぜ。アタイ生まれ変わったのさ。もうヤクは止めたの。学校にも通うわ」

「おや? ……これは」


 JFKはオレのステータスを見て興味深そうに目を瞬かせた。

 レアスキルらしいからな、聖乙女・天の声・祈りの三点セット。神様が実在する世界で神様に認められてますよ的な証明でもある。

 天の声なんてオレ以外に聞こえないわけで、虚言癖じゃないってことがこのステータスでわかるから便利ね。


「なるほど……以前のあなたは、どちらかと言うと無口で引っ込み思案な方でしたが、天の啓示によってまさに別人のような性格にすらなっていらっしゃる」

「おっ。ガラッと性格変わったのに受け入れてくれるとは話がわかる」

「回心とはそういうものです」


 なるほど、まあね。聖書のパウロとか目からウロコが落ちた途端に熱心なキリスト信者になったと言われているぐらいだから、多少中身が入れ替わったせいで性格が別人になっていても、天の声という外的要因が見られるから普通なのか。 

 別世界のオッサンが中に入ってて、生まれ変わったっていうかピエレッタはモチ食って死んだなんて説明するのは面倒すぎるから勘弁したいところだ。オレが悪いわけじゃないんだからな。ピエレッタの体を返せ!なんて言われても困る。

 JFKは静かな声でオレに告げてくる。

 

「ともかく、お疲れ様でした。修行の成果としては望外のものをあなたは得ましたね。召喚術に聖医術……2つも術系統を得るとは」

「そりゃどうも。ところで閣下(プレジデント)

「閣下?」

「あ、いや神父様」


 頭の中でケネディみたいに呼んでいたので間違えた。

 オレはなるたけ神聖そうに演技をして告げる。


「実はさ、天の声で神様がオレを聖地巡礼しろって告げてるんだよね。そんなわけで旅に出る許可が欲しいのさ。イェイ」

「はあ。巡礼をですか」

「神様のお告げだからアタイどんなに困難でもやり遂げるわ。ブロードウェイに行くの」

『行くな』

「しっ」


 カイムからツッコミが入る。さてはて、まずは神父さんに認めてもらわないことには夜逃げでもしないといけないわけだ。 

 JFKは少し考える素振りを見せて、オレに応えた。


「天の声ならば是非とも従いなさい。それが神に仕える道ゆえに」


 神様や天使が実在する証拠があるもんだから、この世界の「天の声を聞いた」の効果はグンバツだぜ。すぐさま納得してくれた。

 何せそれを否定するのは信仰を否定するようなもんだからな。


「ただし、出発は暫く待たれたらどうかと提案します」

「なんで?」

「今から冬ですので。寒くて野宿も危険な上に何処に行っても食料を節約している時期に入ります。来春の復活祭を終えてから旅に出ても遅くはないと思うのですが……」


 ん? そう言えば結構肌寒いな。異世界に来たもんで季節なんて気にしてなかったけれど、そうか。もうすぐ冬がやってくるわけね。

 JFKの言う通りに、旅に出ても村とかで食料を補給できなければヤバイ。地中海あたりまで行けば暖かいから何かしら食うものはありそうだけど、ここはおフランスの北部。地中海まで行くのも大変だ。多分。

 

「ちょっと待って。お天の声サマに確認してみる」


 オレはスマホを耳に当てて聞いた。


「もしもしカイム? 聖地巡礼って春からやっても大丈夫?」

『無論だ。旅は危険で、道は長い。年単位の時間が経過しても構わん。それぐらいは神も考慮している』

「あらそう。ごほん。神父様、天使さんが大丈夫だって言ってるので、お言葉の通りに春まで待とうと思います」

「そうですか。それは何よりですピエレッタさん。しかし今日はもうお疲れでしょう。明日、村人の皆に声を掛けて貰いますがもうお休みなさい。何か質問はありますか?」

「色々あるけれど、なんでさっきモチ食べてたの?」

「丁度聖餐の時間に試練が訪れたので、それを抜くのもどうかと思って」

「ははあ」


 ご飯の時間に正確か!


