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16話『スキル習得に悩むレッタさん』




 さてはて熊退治に犠牲は出たんだが、むしろそんな熊が村に来る前に退治できたということで村は安心と歓迎ムードだった。

 そんでもって倒したオレと責任者のフォードが褒め称えられたわけだ。フォードなんかは、


「シスターが殆どやってくれましたから、ボクなどは……」


 と、ひたすら恐縮していたしオレはそれより葬式が大事だったので、犠牲者を墓に埋めてやった。

 教会の上にある共同墓地にて、村人の掘った穴に司祭の出した終油の塗られた兵士の死体は寝かされて土を掛けられる。

 この兵士も元村人で、賦役という税みたいな一定期間の兵役をしていたから農民の一人だ。悲しんでいる者も居るが、試練と戦って負けたということで若干羨ましい目線で見ている人も居た。


『試練に負けて死んだ者は、試練も無い日常を死ぬまで送って地獄行きになるかどうかと怯える日々から解放されたとも言える。信心深い農民が恐ろしがるのは、死後に地獄に行くかどうかだ』

「そういうもんかね」


 大勢が見守る中で、狩りについていった聖職者代表としてオレがお祈りをする。

 前世から死人を見送るのも初めてじゃない。弔われずに死ぬより随分マシさ。悲しんでくれるヒトに見送られるんだ。


「ナンマンダブ。あんたらが死後幸せになりますように。安らかに眠れ」


 そうして葬式を終えた。読経と鼻の下が長いのは趣味じゃない。とはいえこんな短いお祈りでも、聖乙女さんがやってくれたってんでまあそこそこ評判はいいみたいだった。

 遺物のイビル熊胆はJFK司祭に渡したら喜ばれた。教会の伝手でお金に変えて、オレの旅費として後で渡してくれるそうだ。

 さてそれはそうと自室で鏡とにらめっこして悩む。


「んー……なんのスキル取るかなあ」


 そう。スキルポイントが20も溜まっているのだ。何かしら取った方が便利かしらんと思い始めている。

 カイムの言う通り、どうやら術系統は3つめ解放から必要ポイント量が上がるみたいで、聖法術・聖武術・祓魔術のどれかを取るのに20必要になっている。 

 そのうちどれを取るかというと、ぱっと思いつくのは聖法術。遠距離からフォースの力をぶっ放して攻撃できる術系統だな。これがあれば熊野郎も射殺できる。

 ただし、


「本当にそこまで必要かってのがあるよな」

『これを選ぶ者は結構多いがな。聖法術は魔物と戦うのに便利だから』

「だがな、見てみろよ」


 どうやらスキルがレベルアップして覚える術を見れるのは鑑定の効果らしいんだが、それで聖法術がどういった術を覚えていくかもわかっている。

 それによると、



聖法術

1:法撃(フォース):聖属性の遠距離攻撃

2:聖壁(ウォール):半透明の防御壁

3:聖威(ウォークライ):周囲の戦意高揚

4:呪法(イビルロア):対象に呪い攻撃

5:裁雷(ジャッジライト):対象に近距離雷攻撃

6:塩化(フォビドゥン):対象一人を塩の柱に変える

7:爆擲(ホーリーグレネード):範囲を聖属性の爆発攻撃

8:威光(ホロウエフェクト):相手に恐慌効果

9:聖炎(エデンズフレア):聖なる炎で攻撃する

10:天裁(メギド):火と硫黄を降らせる



『……これがどうかしたのか?』

「応用性が怪しい感じだろ。正直、この中で欲しいの塩化ぐらいしかねえぞオレ。遠距離攻撃ってフォースの力に頼らなくても石ころぶん投げればそこそこの威力なわけで。投擲も成長して技覚えたし」

 

 破擲(インパクト)という技で、MPを消費してヒットの瞬間に投げた物の重さが上がるという効果だ。地味に強そう。だって石ころ投げてたのが、突然鉄の塊と同じ重さになったら痛ェだろ。

 女の力で投げても痛いのが投擲の良いところだ。下手したらこのお嬢ちゃんの細腕じゃ、ごっつい剣なんて持てないかもしれんしな。


「そう言えばあの坊っちゃんが弓術スキルに目覚めたけど、武器使ってたらあんな感じであっさり習得できるの?」

『いや。普通は中々スキルを発現させるのも難しいが、やつの場合はレベルが1にも関わらずレベル17の魔物相手に立ち向かった。レベル差がある魔物や人間と真っ向勝負すると試練度ギャップが高くて、一気にレベルがあがりスキルも上昇する事が多い。特に、一つ目の武器系スキルならば習得難度が低いこともある』

