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12話『至高ネタのレッタさん』





 農村でお祈りと畑仕事を繰り返す毎日だ。

 ペンシルバニアじゃわざわざ21世紀にもなって電気を使わずに農耕牧畜に自給自足生活をしているキリスト系宗教団体があると聞いたことがあり、あいつらちょっとアレだなって思ってたのに自分がそんな生活を送るなんてな。まあ、時代的には仕方ないんだが。

 カイムの話じゃこの時代だとフランス北部はまだ農業生産率が高い方で人が集まっている地域らしい。一番人が多いのはヨーロッパだとイタリア北部らしいけど。

 なのでオレの暮らす農村も、冬を越せなくて餓死者が出るほど貧しいってわけじゃなさそうだった。


 ちなみにいつの間にかステータスが更新されてたぜ。



 *****



名前:ピエレッタ

称号:隠者

職業:聖職者

種族:人間


LV8

HP45

MP190 

腕力10

法力380

体力19

敏捷18


スキル

聖術LV2

鑑定LV10

言語LV10

召喚術LV4

聖医術LV4

投擲LV3


祈り

天の声

聖乙女

隠者の言葉

癒し手


スキルポイント11



《癒し手:治癒術を5種類以上、多くの回数使用した者に付くスキル。治療の効果上昇。消費精神減少》



 *****

 

 なんか新たなスキル追加されてた。5種類? ええと、傷を治す治癒(ヒール)と、解毒(ケア)と、体力を癒やす回復(リムーブ)に……ああひょっとして祈りで発動した聖癒(エクスヒール)聖傅(アンクション)もカウントされてるのかな。

 これ系統の術を使う際のMP消費が下がるのは便利なことだ。


 基本的な力とかのステータスは殆ど上がってないから無視していい。全然上がらない。ジャッキーになる夢は諦めたほうがいい。ジャッキーのステータス知らねえけど。法力はモリモリ上がってる。

 召喚術は4になって蛇を使役できるようになった。

 蛇といえば最近白蛇のディビットくんがルシ公に懐いたのか、ずっとあいつの近くに居るようになっちまった。少し寂しいぜ。よく噛まれてるけどルシ公。

 あと久しぶりにディビットくん鑑定したらいつの間にかレベルが10になってた。オレより高いんだけどなんでだ。

 

 聖医術もレベル4。聖壁(ウォール)を習得した。JFKが使ってた、空間に半透明の光の壁を作り出す術だな。


「ん? ちょっと待てよカイム。この聖壁の術って聖法術のレベル2でも覚えるんだよな」

『そうだ。幾つか術系統には被っている術が存在するが、それが得意な系統ほど早くに習得して効果も高い』

「っていうと?」

『例えば……両者が同じ法力を持っていると仮定し、聖医術レベル4の術者が使う聖壁と、聖法術レベル2の術者が使う聖壁を比べると前者の方が固い。だが同じくレベル4同士になると、術適正の高い聖法術使いの方が壁の強度や範囲、展開時間などが上になる』

「へー。専門職には勝てないってことか」

『法力差があればゴリ押しもできるが、基本はそうだ』


 ちらっと調べたら聖武術と祓魔術は両方共、法撃と治癒を覚えるようでバランスがいいような気がする。ただ2つともレベル5以上で覚えるからそこまで鍛えるのが普通は大変っぽい。


「まあいっか。それより蛇召喚を有効活用しようぜ」

『どうするんだ。ルシなんとかでも襲わせるのか』

「それはディビッドくんがやってくれるから良いとして……穀物倉庫なんかの鼠対策にどうよ。領主にも勧めてみるか。代わりに食い物を要求して。フォードが毎日顔を出すからさ」


 麦倉庫で人を噛まないように言いつけて飼ってやれば、勝手に引き寄せられた鼠を食って生活するんじゃねえかな。鼠が結構多いぜ。夜中に走り回ってる音が聞こえるからな。

 フォードって大統領みたいな名前をしたやつは例の領主の息子だ。病弱だったのがオレのお祈りですっかり元気になった。

 今では毎朝のミサに領主館からやってくる。ミサってのは教会のが終わった後でJFKが領主館にある祭壇前で、領主たち相手にもう一回やるんだけどわざわざこっちに来てオレに眩しい視線を送ってやがるぜ。

 聖女サマとか呼ぶのはこっ恥ずかしいから止めろって言ってるんだが。 


「さてと、今日も一日頑張るとしようぜ、カイム!」

『頑張るのはお前だと言いたいところだが、私も延々会話を頑張っている気もする……』





 ******




 本日の懺悔。村人Aさん(仮名)。

 教会にやってきて昼間の誰も居ない礼拝堂にて懺悔を行うことになった。

 なのだが、オレも隣で補助要員っていうか無駄に司祭より多いMPを活かして改悛要員として待機している。案外に改悛ってMPを食うわ。一回で20ぐらい。洗礼が5ぐらいなのに比べて結構な量だ。

