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15話『試練とレッタさん』





「シスター!!」


 爪で切られた。まだ痛みの感覚が付いてこねえ。服の全面に裂け目が三筋できて、振り抜いた熊の爪先に布の破片と千切れた皮膚がくっついてるのが一瞬見えた。

 大丈夫だ。直撃は避けた。フォードの坊主を後ろに引っ張りつつ後ろに下がる。

 

「傷口を見ないうちに治癒!」


 血やら臓物やらがドバっと吹き出す前に回復。便利なスキルがあるんだこちとら! 開きかけた肉の割れ目が無理やり塞がる激痛に顔が引きつった。マホーが無けりゃ重傷だったぜ、絶対。


「シスターとあとフォード様を守れ!」

「おおお!」


 同時に兵士らが槍を手に熊へと突き掛かる。オレとフォードは数メートル離れて熊と対峙。

 おいおいベアー相手に槍だけで大丈夫かよ。マグナム持って来いマグナム。

 ちらっと事前に鑑定した兵士の平均レベルは5。対して熊野郎は……



種族:イビルベア

分類:獣型魔物

レベル17

HP:520

MP:0

攻撃力:360

防御力:180

魔力:0

敏捷:65


スキル

狂化LV2

自動回復LV1


《狂化。理性を外して攻撃力を上昇させるスキル。レベルが上がるごとに会話も通じなくなり、敵味方の判断も無くなる》


《自動回復。時間経過で傷が治るスキル。レベルが上がると治りが早くなる。欠損や呪い、毒などには効果がない》


 

「うわ強ッ」


 思わず口に出た。ちょっと待てよ! こちとら兵士のステでさえ3桁行ってないんだぞ!

 いやまあ、人間と熊を比べれば熊の方が圧倒的に強いのは当たり前だけどさあ……マグナムとか無いの?

 やっべ戦い始めた兵士三人、長槍を熊の体に突き刺したはいいけど抜けなくなって焦ってやがる。

 熊が咆哮を上げて槍の柄をへし折って、一番近くのやつに飛びついて地面に引き倒し、肩の辺りを齧った。やっべ!


「ぎゃあああ!」

「こ、こいつ! 一斉に突けええ!」


 他の兵士が及び腰になりながら組み付いている熊に槍で攻撃する。いやーしかし、ぶっ刺さってることはぶっ刺さってるんだけど鑑定で見ると熊のHPは20程度しか減っていかない。

 毛皮が厚すぎて、斬りつけるとかそういった攻撃じゃ全然効果がなくて全力で刺す以外にダメージは無く、刺したら今度は熊の筋肉で抜けなくなって槍が使えなくなるという。そして熊が手を振り回すと槍が小枝みたいにへし折れる。

 フォード坊っちゃんも慌てながら弓を構えるが、オレが止める。


「待ちな! 下のやつに当たる」

「しかし!」

「オレに任せろ!」


 足元にあった拳程の石を拾い上げて手ぬぐいで包む。それを振り回して簡易投石機だ。前世だと暴徒がこれ使っててメッチャ危なかったことを覚えてるぜ!

 投擲スキルも持ってるから当たるだろ!


「イヤッハ!」


 声を出して遠心力でぶん回した石を投げつける。熊の顔面に命中! ひゅう! こいつは乗用車のボンネットにでも穴を空ける威力だぜ!

 熊がくぐもった悲鳴を上げると、オレをじろりと睨んだ。どうやらオレの攻撃が一番お気に召さなかったようだ。

 熊と出会ったときやっちゃいかんのが目を逸らして逃げることだって昔猟師のオッサンから聞いたことがある気がするけど、それってば交戦状態になった後のことではないよな、絶対。

