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5話『準備完了レッタさん』


 ハロー! ピエレッタちゃんだよ! キャワキャワ!


 やっぱ慣れねえな。体が女の子ってのは。

 前世の友人には女装して動画をネットに上げてたとか告白してきたオカマ野郎が居たけど、正直引いたしな。

 まあそれはともかくこの体になって三日目だ。今日も今日とて蛇退治が始まる。

 ちなみにさっきのセリフはモーニングコールでカイムに言ってやったら『うるさい』とだけ返された。あいつ感じ悪いな……


 兎にも角にもボーラと縛った鳩片手に入り口へ向かう。またぞろ集まっていた蛇どもを叩く作業の始まりだ。


「おらっ成仏しろっおらっ鳩追加だおらっ」


 一汗掻いた。蛇が概ね居なくなった頃に一旦洞窟に戻る。

 朝飯を食いながらステータス確認。数十匹は潰したはずだが、レベルは上がっていなかった。


『自分より低レベルの魔物相手だと試練度が足りないのでレベルが上がりにくくなる』

「試練度」


 微妙に嫌な度合いだ。強い者には強い試練を。ヨブが何をしたっていうんだ。

 ただし、めでたい事にとうとう鳩の犠牲があって召喚術がレベル2になっていた。ついでに投擲もレベル2だ。

 とりあえず試してみる。


蛇呼(コールスネーク)

 

 スキルを使用すると、目の前の中空にパッと蛇が出現する。長さは1メートルぐらいか。いい加減この2日で蛇は見慣れていたけど、いきなり目の前に出されたらぎょっとするかも。

 鑑定してみよう。


《クサリヘビ:北方に広く分布する蛇。出血毒を有する》

  

「で、味は」

『誰も食わん』

「外の蛇と違ってステータス出ないんだな」

『ステータスが決められ、スキルを使用するのは人と魔物ぐらいだ』

「ふーん。ま、出てきてすぐで悪いけど特に用事はねえしな。メシにしちまおう」


 近くにあった棒で蛇を押さえつけて近づき、ナイフで首をスパッと切った。来世にはブッダになれよ。

 それから皮を剥ぎ、内蔵を取り出して、ワインで身を洗ってから木の棒に刺して火で炙る。直火じゃなくてじっくり輻射熱で中まで火を通すのがコツだ。

 ここのワインマズすぎて上手い水があるから飲みたくないのでこうして使える。


『マジかこいつ……蛇なんて食うなよ……』

「ボーイスカウトやってたからな。野外活動はお手の物だぜ」

『人前で絶対やるなよ。ゴキブリを食ってるようなものだぞ世間の印象は』

「そんなに」


 多少臭いけど味も悪かねえのにな。オレの一時期住んでた京都じゃ、どっかの婆さんが草むらで捕まえた蛇をぶつ切りにして魚の干物とか言って売ってたぞ。大層味が良くて評判だった。オレも食ったのに。

 カイムは割りとドン引きしてるようだ。お上品なお天使サマにはお刺激的だったかしら。


「それはともかく、治癒ってのを覚えたから試してみないとな」

『……治癒を使って聖医術のレベルを上げるときは、ちゃんと傷ついた対象に掛けないと意味がないぞ』

「鳩の首を折っては治し、折っては治し……みたいな」

『哀れすぎるだろう。それに、レベル上げはステータスのある対象に使わねば効率が段違いに悪くなる』

「そうなのか……んー……じゃあ外の蛇を殴っては癒やし殴っては癒やし」

『自傷するよりはマシだな』

「相変わらず動物愛護団体にうるさく言われそうだぜ。でもあいつら蛇とか鮫とか相手にはあんまり興味が薄い気がする」


 方針も決まったので、オレは炙っていた蛇肉を取って齧った。うまあじ。




 ******




 相も変わらず蛇フェスティバル。ここ周辺の蛇は、この洞窟の前に集まりオレを待ち構えて、攻撃されると散るという行動ルーチンを取るようになったようだ。

 しかし退治しても退治しても減った気がしねえ。とりあえず目標としては、この入口で蛇共を散らかした後にダッシュで村まで逃げる。途中で噛まれた分は治癒と解毒で治して走る。そんな感じの強行突破作戦になりそうだ。

 聖法術もレベルが7まで上がれば[爆擲(ホーリーグレネード)]とかいう広範囲攻撃ができるようになるみたいだけど、ここでそこまで上げるのは難しいしな。

 聖武術の[自己治癒(セルフヒール)]とLV2[自己強化(ブレイブ)]で突破するという方法もあるかもしれないが、こちとらか弱い女の子だ。多少強化したところで底が知れてる。毒で動けなくなったらおしまいだ。