 何故か懺悔の場に居るオレを見て凄まじく絶望した表情のAさん。

 なんだ? オレの腕が信用できないってか? いやまあ、秘密の罪を告白して許しを得るので、知られる人数が多くなるとそれだけプレッシャーかもしれねえが。

 JFKがやってみろとばかりにオレを見るので、咳払いをして彼に告げる。


「こほん。さあ迷える子羊よ、神の慈しみを信頼してあなたの罪をここに悔いなさい。神は汝を打たれるかもしれないが、神は汝を許してくださる。多分」

「多分は余計です」


 オレが語りかけると余計に怯えたようで、歯もカチカチと鳴らして脂汗をびっしり掻いたAさんはオレを見た。

 何がそんなにホラーなのかしら。


「あ……ああ……その……」

「良いから吐いて楽になりな。おっかさんが泣いてるぜ……」

「うわあああ……」


 なんかゲロ吐きそうなぐらい狼狽した。


『お前が罪を告白しなければお前の母親も地獄行きだ……と脅したせいだろうな』

「ちがっオレそんなつもりじゃっ……ええい、良いから喋りな! 大抵のことは許してやるから!」


 言うとAさんはバッと跪いて俯きながら早口で告げた。


「すみませんこの前シスター二人がパン焼き窯の裏で風呂入ってるところ覗いてしまいましたごめんなさい忘れようとしたけどシスター・ピエレッタのマリア様のように美しい白い肌やら柔らかそうな胸やらが頭に染み付いて更に冒涜的な禁欲してる修道女と思えないシスター・ルシなんとかの色気とか夢にまで見る有様でついでにお二人が絡みあって遊んでいるところが何これ楽園かよって凄い光景で堪りませんでした!!」


「お、おう?」


 何? 早口でよくわからんけど、この前の風呂を覗いてたってわけか。

 顔を真っ赤にしたAは泣きながら叫ぶ。


「メッチャ至高(シコ)でした! あれから毎日至高(シコ)ってしまって酷い罪悪感で……」

「至高るってなんだよ!?」

「シスターの存在価値の至高さに比べて自分の矮小さへ嫌悪して自分を慰める後ろ向きな行為のことです!」

「それは別に聞きたくなかったかな……」


 微妙そうな顔をする。どうやらオレってば純情な農民のオカズになっちまったみたいだ。うえっ。

 まあ前世でもハンサムでマッチョなナイスガイだったオレはうっかり同性愛者に好かれたこともあったらしいが、そういうデリケートな存在に関してはあまり言及したくねえってのが本音だったな。

 あっJFK司祭が何か鉄球付きの棍棒をどこからか持ち出して素振りを始めた。何アレ怖い。殴って記憶でも飛ばしてやるの?


『祈りスキルを使ったらどうだ。聖法術レベル10天裁(メギド)あたりが発動してそいつを消し飛ばしてくれるだろう』

「なんでそんなガチでキレてんだよ二人共。物騒すぎるだろ」


 たかが風呂場覗きだろ。大体、オレだって精神は男なのに女のルシ公と一緒に入ったしな。さっぱり欲は無かったとはいえ追求されると気まずいぜ。

 

「こほん。オタク、嫁とかは……?」

「いえ……農奴の三男なんて嫁の貰い手もなく……」

「農奴?」


 農奴っつーと農民奴隷的な? あんまり詳しくねえな。カイム先生!


『農民と農奴の違いは時代によるが大雑把には自由の有無だ。農民は自分の土地を所有しており、領主によりある程度の自治が許されている。土地を放棄して旅に出たり、聖職者になったりするのも自由だ。

 一方で農奴は領主から割り当てられた土地で一生働く世襲労働者だ。土地を所有できず、離れることもできず、様々な税金や雑役が課せられる。ただし奴隷とはいうがダイレクトに領主の収入に関わる労働者なので、死ぬほど過酷というわけではない。死なせれば困るのは領主だからな。

 もちろんこれは土地や時代により扱いが異なるが、この時代でこの辺りだとそう云うものだと考えればいい』


 なるほどね。農民って結構しっかりした身分なわけだ。

 で、そんな更に下の階級の三男坊なら嫁が居ないのも仕方ないか。オレで至高らずに嫁で発散しろとでも言いたかったんだけどよ。

 オレはため息をついて肩を竦めた。


「まあ仕方ねえか。オトコノコだもんな。はいはい改悛アタァーック。許されるのだぁー」


 さっさとスキル使用してポワワ改悛ビームをAにくれてやった。

 Aは目を見開いて信じられないとばかりに口をパクパクしている。


「ゆ……許された」

「気分はどうだ?」

「……だっ駄目です! すんなり許されて余計に……! おいは恥ずかしかッッ!! 生きてはおられんッッ!!」

「面倒臭えな。よし、じゃあこうしよう」


 なんかもう発狂しそうなぐらいに叫んでいるので、オレは腰に付けていた革袋を取り出す。


「アンタの食う分の麦ひと掴み持ってきてこの袋に入れな。悪いことすればバチが当たってメシが減る。メシを減らされる罰を与えられて許されたと思えば、少しは気が楽になるか?」

「よ、よか! そいじゃあッッ!」


 慌てて男は礼拝堂から飛び出していった。なんで興奮すると方言になるんだろうな? フランス弁?