 まあでも逃げても意味はないし逃げ切れるステータスの差でもないので、敢えて他のやつから引き離すべく挑発した。


「ヘイ、メーン! その臭え口を閉じてこっちに来いよ! このフニャチン野郎! ケツの穴にぶち込んでティディみたいに大人しくしてやらあ!」


 ワオ。怒った。スゲエ勢いて噛み付いてた人を放置してオレに突進してくる。


『言語スキルのせいでお前の言葉の意味がそれとなく通じたのだろう』

「ヒュウ。動物とお話する乙女とはファンシーだな、オレ。内容はともかくよ」

「シスター! 後ろに──」


 フォードくんがオレの前に飛び出て、果敢に弓を引き絞って矢を打ち込んだ。でも熊野郎の頭に当ったけど軽く肉を切った程度で刺さらずに弾かれる。


「女の子を守ろうと飛び出すのは高評価だぜ、ボーイ」


 オレが震えるフォードの肩を掴んで引き寄せ、手を前に出す。


「オレに任せとけって言っただろ。[聖壁(ウォール)]」


 スキルを発動。熊の目の前に半透明の薄い壁が現れ、熊は頭からそれにぶつかってドンとか人がトラックにぶつかったみたいな音を出して地面に倒れた。

 鑑定するがまだHPは300ほども残っている。全然ピンピンしてやがる。


「兵士さんらはちょいと離れな! おいでよ蛇さん!」


 続けて発動させるのは[蛇呼]だ。上位の術に命令を聞く賢い蛇を召喚する[蛇召喚]があるのにこの術の存在意義ってなんだろうと考えた結果、わかったことがある。

 発動数だ。どうしても蛇に命令を聞かせるやつは一体一体その都度命じないといけないので、一気には呼び出せないし管理も面倒になる。

 蛇呼の方は野生の蛇を出すだけなので、ドサッと呼んで勝手に動き回らせられるわけだ。消費も少ない。

 つーわけで、動きを一旦止めた熊さんの上に30体ぐらい毒蛇をぶち撒けてみた。

 ご、あ、とかそういった野太い叫びを上げて熊が暴れて蛇を振り払おうとする。突然呼び出されて目の前で暴れる熊に遭遇した蛇もびっくりしつつ、本能的に熊を攻撃し始めた。

 如何に皮が分厚かろうが、蛇の細い牙が通らないってことはない。

 そして出血毒と神経毒を兼ね備えた毒液が注入され、熊は体格がデカイから一気に効くわけじゃないけどジリジリと体力を奪い激痛を与える。

 それが熊を更に怒らせて大暴れさせつつ、こっちには壁があるので近寄れない。

 暫くすると熊のHPが目に見えて減りだした。やがて断末魔の叫びを上げる。

 オレは指を鳴らした。


「言っただろ。ケツの穴にぶち込んでやるってな」

「ど、どうして魔物が急に……?」

「あいつが普通の蛇に気を取られてるうちに、オレが操る蛇にケツの穴から潜り込ませて腹の中を噛ませたわけよ」

「ひい」


 幾らステータスの高い魔物とはいえ、そこまでされりゃ死んじまうようだ。内臓ズタズタだけどHPがあるからピンピンしてるぜ!って言われたら困ったけどよ。ケツ穴はヤクの吸収がいいってな。

 フォードがケツを押さえた。オレは思わず笑う。大丈夫だってお前さんのケツは。


「出血毒が全身に回って内臓出血が悪化して死んじまったわけだ。ナムアミダブツ。来世ではブッダになれよ」


 オレが手を合わせて念仏を唱えると、イビルベアは塵になって消え去る。後には鉄槍の穂先と、デロンとした黒い袋みたいなのが残された。

 鑑定してみる。


《イビル熊胆(ゆうたん)。イビルベアの遺物。胆嚢を干した物。内臓系の病気に有効。通常の熊胆よりも高価で取引される》


 もう干されてる状態で出てきたあたり、謎の便利さを感じる。

 おっとそんなことよりも、熊に噛まれた兵士へと近づく。

 うわあスプラッタな感じの色合いになってる。肩がグチャッとなってて前足で押さえつけられたところも切り傷ができてやがる。顔色は悪く、呼吸が荒い。


「ヘイ! 生きてる?」

「死んでるんじゃないですか……?」

「ハハハ、生きてるよ! そんだけ言えりゃ大丈夫だ」


 弱々しい兵士の言葉に、オレは手を触れて治癒を発動させる。

 するとみるみる傷口が塞がり、兵士は信じられないとばかりに目を瞬かせた。


「し、シスターありがと──ぶはっ!?」

「ん? どうした? 口の中に血でも溜まってたか?」

「い、い、いえその……服が!」

「あん?」


 言われてオレは自分の腹あたりを見下ろすと、熊に引っ掛けられたところが無理やり引き裂かれたようになり、臍と下乳が見えるぐらいに破れていた。

 兵士の指摘で、緊張から気にしていなかったらしい周りの皆も一斉に吹き出した。フォードくんなど顔を手で覆っている。


「アーララ。ちょいとセクシーになってやがるな」


 頭に手を当てて首を横に振る。しかしまあ、こんだけ破れてたらどうしようもないだろ。手ぬぐいで隠せる範囲じゃねえし。

 着替えは教会まで行かないと無いわけで……うわ自分で縫えって言われたらどうしようかしらん。オレってば針仕事なんてやったことねえよ。ルシ公にやらせたら変な細工されそうだしなあ……ルシ公の服パクるか。