 ま、とにかく魔物を虐待して癒やす仕事だ。

 

「とりゃー」


 オレはやや加減しながらボーラを振り下ろし、哀れな鳩に絡まっていた蛇の頭を打った。

 即死はしなかったようで尾を振り回し暴れている。その状態で鑑定をすると、イビルスネークの10あったHPが2にまで減っていた。


「よし。スキル発動[治癒]」


 手のひらからぼんやりとした丸い光の玉が蛇に向かっていき、それに触れると石で潰れていた蛇の首元がみるみる戻っていった。

 だが怯えたように集団から外れて逃げていく。あらら。まあいいか、他にも蛇はたくさん居る。


「ここからはちょいと見栄えも悪いし単調だからピクサー映画のようなファンシーなイメージでお送りするぜ」

『しないが』


 



 ******





 そんなこんなで何度も蛇を潰しては治しを繰り返した結果、脅威の成長率もあってかその日のうちに[解毒]のスキルをゲットできた。


『まあ……普通はこんなにバンバン治癒を使うことなど、戦場ぐらいでしか無いからな』

「そうなのか? 病院代わりに使えそうだけど」

『寄進料が高いのと、そもそも基礎の聖術以外を使える者は案外に少ない。スキルポイントを得て最初の取っ掛かりを得るのに必要なレベルが20だ。ついでに覚えておけば高待遇で城に迎えられたりするから、そこらの一般人が頼めなくなる』

「愛と施しの心を持とうぜ」


 肩を竦める。何とも世知辛いことだな。


「しかしオレの世界では奇跡だったけど、こっちの世界で聖人が人を癒やしても単なるスキルだな」

『救世主がスキルで人を癒やし、彼を崇める宗教がスキルを聖職者に広めた……ということになっている』

「じゃあそれ以前の宗教は?」

『神から直接スキルを与えられる[預言者]か、悪魔──の役をした天使──からスキルを得る[魔術師]のみが使えた。まあ、どっちにせよこの世界は唯一創造神しか神は居ないから地球の歴史とはかなり異なるのだが。アジアの果てからアフリカの先まで唯一神信仰だ』

「それで歴史を真似るのも大変だな」

『天使信仰も地方では根強いのが創造神の悩みどころだ』


 ま、それはそうとして習得した解毒も試さないといけない。

 いざ逃げる最中に毒蛇に噛まれて解毒を使ったのに、イマイチ効果が無かったとかだと目も当てられない。

 その場合は別の手段をまた考えねえとな。

 

「とりあえず一匹捕獲するか──キャッチ」

『躊躇わないなこいつ……』

 

 さっきから何度も殴っては回復させていた蛇の首根っこを掴んで聖域内に引き込む。心底嫌なのか逃げ出そうとウネウネ暴れた。

 蛇の体を縛って更にロープに巻きつけ自由を奪い、岩に縛り付ける。

 必死に威嚇してくる蛇相手に、


「とりあえず確認するけど、即死はしないんだよなこいつの毒」

『噛まれて解毒を使う間もなく即死する猛毒はそう無い。人が思う以上に人間の毒耐性というのは強いものだ』

「よし。すーはー……」


 修道着の袖をまくる。上腕のところを縄できつく縛って念のために血流を押さえた。

 そして暴れる蛇に手を近づけると──がぶりだ。


「いったぁ!? 注射より痛ぇ! 矢がぶっ刺さったみてえだ!」

『毒の効果で痛みが増しているのだろう』

「おらっ! 離せ離せ!」


 蛇の頭をビシバシとチョップすると口を離したので、手首らへんについた傷口を見る。

 血が出てる穴が空いていて僅かに変色していた。


「シット……手が微妙に痺れる」

『出血毒に加えて神経毒があるのだろう』

「あんまり健康にはよろしく無さそうだな。[治癒(ヒール)]と[解毒(ケア)]使用っと」


 手でなぞりながらスキルを使用すると、咬傷は塞がり傷跡も残らず、変色した部分も色を取り戻して痺れも取れた。

 