「しかし村人も危なかったんじゃねえの? あんたが法撃連発してればもっと楽に見えたけど」

「彼らが乗り越えられる程度の試練でしたので。それに、魔物を倒した際に手に入る遺物は教会に収めることで税が軽減されますから彼らも是が非でも戦って手に入れたいものです」


 なるほどね。それで村人はビビリ腐っていても魔物と戦うのは止められなかったのか。

 税金の代わりになる収入なんてそりゃ有り難いわけだ。教会からしても神の試練を人に与えつつ、魔物の素材を集められるって寸法ね。

 

「……そうだ、ピエレッタ。今『カイム』と呼びかけましたが、あなたに囁く天の声は天使カイムの声なのですか?」

「おう。苦労人っぽいね」

「なるほど。天使カイムは言語と議論の守護天使と呼ばれています。是非、多くを学ぶが良いでしょう」


 JFKの言葉にカイムは彼に聞こえぬ天の声で軽くぼやいた。


『そこまで人気のある天使ではないがな。財宝を司る天使キマリスや、悪人を懲らしめる天使アンドロマリウスに比べれば……』

「ま、気にすんなって。オレっちは気に入ってるのよオタク」

『お前に気に入られても』 


 どこか拗ねた様子のカイムに軽く笑い声を漏らしながら、オレはよろよろと教会の方へ向かった。うへえ。木の靴の中が汗と血でキチャナイ。どっかで隠れて洗礼ウォーターで洗おう。




 *******



 教会は村で一番背の高い建物なのでどこからでもすぐにわかる。建物自体の大きさも二番目ぐらいじゃねえかな。まあ、大きな家ってのが殆どねえんだけど。


『普通の農村では大きな建物というと、領主の館や城・村長の屋敷・教会・居酒屋ぐらいだからな』

「居酒屋あんの? ポテトチップスとか出てない?」

『ジャガイモはあと六百年後に普及させる予定だから、今は無い』

「ちぇー」

『ついでにシスターが飲みに入る場所でもない』


 カイムから説明を聞きつつ教会にたどり着いた。

 十字架の付いた背の高い建物と、その隣に長屋みたいなのが建っている。


『礼拝堂の隣が司祭館。住居になる。恐らくその一室に泊まればよかろう』

「部屋割りがわかんねえな。ハロー! どなたかいらっしゃいませんこと?」


 これだけの大きさをしている建物だ。あのJFK一人で住んでいるわけではないだろうと思って呼びかける。ホワイトハウスよりは狭いけどな。

 そうしていると中から女が出てきた。十代後半でギャルやってそうな派手目の女だ。パンク・ファッションかと思うような裾の破れた修道服姿で、ボサボサの頭には頭巾を申し訳程度に巻いている。長い髪の毛や耳には金銀の飾りをつけていた。ぎょろりとした目元に隈が出来ていて瞳孔も開いており、恐らく聖職者なんだろうが見た目は悪い。

 更には、修道服の足元から細長くてつるりとした尻尾が伸びていた。女は長い舌をチロチロと出して動かしながら言う。


「なにファー? ってピエレッタじゃないファ。修行から逃げ帰ってきたのファ」

「誰やねん」

「ファーッファッファッファ! 私の顔を忘れたファー!?」


 いきなり笑われたんだが。失礼なパープリンガールだ。

 オレは適当に相手を鑑定して名前とか確認してみる。ひょっとしたら知り合いかもしれないので、名前から聞くのはこっ恥ずかしいからな。ピエレッタちゃんのこれまでの人生知らないから殆どオレってば周りからすれば記憶喪失状態なんだから。



名前:ルシ???

称号:光??齎????

職業:聖??者

種族:蛇??


ステータス

????(鑑定失敗)



《鑑定失敗。鑑定スキルのレベルが低い場合失敗する確率が高い。また、相手が隠蔽スキルを持っている場合も失敗する。なお鑑定レベル10でも確実に成功するわけではない》


 オレは後ろ向いて天使サマとお話する。


「もしもしカイム? なんかルシなんとか云うチンピラっぽい女が居たんだけど誰かな」

『この教会の聖職者じゃないか?』

「うーん確かにそうかなって読み取れないわけじゃないな」


 なんかステータスとかの鑑定失敗したけど、まあこういうこともあらあな!