 そう考えていると、顔を背けて横歩きでフォード坊やがやってきた。顔を背けつつ目線をチラチラと向けて。


「し、シスター! このブリオーをひとまず羽織ってください」

「おっサンキュー」


 そう言ってフォードが付けていたマントみたいな上着ブリオーを渡してきたので、前を隠すように羽織って巻きつける。


「よし! しかし先行して獲物を探しに行った連中が心配だな」

「笛を吹いてみましょう」


 言うとフォードは角笛を吹いて音を遠くに届ける。

 そうすると、森の奥から猟師が持っていた笛が返事のように帰ってきた。


「まだ生きてるみたいだな。オレっちの蛇ーズに先に行かせつつ合流しよう。怪我してるかもしれねえ」

「わかりました。その、すみませんさっきはシスターに守られてばかりで……」


 しゅんとフォードが俯くので、オレはその頭をガシガシと撫でてやる。


「気にすんな。子供を守るのは大人の役目さ。おめえさんも大きくなったら、目の前にいる子供ぐらいは守れる大人になりな」

「シスター……ううう、シスターがカッコイイのと、完全に子供扱いされてるので複雑な……」


 微妙に複雑そうな顔をしながら、オレらは一団となって森の奥を目指して進んだ。




 残念なことに兵士三人が死亡。犬二匹も死亡。猟師も怪我をしながらどうにか残りを連れて逃げていたようだ。

 怪我人をオレが治癒してやり、ついでに襲われた現場に向かって死体を回収してやった。ここに放置してたら狼なんかが寄ってくるかもしれねえからな。

 頭と胴体が泣き別れしたやつ。腹を食い破られたやつ。全身の骨がへし折られたやつ。とても可哀想な死体で、念のために治癒を掛けてみたけど死体には発動しなかった。


『あくまでそれは生きている者にしか効果が無い術だ。お前も洞窟に居た頃、食いかけの鳩肉に治癒を掛けたら肉の量が増えるんじゃないかと試して失敗しただろう』

「そういえばそうだったか。南無」


 オレが死体を荷車に運ぼうとしたら、慌てて他の兵士が制止して代わった。まあ、力仕事は任せろってことか。

 ため息混じりでそれを見ながらカイムに話しかける。


「試練で結構人は死ぬのか?」

『無論だ。だが人は試練が来なくとも死ぬ。飢えで、病気で、災害で、理不尽な悪意で。お前の世界でもそうだろう。神が魔物を派遣せずとも死ぬ人は絶えないのではないか』

「そりゃまあ、そうだな」


 例えどんな宗教の神様だって、全ての人が苦しまないし死なない世界なんてものはこの世にありゃしねえんだ。

 誰だって死ぬから宗教に縋る。起こった不幸を運命として飲み込む。明確な試練なんてものがなくても、いつだって自分なりの試練を見つけては挑んでいる。


『それに比べれば実在する神に用意された試練に立ち向かい死ぬというのは、この世界の常識で言えばマシな死に方だと言われている。上手く打ち勝ちレベルが上がればその後の人生の糧となることが、目に見えてわかる』

「ま、それが常識なら何も言わないさ。ただカイム──」

『なんだ?』

「……いや、なんでもない。お前のコト(・・)は信用してるぜ?」

『よくわからんが』


 そう言ってオレは通信を切った。

 カイムのやつは信用できる。これでも人生経験長いんだ。話をしてりゃ相手の人格ぐらい掴める。それが詐欺師だろうと、オツムの飛んだやつだろうと判別できる自信がある。

 その点カイムのやつはなんというかお人好しだ。ついでに神サマを信奉しすぎている様子もない。むしろ厄介な上司だと思っているフシもある。同僚っぽい天使らに関しても好き嫌いがあるようだ。

 要するにこいつは悪意の無い普通のリーマン天使ってことだ。


 さて問題は神の試練。ひょっとしたら、オレっちがこの場にいるからあの危うく兵士が全滅しそうなレベルの熊が出てきたんじゃねーだろうか。神サマとやらが遣わせて。

 そうすると巻き込まれたやつはとんだ不幸か。かといって神サマ相手にオレがどうこう出来るはずもなく、そもそもオレが悪いわけでもないだろ。向こうが勝手に襲ってくるわけだから。

 偶然熊が出てきたってこともあるだろうけどな。しかしどうもカイムはともかくプタヒルって神はな……姿すら見てねえわけで。

 

「まあいいか。考えても仕方ねえ。オレはやるべきコトをやるだけ、だろ?」


 そう言いながら上を仰ぐと、いつも付いてきている白い鳩がくるっぽーと鳴いた。



 あとトリュフは串焼きにして食ったら椎茸みたいな味がして、味噌とか欲しくなった。

 丸ごとだと匂いがきつくてガツガツ食うもんじゃねえなとも思った。刻んでソースにするんだっけ? オレには無理だ……肉を切ったり焼いたり程度ならまだしも、リョーリって昔から苦手でなあ。





名前:ピエレッタ

称号:隠者

職業:聖職者

種族:人間


LV12

HP50

MP310 

腕力11

法力430

体力23

敏捷22


スキル

聖術LV3

鑑定LV10

言語LV10

召喚術LV5

聖医術LV4

投擲LV5


祈り

天の声

聖乙女

隠者の言葉

癒し手


スキルポイント23


習得


召喚術LV5 [燭火召喚(サモントーチ)]:火を召喚する。火の大きさは術者のイメージと法力に依存する。


投擲LV5 [破擲(インパクト)] :投擲した物の重さが当たる直前に上昇する投擲技。


 




兵士「破れたシスターの服からこぼれたオパイで至高りました。多分全員至高したと思います。服が破れて太腿とかお腹とかも見えてました。至高でごわした」

司祭「ギルティ。裁雷(ジャッジライト)

兵士「──」


一方フォードは悶々とベッドに閉じこもっていたのでノット・ギルティであった。

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