第4話 姫様はすばらしいお方です
宿屋には大きな共同浴場が付設されているとのことだった。
僕はふたりにそこに連れて行かれた。
何されるんだろ。だいたい想像つくけど。
はぁ……。ため息ばかり出るね。
脱衣所でメイド服と下着を脱ぐ。
また全裸になったわけだ。大きな乳房と、アレのついてないお股がお目見えする。
うう、気にするな。気にするな。同じ人間の身体じゃないか。それに、これは絵だ。イラストだ。二次元のキャラだ。
……でも、やっぱり自分で自分の身体に欲情していまいそうになる。ここ、浴場だけにね。
「まるでゆでだこみたいに真っ赤だな」
と、アグネスが茶化して言う。
「自分の身体があんまりにもエロすぎて、恥ずかしいのだと思いますよ」
「お前が元は男だったというのは本当かもしれないな。その反応は演技とは思えない。だとしたら、やっぱり姫様と私の裸を見せるわけには……」
「あらあら、アグネス、けっこう純情なのですね」
「別にそういうわけでは……。って、ちょ、ひ、姫様!」
「何ですか?」
ベアトリスは服をさっと脱ぎ、下着もするりと手早く脱いで裸になった。
胸はない。けれども、つるんとした白い肌をしていて、なんだかむらむらしてくる。
でも、僕はもうオナニーとかできないわけだ。いや、女の子でもオナニーってできるか。
いや、さすがにそれは僕にとって刺激が強すぎるというか。
「こいつの前で裸になるなんて、まずいですよ」
アグネスが慌てたように言う。
「別にいいではありませんか。女の子どうしですし。こんなことだってやっちゃいますよ」
ベアトリスが僕の近くに来て、いきなりおっぱいを揉んできた。
「ひゃっ、な、何するんですか」
「すばらしいですね。形も大きさも色も柔らかさもすべて完璧です。もっとこの胸に胸を張っていいんですよ」
「あっ……ああっ……。や、やめてください。ほ、ほんとに」
「すごくかわいい反応しますね。もうやめられませんね」
「ひゃっ、そこ乳首……それはほんとに……あ、ああっ……」
「姫様、それくらいでやめてやってください」
「そうですね。またいつでも楽しめますからね。そうそう、アグネスも揉んでみますか? ローザのおっぱい」
「昼に揉みました」
「そうでしたね」
「アグネスもいつでもローザのおっぱいを揉んでいいですよ」
「僕は許可した覚えないんだけど」
僕はぶっきら棒に言う。もうこのお姫様に敬語を使う義理もない。
「ずいぶんと反抗的ですね。それくらいのほうがこっちもやりがいがありますね」
ベアトリスはにっこりと微笑んだ。悪魔の微笑だ。
※ ※ ※
「ううっ……」
結局、風呂場で散々僕の身体はもてあそばれた。
くそう、服も下着も靴も手に入れたし、逃げ出してやる。
ちなみに、今の服装はピンクのワンピースのパジャマだ。こんなかっこうだけど、裸よりはマシだ。
「さあ、ローザ、私と一緒に寝ましょう?」
「え? 姫様と?」
「はい。さあ、私のベッドに来てください」
ベアトリスは、ベッドをぽんぽんと手で叩いた。
「姫様、それは危険です。寝首かかれるかもしれません」
「大丈夫ですよ。それにアグネスもいますから」
「しかし、姫様……」
「アグネスも乳首いじめられたいですか?」
「わ、わかりましたよ。おふたりで寝てください」
アグネスはそう言うと、布団をかぶった。
「さあ、私たちも一緒に寝ましょうね」
ベアトリスは顔はかわいいのに、どうしてキャラデザのやつはこんな性格にしたんだ。
まあ、そのキャラデザの人間もこうやってヴィヴァ・ラ・ソシアルの世界とキャラが「実在」しているなんてつゆにも思ってないだろうけど。
※ ※ ※
女の子とこうやって寝るのなんて初めてだ。
ベアトリスはかわいいし、いいにおいもしてくる。でも、それ以上に何されるかわかんないという恐怖もある。
もっと性格がいい子なら素直に喜べたんだけど。