 多分種族は蛇人だろ。蛇人ってのは十三支族のうちひとつで、アフリカ北部に多い人種のようだ。そこは鑑定解説でわかった。名前の通り蛇っぽい特徴のある人間だ。生命力が強いらしい。

 まあとにかく、向こうが親しげに話しかけてきたってことは知らない仲でも無いんだろ。元カノだったら嫌だな。そんなことを思いながら軽口を返す。

 

「おいおい勘違いすんなよルシなんとか。オレ様はしっかり修行を終えて山から降りてきたんだっつーの」

「ふふん。大方、蛇だらけになって慌てて逃げてきたところだファー」

「なんで山が蛇だらけってオタク知ってるの? さっき蛇退治のときも出てこなかったよな?」

「……そんなことより何か用ファ?」


 まったく、近頃の若者はろくすっぽ地域行事に参加しやがらねえ。すぐに話を逸らすし。困ったもんだぜ。


「オレァもうMP切れかけのお疲れムードなんだ。まだお昼だがとっとと眠りたくてな。部屋どこだっけか。山暮らしが長いんで忘れちまって」

「ファファファ……ピエレッタ! お前の部屋なんてもう無い! 外の家畜小屋ででも眠るシファー!」

『おい。そいつの頭に水ぶっかけていいぞ』


 スマホからカイムの憮然とした声が聞こえる。


「怒んなって。オーケイ。ダルいからもうそれでいいや寝る」

「随分素直に言うことを──ファーッ!?」

 

 なんかルシ公にディビットくんが噛み付いて白い鳩が頭に蹴りを入れてた。動物に嫌われるタイプなのかしら。ディビットくんは聖なる蛇だけど毒があるから気をつけろよ。まあ、聖職者なら自分でなんとかできるだろ。オレ疲れたし。

 しんどい体を引きずって、司祭館の隣にある家畜小屋へと入った。そこは牛が飼われていて中々に臭い。

 冬に備えて置かれている飼い葉の上に飛び乗って、オレは手を枕に目を閉じた。多少痒いが、まあこれまで石のベッドで寝ていたことに比べれば柔らかくて上等だ。


「あー眠ィ。そんじゃカイム、何かあったら起こしてくれ」

『……わかった』


 とにかく、これで村にはたどり着けたわけだ。ノルマ達成。本日の営業は終了しました。オレは眠る。お休みのメロディはドナドナで。



ルシなんとか……いったい何ファーなんだ……


ファンタジー種族ばかりなので現実の民族問題とは関係がない。いいね?

種族リスト


鼠人:小柄ですばしっこい。各国に居るが嫌われている移動民族。装飾品加工技術と歌が得意。物を盗む。仲間意識が高い。ジプシー。

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牛人:大柄で力が強い。オリエント周縁に分布。海洋民族。ただし怠ける癖がある。

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虎人:大柄で瞬発力が高い。東アジア。悪賢い。シルクロード近辺のヨーロッパでも見られる

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兎人:小柄。全国的に分布。女系占い師や巫女の末裔。聖職者適正が高い。

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龍人:大柄で全体的に強い。だがやる気がなく麻薬や酒とカレーが好き。インドや中国山間部に多い。

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蛇人:尻尾付き細身。アフリカ。生命力が強い。アフリカはその他人種も多数生まれてくる。

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馬人:ケンタウロス。中央アジアを中心に広く分布。弓にも適正がある。残虐。

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羊人:もこもこ。ヨーロッパ全土にかつて居た古代人。狩られて島国などに残っていたり、先祖返りして生まれたりする。

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人間:猿だと思われる特徴の無い人間。北方に居たがあちこちに広まった。

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鳥人:背中に羽根が生えている。全国に分布。ほぼ滑空で飛ぶには才能と訓練が必要。

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犬人:犬系。全国に沢山居る。猫と合わせて[獣人]と纏められることもある。

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猫人:猫系。全国に沢山居る。犬と合わせて[獣人]と纏められることもある。

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猪人:オーク。中東アジア。豚は食べない。

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