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4話『脱出の為に新たな力を得るレッタさん』



 見渡す限り灰色が多いけどいろんな色合いをしたヌラヌラ輝く紐状の物体が、大量に居た。

 まあざっと見えてるだけで百匹は居るだろう。洞窟前の地面が露出してる箇所ね。周りは藪だからその中にも居るとなると数え切れない。

 オレは洞窟入り口から出ないまま観察して呟く。


「ひょっとして今って繁殖シーズンで集まってるのか?」

『いや……そんなはずはないのだが』

「どうして洞窟に入ってきてねえんだろう」

『一応聖職者の作る祈りの場は神聖な空間が形成されて魔物が近寄らないのだが……あの蛇を鑑定してみろ』


 オレは鏡を向けて鑑定スキルを発動させてみる。


種族:イビルスネーク(小)

分類:蛇型魔物

LV3

HP:10

MP:0

攻撃力:20

防御力:15

魔力:0

敏捷:15


毒牙LV2


《毒牙。牙を持つ魔物のスキル。レベルが上がると毒性が強くなる》


《イビルスネーク。蛇型魔物の陸生種。寿命が長く、巨大になる個体も居る。固い牙による攻撃は革靴程度は貫き、毒は小動物を死に至らしめる》


「ふむん。一匹二匹ならマムシ退治の要領で勝てないことは無さそうだが、あんだけウジャウジャ居るとヤバイな」

『毒は弱いとはいえ体中噛まれれば死ぬだろう』

「ひょっとしてこの尼さん、蛇が大量発生してて外に出られなかったんじゃねーの?」

『知らん。生前の状況は私は把握していない』

「とりあえず一旦中に戻るか」


 オレは洞窟に再び戻る。魔物とやらが入ってこれないことを祈ろう。洞窟に押し寄せてきたら死ぬ。

 戻りながら鑑定解説を見てみる。


《魔物:神の遣わした人への試練。人を襲うように創造されていて、世界中に生息している》


 わお。趣味の悪いことしやがるぜ。

 まあオレの世界でも、フン族やモンゴルが攻めてきたときや自然災害が起こったときにヨーロッパでは神の試練扱いだったけどな。実際は人が苦難をそう言い換えていただけなんだろうが、こっちの世界ではこうして明言されてるのか。

 つーかひょっとしたらこれもオレに対する神の試練とやらじゃねえのか。

 とりあえず元の住居の椅子に座って提案する。


「プランA。棒と縄でタケウマを作って噛まれない高さで離脱」

『普通の野生生物の蛇ならまだしも、魔物の蛇だからな。集中的にお前を狙ってきて這い上がってくるのではないかと思う。それに転んだらアウトだ』

「プランB。説得。僕ら皆兄弟」

『言語スキルで知性ある魔物ならば会話可能だろうが、生態的に蛇は耳が無いので会話不能だ』

「プランC。籠城。あいつらがどっか行くか、干からびて死ぬまで洞窟に篭もる」

『水と食料はあるが、薪の備蓄が心もとない点に注意だ。あとあの蛇共がいつ去るのか不明でもある』

「プランD。洞窟の上にある山を登って離脱」

『追ってこられたら大変な上に道具なしの崖登りで落ちたら死ぬ』


 うーん、まるでパニックホラー系の映画になっちまったみたいだ。見渡す限り蛇地獄! ってな。

 そのお約束で考えるとジープとかで脱出しても途中でタイヤが蛇踏みすぎて動かなくなり、じわじわと蛇に囲まれて死ぬんだよな。 


「なんかオススメねえの?」

『……この洞窟には聖域だから入れないので、スキルポイントで聖法術を習得してレベル1遠距離攻撃の[法撃(フォース)]を使い、安全圏から数を減らしていくという方法とか』

「使っちゃったからなあスキルポイント」


 使ったものは仕方ない。だって手からフォース出せるのとチキンを好きなだけ食えるの、どっちが生きていく上で大事よ。ジェダイ・ナイトに憧れねえわけじゃないんだけどさ。


「だが安全な場所から遠距離ってのはいけそうだ。確かロープがあったな。これに拳ぐらいの石を括り付けて……簡易ボーラの出来上がりだ。ねっ簡単でしょ」


 ボーラってのはロープの先に重りが付いた武器というか狩猟道具だな。縄さえあれば簡単に作れる。

 結び方を工夫して二又に先端を分かれさせて二個の石を結ぶことで威力二倍!