「おっ完全回復じゃん。治癒を自分に使ったのは初めてだけど」

『回復量は聖医術の現在レベルと、使用者の法力によって変わる。お前の法力値ならば大怪我でも問題なく治せる』

「そうなの?」

『法力値だけは司教クラスあるからな……スキル補正で』


 他のはダメダメだけどな。特に腕力。筋トレでもしようか。プロテインさえあれば。


「とにかく、傷も毒も治ることが判明したわけだが……もうちょい特訓してみるか。聖医術がレベル3になったら[回復(リムーブ)]って術覚えるし」

『傷の治療ではなく体力回復の術だな。確かにそれを継続的に使えば全力疾走から全力疾走へ繋げられる』

「だろ? よし蛇君! また頼むよウギャー」


 そんで今度は蛇に噛まれては癒やしを繰り返す単調な作業。ナショナルジオグラフィックの美しい映像でも見てお待ち下さい。




 ******




 MP切れかけたので水も浴びずに夜に寝て、更に翌日も特訓だった。解毒と治癒連発だ。

 MPはじっと休んでいれば少しずつ回復する。寝てればもっと回復する。昼寝で半分ぐらい。

 そんなことも試していると、どうにか昼過ぎには聖医術LV3に上がって回復を習得した。


「中々早く覚えたじゃん」

『そもそもこんなに治癒と解毒を連発することなど、普通の聖職者の生活ではあり得ないからな。早く上昇もする』


 まあそこらに毒入り魔物が居て何度も噛まれるとか早々無いシチュエーションだ。おまけに聖域で安全だしな。

 

「ついでになんかこの蛇君も変色しちまったな……」


 壁に縛られてこちらを見ながら赤い舌をチロチロ出している蛇はもう暴れておらず、全身脱色したかのように真っ白になっていた。

 今ではオレが手を差し出してから「噛め」って命令しないと噛まなくなるほど従順だ。


『聖女の血を飲みすぎて変化したんじゃないか。鑑定してみろ』

「ああ……まあ散々オレを噛んだから血ぐらい飲んでるよな」


 鑑定スキルを発動してみる。


《種族:ホワイトスネーク

 分類:蛇型聖獣

 LV3

 HP:30

 MP:10

 攻撃力:20

 防御力:15

 法力:5

 敏捷:15


 毒牙LV2

 神聖LV1》


《ホワイトスネーク:白蛇。最下級の神聖存在。大人しくて言うことを聞く。これを殺した場合呪いを受ける》



「なんか別のやつに変わってるな。聖獣?」

『魔物とは別で創造した[善き獣]という存在だ。無害だが殺すと呪われるというトラップだから気をつけろ』

「おおテリブル。じゃあこのディビッドくんは逃してやろうかね」

『……ディビット?』

「ホワイトスネイクつったらディビッドだろ? 元ディープ・パープルのヴォーカルの」

『知らん』


 オレは無害になった蛇を縄から外してやると、もう襲いかかってくる様子はない。むしろ鎌首をもたげて、オレに挨拶をしているようだった。

 

「んー……ご協力ありがとうなディビッド。鳩でも喰う? なるたけ小型の鳩来い!」

 

 念じながらやるとこれまでで初めてなぐらい真っ白の鳩が出てきた。こいつを餌に──あっ逃げた。素早い。天井あたりの岩に止まった。

 なんか逃げた鳩が恨めしげにこっちを見ている気がして少しばかり気まずくなる。ひょっとして鳩業界でオレの悪名とか広まってない? リョコウバトを全滅させたアメリカ人はオレじゃないよ?

 まあいい。失敗することもあるさ。改めて普通の鳩を呼び出してディビッドに与えてみる。ゴクリと丸呑みした。蛇の胴体が膨らんでいる。


「ペットの餌にも使えるなんて、役に立つ術だなあ鳩呼」

『もはや突っ込むまい』


 とりあえず万端な体調で明日は蛇包囲網を突破するために、今日はゆっくり休むことにした。

 晩飯を食ってたら天井に逃げてた白い鳩サマが突然肉を奪って行ったけど。貴方様のお仲間の肉なんですがこれは。すげえ食ってるし。ディビッドは満足そうに寝てた。







名前:ピエレッタ

称号:隠者

職業:聖職者

種族:人間


LV5 (LV1からの上昇量)

HP40 (10up)

MP140 (60up)

腕力9  (-)

法力320 (120up)

体力17 (5up)

敏捷16 (6up)


スキル

聖術LV2

鑑定LV10

言語LV10

召喚術LV2

聖医術LV3

投擲LV2


祈り

聖乙女

隠者の言葉

天の声



ようやく次回で洞窟脱出です。長かった

しかし地味にこの最初の洞窟は魔物無限発生のスキルレベル上げポイントだったという

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