「へえ。確かにオレの投擲も一発ぶち当てただけでレベルアップしたしな」

『お前の場合は[聖乙女]の成長補正も入ってるがな』


 この調子で投擲のレベルが上がれば、ぶっちゃけ遠距離の術はそう要らなくなる。便利な技が結構揃ってるんだ投擲も。

 剣術や槍術は3レベルか5レベルあたりから技を習得しだす。そのあたりまでレベルが上がるほど熟練すればいっぱしってわけだな。


「というわけで、攻撃用の術ってそこまで必要じゃねえんだよな。もっと気楽に日常で使えればいいんだけどよ」


 基本的に攻撃するか防御するかの術系統で、イマイチ生活に使えそうにない。


『気楽にって……』

「いいか? 今生活に役立てて聖術と召喚術と聖医術を使ってるからこそのレベル上がりの早さなんだぜ? 一ヶ月にいっぺん戦うかどうかって魔物にしか使わねえ術は持ち腐れだしレベルも上がりにくそうだろ」


 日常の練習でそこら辺に向けてフォースのビームをぶっ放すわけにもいかないしな。危ねえから。

 大体なんだよ最終レベルのメギド。ソドムとゴモラでも滅ぼすのかっつーの。そりゃそんなの使えば熊とか消し炭だろうけど、森も一緒に大火事になりそうだぜ。

 ホーリーグレネードってのはちょっぴり心惹かれる響きだけどな。もしここがアーサー王の物語なら必要になるところだ。


「他に聖武術は自分を強化して殴り倒しに行くんだけど、オレのひ弱さだとマジ死にスキルになりそうだ。全然ステータスの力とか体力とか伸びねーんですが」


 レベルは村人とかよりかなり高いのに、大人の農民以下だぜオレの力。

 少女だから仕方ねえのかもしれないけどさ。

 

『基礎ステータスの現在値は体格や年齢によって変化し、レベルアップ時の加算は種族ごとに異なる数値になるが……まあ、お前の場合かなり最低ラインの成長になっているようだ』

「なんでまた」

『運が悪いんだろう。法力だけは補正が入っているから尋常ではなく伸びているが』

「熊に殴られたら死にそうだけどな」


 この前、咄嗟に飛び込んじまったがアレ当たりどころ悪かったら死んでたな。爪先でバッサリ切られた程度だから瞬時に回復させたけどよ。


『お前だけがそうではない。特に術も使わず、盾などで防御もしなかったらこの世界のヒトはレベルが高かろうが熊に殴られれば即死する』

「そうなの?」

『肉の限界と呼ばれるものだ。ヒトの肉体は完璧ではない。如何に鍛えた達人だろうが無防備なまま首にナイフを刺されれば死ぬだろう。多少は種族によって皮膚の固さや毛皮の有無があったりするが、限度がある』

「ふーん。まあ確かに、首にナイフ刺されたのにHPが残ってて平気だったぜ!とか言い出すやついたら怖いよな」


 とするとヒトってのはそう耐久性が上がるわけでもないのか。野盗なんぞにメギドってる場合じゃないな。


「うーん、どうも聖法術も聖武術も祓魔術もぱっとしねえんだよな。聖地にクソデカイドラゴンとか悪の大魔王とかシスの暗黒卿でも居るってんなら火力が必要になるのもわかるけどよ。居るの?」

『居ない。単にヨーロッパあたりの国と敵対している国家の支配下にあるだけだ。そいつらも同じヒトでしかない』

「だろ? だったら敬虔な尼さんとしてどうにか平和裏に巡礼の旅で潜り込めねえかなって思うわけよ。それなら攻撃はある程度で大丈夫なはずさ」


 オレの目的は術を鍛えて最強のシスターになることじゃなくて、聖地とやらで祈りを捧げることだからな。エロイムエッサイム。

 

「というわけで、攻撃に回すリソースより便利な加護を取ったほうがいいと思うわけだ。この[サルガタナスの加護]とか惜しい感じなんだけどな」

『一度だけ、これまで行ったことのある場所へ瞬間移動できるという能力を得る加護だな。ちなみに加護を取るものの多くは、多量のスキルポイントが必要なので一度使い切りの加護は選ばれにくい』

「なるべく長持ちさせたがる気持ちはわかるぜ」


 なにせレベル20以上必要だからな。一度だけ未来を知る加護を得たとして、もし明日の大根の値段とか教えられたらショック受けるだろうよ。

 サルガタナスの加護は世界中どこでも瞬間移動できるなら、これ一発で聖地まで飛んで行くんだけどな。


「しかし何を取るかなー……カイムの加護があるせいで軒並み値上げしてるから慎重になるぜ」

『悪かったな』

「怒るなって! チョー便利だろ鑑定! ……しかしこの、一番スキルポイントが高いやつなんなんだ?」


 加護一覧の最も下にあるのがこれだ。


 [ルキフェルの加護] 

 必要スキルポイント666

 効果:????