『……なんだろうこの行動力は』

「昔見た[ポリスアカデミー]ってシリーズのガンマニア警官がオレは好きでな。こいつ警官なのにM60機関銃とか使うんだけど、ボーラを使ったこともあったんで作り方を何となく覚えてたんだ」

『何も言うまい』


 とりあえずオレは即席のボーラを持って再び入り口へ行く。

 

「おうおう、蛇さん達雁首揃えて集まってやがるぜ」

 

 さっき見たときよりも入り口付近に密集しているようだった。オレの姿を見たからかもしれない。

 だがやはり洞窟の中には入れないようだ。哀れな生態だぜ。


「アーメンオーメンカンフーメン。成仏しなよ」


 オレはボーラを振り回して地面に叩きつける。蛇の頭が石で潰れた。

 他の蛇が威嚇して鳴き声を上げまくる。多少同情するが、こいつらの目的も人間を襲うという相容れないものなので容赦はできねえ。

 二度、三度とボーラを叩きつけて安全地帯から一方的に攻撃する。ボーラの良いところは手に衝撃が伝わらないということだ。棒なんかで殴ってたら疲れるし嫌にもなる。

 蛇の生臭い血臭が立ち込める。それでもオレは石を叩き込みまくった。


「なんか悪いことしてるみたいな気分だな」 

『気にするな。魔物はある意味、倒されるための生き物だ』

「そうかい」


 暫くやってるとさすがに蛇共も入り口から離れていったのでひとまずオレも休憩。

 血でべっとりなったボーラを持って奥に引っ込む。


「蛇の死体どう処理するかなー。さすがに残してたら腐るよな」

『魔物の死体は一部の部位を残して時間経過で塵になるから安心しろ』

「へえ。じゃあ食えないってことか」

『……蛇も食うつもりだったのか?』

「蛇呼の術を覚えるのを楽しみにしておくぜ」


 そんなことを言ってると、確かにボーラに付着した蛇の血がサラサラと細かな粒子に代わり消えていった。


『レベルが上がらなかったか? ステータスを確認してみろ』

「ググセルフ!」


 そう告げられたので見てみることにした。

 ええっとまあ鬱陶しいから改めて書かないが、レベルが4に上昇。法力とMPが1.5倍ぐらいに。後は微上昇。スキルに投擲LV1が付いていた。


《投擲。物を投げた際の命中力を上昇させるスキル》


 あとスキルポイントが9になってる。1レベルごとに3貰えるのかな?


『ちなみに普通の人間は2レベル上がって1ポイント貰えるので、6倍の上昇率を聖乙女スキルの効果で得ている』 

「結構サービスされてるのね。もうちょいで何か術が覚えれそうだ」

『まあ、魔物を倒すか聖術を行うか、もしくは人間を倒さねばレベルは上がらないので聖職者か戦士、それに猟師ぐらいしかまともにレベルは上げられないのだがな』

「人間同士を争わせるの推奨システムじゃね?」

『それもまた試練だ』


 ま、どこの世界でも人間同士の戦いなんて起きるもんだ。神様にだってブッダにだって止められやしない。

 さて、レベルが上がるんだったらまた蛇駆除頑張るかね。

 カイムとだらだらお喋りしながら、オレはまたボーラ片手に入り口へと向かった。




 ******



 