でも、ベアトリスは僕に何もせず、すぐに眠ってしまったようだ。
すーすーとかわいい寝息を立てている。
よし、今しかない。
僕はそおっとベッドから出て、忍び足でドアに向かう。
アグネスも眠っているようだ。
僕はドアの鍵を、音を立てないように慎重に開け、廊下に出た。
そして、また忍び足で廊下を歩いて、宿屋を出た。
空には満点の星空が広がっていた。星々が集まっているところはぼおっと白く光っている。都会では見られないような夜空だ。
夜風がすっと僕の長い髪とスカートを揺らす。開放感もあいまって、すごく心地よい気分。
僕は誰も歩いていない真っ暗な村の大通りを歩く。
石造りの町並み。看板もいくつも立ち並んでいる。けれど、僕にはそれは読めなかった。もちろんヴィヴァ・ラ・ソシアルで使われている言語は日本語だけど、作中に登場する文字はアルファベットを崩したようなオリジナルのものだ。
やつらからちょっと金をくすねてくればよかったかな。これじゃあ、武器も買えない。いや、その前に食事にもありつけないかもしれない。
もうちょっとレベルを上げてから逃げればよかったかな。でも、奴隷でメイドだと、戦闘に参加させてもらえなさそうだし。
くそっ、これからどうすればいいんだ。
僕は足元に落ちていた石を蹴っ飛ばした。
「痛て」
声が聞こえてきた。男の声だ。
暗くてよく見えなかったけれど、どうやら人がいたようだった。
「あぁ? 何しやがんだ、このアマ!」
チンピラ風のふたりの男がこちらに歩いてくる。ひとりは大柄、もうひとりは小柄だった。
「ご、ごめんなさい。人がいるのに気がつかなくって……」
「兄貴、この女、なかなかの上玉ですぜ。胸だってでかいですぜ」
と、小柄な男が言う。
「こりゃ石に当たってラッキーだったかもな」
「ほ、ほんとにごめんなさい」
「もっと誠意を見せてもらわねーと困るな、お嬢さん」
「せ、誠意ですか……」
「さっさと股開けよ」
大柄な男が僕の肩をがしっとつかんできた。
痛い。そうとうな力だ。僕にはとうていかないそうもない。
せっかく異世界に来たっていうのに、一匹も魔物を倒してないのに、もうここで冒険が終わっちゃうの? ああ、神様。もう女の子の姿でいいです。ローザの姿でけっこうですから、助けてください。お願いします。
そのとき、ばっと僕の背後から影が現れた。それは大男を瞬時に斬りつけた。
「ぐはっ」
大男はすぐに地面に倒れた。
「あ、兄貴!」
すかさずその影は小男も斬りつけた。
「ぎゃあ!」
気がつくと、小男も地面に倒れている。
その影はアグネスだった。
「バカな女だ。逃げたって危険な目に遭うだけだ。気持ちはわからんでもないがな」
アグネスはそう言いながら、剣をさやにしまう。
「アグネス、ありがとう……」
「泣くな。お前は男だろうが」
「うん」
僕はパジャマの袖で涙をぬぐい、
「あのふたりは死んだ?」
「いや、気を失っているだけだ。今のうちに身包み剥いでしまおう。多少は懲りるかもしれない」
アグネスはふたりの男の服を脱がし、金を奪った。
「けっこう悪どいことするね」
「当然の報いだ。むしろ殺してしまいたいくらいだが、人を殺すと色々厄介だ」
アグネスって人を殺したことがあるのかな? 剣士なんだし、もしかしたらあるのかも。
「この服はどこかに捨てよう」
と、アグネスは男たちの服を示す。
「持っているのも忌々しい」
宿屋に帰る途中、アグネスは路地に男たちの服を捨てた。
「もし、姫様が気づかなかったら、この件は黙っておいてやろう」
「ほんとに?」
「ああ。ローザがエロい拷問にかけられているのを見るのは忍びない」
「ひえっ、もしばれたらどんなことされるの……」
「今のはちょっと大げさだったな。姫様は女の子にエロいことをしたり、させたりする趣味があるけれども、本当にすばらしいお方だ」
と、アグネスは目を輝かせながら言った。
……まったくすばらしい人間とは思えなんですが。