 えーと、必要スキルポイントをレベル換算すると、オレが1レベルごとに3アップするから他に何も習得しないとして……レベル223で習得可能ってアホか! 

 普通のヒトのスキルポイントは2レベルで1溜まるので、レベル1334で習得可能になる。そんなレベルのやつ存在するの?


『いや……勿論そんなレベルのやつは居ないし、常識的には取れないスキルだろう。だが例えば、天の声スキルで話す相手が天使ルキフェルだった場合には自動的に所持できるぐらいか』

「そもそも天使ルキフェルって?」

『私もよく知らん。あちこちに現れ様々な姿が語られるので、姿を変えることができる能力があるらしいが、他の力は不明だ。名前だけは有名なのだが。

 お偉いさんらしいが、私とは派閥も違うから本来の姿も見たことがないな。一度、天使が勢揃いした会議があったのだがそのときもルキフェルは欠席をして、代理として何故か女子高生みたいな女が会議場の椅子に座っていたような記憶がある。よく覚えていないが』


 全然知らねえ天使なのな……ん?


「なあカイム」

『なんだ』

「自由に姿を変えられるなら、その会議に出てた女子高生がルキフェルさんなんじゃねーの?」

『何を馬鹿な……いや、待て』


 一瞬、カイムが考え込むように言葉を切った。


『それならば説明がつく……!』

「いや気づけよ!? 誰も気づかなかったのか!?」

『ああ。異常事態だ。指摘されて初めて怪しいと感じた。恐らく、認識にロックが掛けられていたのだろう』

「ロック?」

『妙なものを見ても不審に感じないし、そいつがルキフェルなのではという考えが阻害されてしまう術だ。恐らくその会議でルキフェルの正体を叫んでも誰にも聞こえないそういった場になっていた……と、思う』


 うーん、要するにそいつが変身したらどんな姿で何処に居ても誰も怪しいとは思わないってわけか。

 そんな特性だったら本当の姿もわからねえのに探すことも難しそうだな。同じ天使にすら気づかれないとか実在も疑われそうなやつだ。


「よくわからねえが、変なやつなんだな」

『ああ。まるで目的も素性もわからん天使だ。まあ、そんな怪しいやつが何か関わってくるとは思わんが……』

「だよな」


 どうせそんな効果も謎のスキル取らねえし。

 ひとまずルキなんとか言う天使の話は置いといて、他に便利な加護をカタログ感覚で眺めてカイムと相談し合う。

 しかし調べると加護ってのは便利だわ。頑張って試練に打ち勝ってレベルを上げて加護を得れば、食うに困らない才能が手に入ると言うので試練も望まれている。

 例えば薬草の知識。料理の腕前。建築技術。恋愛術。占い。会話術。相手を貶める術。金儲けの方法。自分の性別や種族の変化。盗みの才能。秘密の知識。隠された財宝の在り処。出世方法。

 大体スキルポイント15から数十ぐらいの範囲で、それらの加護が得られるのは人々の希望かもしれねえな。


「うーん……サルガタナスの加護も行ってたことないところには飛べないけど、いざ緊急避難で使えそうじゃね?」

『例えば捕まったときや、絶体絶命の危機にあるときには安全な地帯まで移動できるので有効だろう』

「他にはカイムお勧めのプルソン……役に立つ使い魔をくれるやつか」

『天使プルソンは本人の性格ものんびり屋だが良い方だからな。間違いはない』

「聖地の地理を考えるとパイモンの加護もいいかもしれないな……」

『砂漠の守護天使パイモンだな。砂漠地帯の地方では人気のある天使だ。ヒトコブラクダを呼ぶことができるようになる』

「バラムの加護で透明化の能力を得るってのもいいんだが、如何せんスキルポイントが高いなこいつ」

『便利なものほどコストは重い』

 

 選ぶ天使の加護によって必要スキルポイントは異なり、更にはカイムの加護に加えて二つ三つと増やすにつれて必要なポイントも上がっていくらしい。ただし、使い切り系は加護が消えるので累積されないという。

 あれを選ぼうかこれを選ぼうかと、燭火召喚で陶器のカップ内にチロチロとした小さな灯りを出して夜の間長々とカイムと加護選びをしていたのであった。

 


女子高生…いったい何フェルなんだ

後でスキルと加護一覧を投稿しておきます

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