 また集まってきていた蛇を叩きまくり、次第に再び蛇は範囲外へと散っていった。  

 効率が悪いな。どうにか蛇を呼び寄せる方法は無いのか。

 オレが外に出ればすぐにでも襲ってきそうなんだが、噛まれればアウトになりかねない。

 なのでもう一本ロープを用意して、鳩を召喚してそれの体に結びつけて外に放り投げてみた。


「おっ寄ってきた寄ってきた」

『哀れな鳩だ……』


 どことなく鳩にも哀愁が漂う。何のために生まれてきたのか。そんな哲学的な問いを持つことは解脱への前進だぜ。来世はブッダになれよ。

 地面に落ちて暴れる鳩に釣られて蛇がうにょうにょと近くにやってくる。


「動物愛護団体とかに怒られるからカメラに映さないようにしてくれよな」

『カメラなど無い』

「綺麗な映像と和やかなBGMでお送りします」


 ともあれ鳩に蛇の群れが絡みつき、噛み付いて動きを止めていた。

 だがそこはオレの攻撃範囲内だ。


「鳩! 今助けるぜ!」

『もう死んでいる』


 白々しく叫びながらボーラを打ち付け蛇を倒しまくる。

 絶命した鳩を引き寄せて念仏を唱えた。


「ところでこの毒にやられた鳩って食えるかな」

『……鑑定してみればどうだ』

「サーチ!」


《蛇毒:生体毒の一種。毒牙は魔物死亡後も残るので毒も消えずに残留する。血液に混ざることで効果を発揮。熱で無毒化する》


「焼けば食えそうだ」

『食うのか……』

「マムシの毒だってあれ、口に傷が無ければ生で飲んでも平気なぐらいなんだぜ。こんぐらい大丈夫大丈夫」


 とりあえず血抜きしておいてオレは次の鳩を呼び出し、また縄で結んで外に放り出した。作業続行だ。


『残った魔物の部位は回収しておけば何かに役立つぞ』

「オーケー」


 諦めたように告げてくるカイムに返事をして蛇を倒しまくることにした。




 *******




 休憩を挟みつつモリモリ倒して結局その日は潰れた。

 薪を節約するためにむしった鳩の羽で焚き火をするけど、燃やすと臭いのが難点だな。まだ外には蛇がいるので補給にもいけねえけど。

 尊い犠牲になった鳩を火葬してやり、晩飯も終えた。

 レベルは5に上がっていて、スキルポイントも12になった。新たな術を覚えることができる。


「さて問題は何の術を覚えるかだな。ここから脱出するために」

『法撃じゃ駄目なのか』

「遠距離攻撃手段はボーラがあるし、そもそも蛇を全滅させられるのか謎だからなあ」


 ある程度は釣れるけど、森の中もウジャウジャ居るとなるとフォースでもボーラでも大変だろう。

 

「ちなみに術ってスキルポイント使わないと取れないの?」

『司教以上の高位聖職者から授かることも可能だが、その場合は授けた以上には成長しない。多額の寄進や貢献なども要求されるだろう。それとポイントを使う以外では、自然に使えるようになったりはしない』

「なるほどね」

『聖術関係もお前が聖職者で隠者だから覚えやすいが、そこらの農民が習得しようとすると必要スキルポイントが3倍ぐらいになり実質不可能だったりもする』


 ああ、それでオレの場合剣術とか習得できそうにないのね。フォースと剣術合わせれば何かが見えてくるかもしれねえのに。

 ま、とにかく蛇突破作戦だ。まだ暫くは籠城できそうだけど、このままチキン生活だと体が鳥臭くなりそうだぜ。

 術のLV1を習得して使い続ければレベルも上がっていくという。

 しかしまあ、今覚えてる召喚術は暫く役に立たんだろうな。次に覚える術も、野生の蛇を出すだけだし。食事のレパートリーが増える程度だ。

 だから何を覚えるか、なんだが。

 ざっと系統を改めて思い出すと、


 聖術:儀礼魔法系

 聖法術:攻撃魔法系

 聖武術:強化魔法系

 聖医術:回復魔法系

 祓魔術:対悪魔術系


 って感じ。魔法じゃないけど。大体マホーじゃん。でも神様から力を借りてる術だから人に言うと怒られそう。そもそも魔法って奈良時代から伝わる仏教用語なんだぜ? よくわからん怪しい術法は全部魔法だ。

 攻撃魔法でドカンとやるか、強化してドカンとやるか、回復してドカンとやるか。祓魔は……微妙。レベルが上がればバランス型になるんだけどな。

 実のところ今の状態に丁度いいのが見えてるのがあるんだよね。

 