 オレはそれを見送りながら考え込む。


「うーん……許しの対価に箱に寄付。どっかで聞いたことのあるシステムだな」

『……それ贖宥状じゃないか。今から四百年後ぐらいから流行るやつ。通称「チャリンと入れればポンと天国」』

「おお、それだ。ルターがキレてたやつ……ってあれ? 司祭サマどうしたの?」


 なんかJFKが頭を抱えていた。ひょっとして狙撃でも受けた?


「ピエレッタ。宗教的に色々問題なのもありますが、早いところ撤回した方がいいですよそれは」

「どして?」

「……一つ教訓としてこじれるまで見守ろうかと思いましたがとんでもないことになるので──」


 JFKが言い掛けたら、礼拝堂の扉が凄い勢いで開かれた。Aが駆け込んできたのだ。


「シスターどん!! 15至高(シコ)ぐらいしたけど分割で支払うごつとりあえず三掴み分を────!」

「喝っ!」

「へぶっ」

「A(仮名)ェ──!!」


 入ってきたAを問答無用で司祭サマがメイス的な何かで頭をぶん殴った。なんで!?

 鼻血を出して昏倒するA。

 それに司祭はしゃがんで自分の指をAの額に当てる。


「[呪法(イビルロア)]……っと」

「あばばばば」

「な、なにやってるんだってばよ」


 オレはドン引きしながら見ている。呪法は聖法術レベル4で、対象に呪いを掛ける術だ。

 っていうか呪いってなんだよ。鑑定解説。


《呪い。様々な体調不良・情緒不安定・幸運低下などを齎すバッドステータス。強力になると災害・財産の消失・周囲の者への悪影響もある。神への祈りで低確率で治癒。本格的な解呪には祓魔師が必要》


 うわ。エゲツな。


「っていうか司祭サマが信徒呪うなよな……」

「やむを得ないことです。後ほどジョン祓魔師に解呪させますので。痛みと呪いで死ぬほど苦しんで恐らく忌まわしき記憶も上書きされるでしょう」


 うわあ。

 なんかこう、司祭が呪って祓魔師が解呪して感謝されるマッチでポンプってやつみたいだな……いや、深く追求すると普通の宗教にも刺さる気はするけどよ。そういうのって。


「──ピエレッタ」

「は、はい」


 なんか怖い目でオレを見ているので背筋を伸ばして返事をする。


「あのままではあなたは『麦ひと掴みあげれば至高って良い存在』として話が広まり、村中の男からそう認識されてしまったでしょう」

「うっ……それはさすがに嫌だな」


 至高った手で握って持ってきた麦がどんどん集まる図を想像してオレは引いた。

 やっちゃ絶対駄目! から、料金払ったらやってもいいのよってなるわけか。

 一方でこっちのJFKの対応でいうと、至高ったら呪われるレベルなので人にも吹聴するわけにもいかず、トラウマになって二度と至高らなくなるかもしれない。

 結局、どっちが救われるかというと宗教的には後者だろうな。半年ばかりしか村に居ない女で至高った罪悪感が蔓延して地獄行きになるのではと苦しむよりは、この場で苦しませてでもそういった意識を断ち切る的な?

 いやまあ、A氏なんか黄色い泡吹いてガクガク痙攣してるけど。


「いいですか。ピエレッタ。ただでさえあなたの容姿は……なんといいますか」

「美少女?」

『堂々と言うか』

「自覚してるのも腹立たしいですね」


 いや、だって。

 正確に言えばオレというかピエレッタちゃんの体なわけで、多少は客観視するわな。

 そう考えると既に死んじまったピエレッタの冥福を祈るためにも、あんまり男から至高キャラ扱いされたら申し訳ないか。


「わかったよ。なるたけ目立たずに旅立ちまで過ごすことにするさ。修行を積みながらな」


 大きく肩を竦めて安心させるように二人に告げた。

 JFKはひとまず納得した様子で、礼拝堂から去っていった。他に仕事があるらしい。畑仕事をしない分、朝ミサ二回、祈りが五回、改悛を聞いたり新生児に洗礼したり婚礼の準備を整えたり死にそうな人を訪ねたり祝福を与えたりと、司祭はとても多忙なわけだ。

 さてとオレも畑でも見に行くかと外に出たら、蛇女がにんまりと笑いながらやってきていた。 


「ファー! ピエレッタ! お前に仕事を持ってきファー!」

「何だようるせえなルシ公。人に回さねえで自分でやれ」

「ムキョー!! 凄いムカつく! ええい、とにかく次の仕事は──」


 蛇女は修道着の足元をたくし上げる仕草を見せつつ、こう告げる。


「ワイン作りの葡萄踏みをやってもらうファー!」


 葡萄踏み……あの盥に集めた葡萄を踏んづけて潰す作業のことか。

 確か昔は少女がやってたとか聞いたことがあるような?

 まあ、それぐらいだったら別に変な仕事でもねえから大丈夫だろ。問題無し。


『不安だ……』 



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