第7話 ファンタジーの定番の、いわゆるギルドってやつ
それから僕ら一行はギルドに向かうことになった。
ちなみに僕は鞄を肩から斜めに掛けている。どうやらこの鞄には冒険に必要な様々なグッズが詰まっているらしい。
「ローザ、見事なパイスラですねぇ」
なんてことをベアトリスはのたまう。
パイスラっていうのは、いわゆるあれだ、鞄を肩から斜めに掛けることで胸の谷間が強調される、あの現象だ。
「アグネスもすばらしいと思いませんか?」
「姫様、私に聞かないでください」
「そんなこと言っても、アグネスもしっかりとローザの胸を見ていましたよね」
「そ、そんなことありません」
「うふふふふ」
と、ベアトリスが含み笑いをする。
「はぁ……」
僕はまたため息をつく。
「とんだ災難だな」
と、アグネスが僕に言う。
「まあね。でも、僕もごめんね。僕のせいでアグネスにも恥ずかしい思いをさせて」
「それは気にするな」
「姫様」
僕はベアトリスに話しかける。
「あの、僕、やっぱり元の世界と元の姿に戻りたいです。だから、その方法を見つけ出したいんです」
「ダメでーす」
「えぇ……」
「だって、そうするとローザは女の子でなくなるのでしょう? それに私たちの前からもいなくなる。そんなことは許容できないですね。こんなかわいい女の子がこの世界からいなくなるなんて、この世界にとって大きな損失です」
「じゃあ、僕を解放してください」
「ええ。いいですよ」
「本当ですか?」
「ただ、服も下着もぜーんぶ置いていってくださいね」
「そ、それは……」
「どうしました? ローザは最強の女の子じゃなのですか?」
「ごめんなさい。やっぱり僕は姫様に仕えます」
「きちんと謝る子は大好きです」
ベアトリスは僕の頭を撫でてくる。
褒められているのに屈辱的だ。
「ローザ、ギルドに着いたぞ」
アグネスが目の前にある建物を指差した。
それは、石造りの大きな三階建ての建物だった。
僕らは正面の扉を開けて中に入った。
※ ※ ※
左手にはまるで銀行のようにカウンターがあって、その中に事務員ふうの女性が座っている。右手には椅子がいくつか並んでいて、冒険者たちでひしめいている。右に壁には無数のちらしが魚の鱗のように貼られていた。
冒険者たちは、鎧や剣や槍で武装していたり、魔法使いのようなローブを羽織っていたりしている。本当に剣と魔法のファンタジーの世界って感じだ。この銀行ふうのギルドが微妙に世界観に合わないような気がしないでもないけれど。
ベアトリスとアグネスがカウンターのところに向かったので、僕も彼女たちについていく。
カウンターの女性が僕らににっこりと営業スマイルを見せる。緑の髪をしているかわいい女性だった。といっても、二次元の女性キャラクターはたいていかわいく描かれているのだけれど。
「ローザ、鞄から『たつのおとしご草』が入った瓶と、依頼書を出してください」
「たつのおとしご草?」
「まあ、見ればわかります」
「はい」
僕は鞄を開け、小瓶とそれっぽい書類を取り出し、カウンターの上に置いた。
たしかに小瓶の中には、タツノオトシゴっぽい形をした草が1ダースほど詰められている。
「これは薬の材料になる薬草です。昨日はこれを採取する依頼を達成するために森の中に入っていたんです。薬草だけでなく、女の子も採取してきちゃいましたけど」
「女の子も採取……?」
事務員の女性が怪訝そうな顔をして言う。
「気にしないでください。ちょっとした冗談です。森で仲間を見つけたんです」
「そうですか。たしかにこれで依頼達成です。こちらが報酬の7500コペカです」
事務員の女性が木製のキャッシュトレーに金貨と銀貨を乗せて差し出してきた。
「たしかに」
ベアトリスがそれを受け取り、
「ローザ、鞄の中に財布が入っているので、出してください」
僕は言われたとおりに鞄からひとつの袋を取り出した。小さな緑色の袋で、財布というより本当にただの袋って感じだ。その中には硬貨がいくつか入っている。
ベアトリスが受け取った硬貨を入れ、鞄の中にしまうと、ちょっと鞄が重くなった。
「さて、次の依頼を探しましょう。モンスターの討伐といきましょうか」
ベアトリスはそう言って、壁に貼られているちらし群のところに行く。
文章は読めなかったけれど、数字はわかる。たぶんそれが報酬の額なんだろう。おそらく高いほど危険な依頼なんだろう。
「アグネス、どれがいいでしょうか」
「私が決めてよろしいのでしょうか」
「ええ。アグネスも戦いたくてうずうずしているでしょうし」
「私は別に」
「遠慮しなくてもいいんですよ」
「それなら……」
アグネスがちらしを見ていく。そして、
「このヘビコウモリ6体の討伐にしましょう。2万1500コペカです」
「そんなぬるいのでいいんですか?」
「いきなり強敵に挑むより、こつこつやっていったほうが安全です」
「たしかにローザも初めてですし、それがいいかもしれませんね」
「もしかして、僕も戦ったり……」
「それはダメです」
「で、ですよね……」
これじゃあ一向にレベルも上がらないし、いったいどうしたらいいんだろう。