《聖医術 LV1 治癒(ヒール):対象の傷を治す。

     LV2 解毒(ケア):対象の毒を治す。 》


「つまり聖医術を取って治癒覚えて、それを何度も使ってレベル上げて解毒まで覚えれば蛇の毒も怖くないわけだ」

『聖医術か。医療術は持っていて損はない。医者の数も多くないからな』


 それを聞いて首を傾げる。


「こんな便利なマホーがあるなら、もっと多くの人が習得してておかしくないんじゃないか?」

『便利だからこそ教会が独占しているんだ。基本的に聖職者しか使えないし、聖職者の数も一定を保っている』

「へー。まあ、そこらの農家のおっちゃんが神の奇跡バンバン使ってたら色々台無しだしな」

 

 さて、それじゃあ早速覚えて……その前に。


「労働してくたびれたぜ。ちょいとシャワーを浴びてくる。電話切るから」

『……水は?』

「洗礼ウォーター」


 スマホを置いてオレは洞窟の奥へと向かった。治癒を試してMPが切れたらシャワーも浴びれなくなっちまう。

 折角お出かけ用にビシっと着た修道着を脱いで、肌着と短パンみたいなパンツも脱ぐ。


 他人の体って感じだが、オレの体でもあるわけで裸に動揺するのはもうナシだ。ところでケータイは切ったけど、この状態をカイムとか神様が覗き見してないだろうな?

 別に見られて減るわけじゃないが、もし覗いていたらXXをXXXXしてXXXXをXしXXXでXXをXXXXしてXXてやるぜ。


 ……


 と、まあ神をも恐れぬ激ヤバ暴言を脳に思い浮かべてみて、指にはモザイクが掛けられそうな下品サインを示してみたが何ら反応はない。もしヤーさん相手にそんなことを考えでもしたら、鳩が飛んできて肉をついばまれて地獄行きになるところだ。

 察するにカイムや神様は、一応オレの動向を見ているもののこういうシャワーシーンまで見ているわけではないと思うのと、恐らく頭の中は覗いちゃいないってことかな。そういやカイムも、ここの神様は全能ではないって言ってた。

 別に神様の言うことを聞くのは構わねえんだけど、頭の中まで見られてるってのは気分がよくねえからな。


 とりあえず洞窟の奥、傾斜のあるところで頭から水を浴びて長い髪の毛をぐしゃぐしゃと洗い、体のあちこちを水洗いする。ここならば水を使っても洞窟の底へ向かって勝手に流れていく。盥なんかの水もここで流した。ちなみにトイレは別の離れたところあり、木の蓋がされている深い自然の穴だった。

 ノミやシラミもまさか連日聖水をぶっかけられるとは思いもしねえだろう。そのうち改宗してくるんじゃなかろうか。そんなことを思いながら体を洗って、ハンカチみたいな麻布で体を拭いた。旅道具揃えてたら見つけたやつだ。

 修道着を身に着けてスマホを手に取る。ステータスを確認すると、鳩の召喚に水の使用で残りMPもあんまり無かった。

 

「今日は無理すまいかな。ま、一応習得だけしとくか。聖医術習得──っと」


 ステータス欄に聖医術LV1が追加された。これでよし。

 一応連絡しておこうと通話モードにする。


「もしもしカイム? 聖医術は覚えたけど、いつの間にか聖術のレベルが2になってたぜ?」

『基本的に術をたくさん使えばレベルが上がる。お前は飲水にシャワーにと使いすぎだ』

「へー。そりゃ便利。今後もバシバシ使うことにするぜ。それじゃあ今日は寝るから、明日またシクヨロ」

『……はあ。わかった』


 なんでか天の声はため息をこぼしそう云った。美少女とたくさん会話できるから喜べよな。まあ、中身は男だけど。

  





魔物のステータス目安(仮)

攻撃力:どれだけの人間を殺せる一撃が出せるか。100が1人分ぐらいの基準。20はだいたい5匹に噛まれれば死にかける。200は同時に2人死なせられるぐらい。

防御力:どれだけの攻撃に怯まないか。体の硬さは肉体依存。数値が高いほど強い攻撃に怯まなくなる。HPは減る。


それぞれの術や武器レベルで覚えられるスキル一覧はそのうち纏めて出します

聖術LV2:改悛(ペナンス):対象が懺悔してきた際に精神を癒やす


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