第2話 僕はこの世界で最強のはずなんだけど……
「僕、おもちゃなんですか……」
「ええ、そうです。おもちゃで奴隷です」
と、ベアトリスは平然と言った。
「ど、奴隷って」
「嫌ならアグネスのマントを返してもらいます。あなたは森の中で全裸でさまようことになりますね」
「それだけは勘弁してください」
「それが嫌なら、ローザ、あなたは私についてくるしかありませんね。私の奴隷でおもちゃになるか、それともこの森に放置されるか、ふたつにひとつです」
「ぼ、僕は最強のキャラのはずなのに……」
「最強? それはどういうことでしょうか」
「この物語では、僕はいちばん強い登場人物なんです。いちばん高いレアリティなんです。そんな僕が奴隷でおもちゃなんて」
「そうですか。最強なのですか。それならアグネス、その子のお相手をしてやりなさい」
「ただのひ弱な女にしか見えないが、お前が最強だとかのたまうのなら、相手をしてやろう」
アグネスはそう言うと、剣を地面に置いて、鎧を脱いだ。
「これで対等だ」
彼女はブラジャーとパンツだけの下着姿になる。
それなりに胸は大きいみたいだ。それに筋肉質でとても美しい身体をしている。
僕はそっぽを向き、
「目のやり場に困るんだけど」
「お前が言うな。さあ、マントを脱げ」
「ちょっと待って。この下、全裸なんだけど」
「お前が男だというのなら、勇気を示してみせろ」
「くっ……わかった」
僕はふぁさっとマントを脱いだ。もうこうなりゃやぶれかぶれだ。
また僕の全裸姿がお目見えする。大きな乳房とピンク色の乳首が見える。股の間は……それは気にしちゃいけない。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
でも、僕は女の子の姿になったといっても男だ。しかも、このローザはヴィヴァ・ラ・ソシアルで最強のキャラなんだ。HPもMPも攻撃力も防御力もトップクラスのはずだ。奴隷になんてされてたまるか。
僕はふりかぶって右パンチを繰り出す。
が――
めちゃくちゃへなちょこなパンチだった。僕、人を殴ったことなんてないんだった……。
アグネスは、パンチを繰り出した僕の右手をばっと左手でつかんだ。
「何だそれは? 攻撃しているつもりか?」
「ごめん、今のなし」
アグネスは残った右手で、僕のおっぱいをがっとつかんできた。
「ひゃあ! や、やめて!」
さらにアグネスは左手でも僕のおっぱいをわしづかみにしてきた。
そして、両手でむにむにむにと揉んでくる。
「はああ、あふう、や、やめて……」
「胸を揉まれただけで戦意喪失するとはな」
「ご、ごめんなさい。もう生意気なこと言いませんから、許して……」
「アグネス、その辺にしてやりなさい」
と、ベアトリスが言う。
アグネスは僕の胸から手を離し、
「ふん、雑魚が」
ううっ……。
僕はうずくまって、羞恥心に耐えようとする。
どうして。ゲーム内でいちばん強いカードじゃなかったの? もしかして、レベルが足りてない?
「ローザ、あなたは私の奴隷です。いいですね?」
ベアトリスはうずくまっている僕の近くに来て言った。
「は、はい。姫様……」
悔しいけれど、承服するしかない。元に戻る手立てを考えるためにも、こんなところで全裸で放置されるわけにはいかない。
「さあ、またマントを羽織ってください。ええ、悪いようにはしませんよ。暗くなる前に早く宿屋に行きましょう」
ベアトリスはにっこりと僕に微笑みかけながら言った。
その笑顔はなんか怖かった。
※ ※ ※
三人で森の中の道を歩いた。僕はふたりの後ろをとぼとぼとついていく。アグネスが足に布を巻いてくれたけれど、それでも舗装されていない道をそれで歩くのはけっこう痛かった。
道の両脇に鬱蒼と茂る木々も、その葉間から差し込むリボンのような光も、すべてが美しい絵だった。
現実感のない世界に、現実感のない身体。でも、感覚だけは本物っぽい。変な感じだ。
それで、20分ほど歩いて、どうにかこうにか町にたどり着いた。石造りの家が立ち並んでいる大きな町だった。月並みな表現だけど、中世ヨーロッパ風ってやつだ。この町のことも僕は知っている。リープという、イェナン王国の王都ルクセンの近くにある商業都市だ。
人が多く歩いている。当然男も女もいる。そして、僕のことをちらちらと見てくる。
僕はマントの下が全裸だと悟られないように、アグネスの後ろに隠れながら歩く。
「ローザがきれいでかわいいからみんな見てますよ。元々は男の子だって誰もわからないですね」
「ううっ、恥ずかしいんですけど」
「もっと誇っていいんですよ。その美しくて、大きな乳房も見せてやりなさい」
「ひ、姫様。それはひどいです」
「冗談ですよ」
と、言ってベアトリスはくすくすと笑う。
「お前が本当に異界から来た男かどうかはわからないが……少しかわいそうになってきたな」
と、アグネスが言う。
同情するなら、ちょっとこの姫様どうにかしてほしいんですけど。
※ ※ ※
それからさらに30分くらい歩いて、町の郊外にある宿屋に到着した。ログハウス風の木造の建物だった。林間学校を思い出してちょっとわくわくする。そんな状況じゃないんだけどね。
カウンターには女の子がいて、
「その子はどうされたんですか?」
「森の中で拾ったんですよ」
と、ベアトリスが答える。
「森の中で女の子を拾ってくるなんてことがあるんですね」
「ええ。この世の中には色々なことがありますから。でも、お代はちゃんと三人分払います」
「それなら問題ないです」
「さあ、ローザ。部屋に着いたらかわいいお洋服を着せてあげますからね」
「えっと、その子、もしかして裸……」
と、宿屋の女の子が言う。
「ええそうです。見てみますか。とってもきれいな身体をしてますよ。乳房も大きくていい形をしています」
「え、遠慮しておきます……」
よかった。これで是非見せてくださいとか言われたらどうしようかと思った。
※ ※ ※
部屋に着くと、僕は床にへたりこんだ。脚は疲れていて、棒みたいだし、それに足の裏がすごく痛い。巻きつけた布を取ると、血がにじんでいた。
「ああ、ローザ。かわいそうに。きれいなおみ足がこんなことに」
「姫様。痛くてもう歩けません」
「大丈夫です。私の治癒魔法ですぐに治してあげますから」
そう、このヴィヴァ・ラ・ソシアルの世界には「魔法」というものがある。水や炎で攻撃したり、怪我を治療したり、遠くのものを一瞬で近くに引き寄せたりと、かなり万能なものだ。
ベアトリスは僕の足の裏に手をかざす。すると、柔らかな太陽のような光が彼女の手から発せられた。すぐに足の裏の傷は何事もなかったかのように元通りになった。
「ありがとうございます。すごいですね」
「ええ。これでも一級の魔法使いなんですよ。さあ、怪我も治ったことですし、これを着てください」
ベアトリスは部屋の隅にある鞄のなかから、メイド服を取り出して言った。
「な、何でメイド服なんですか」
「アグネスに着せようと思って持ち歩いているんですけど、どうしても着てくれなくて」
「いくら姫様の命令であっても、それだけは譲れません。私は姫様をお守りする剣士であって、メイドではないのですから」
「ほら、こんなにも強情」
「あの、僕もメイドじゃないんですけど」
「メイドですよ? ていうか、あなたは奴隷ですよ、ローザ」
「ううっ、わ、わかりましたよ……」
レベルが上がって、強くなったら見返してやるんだからな。
「あ、そうそう、まずは下着をつけないといけませんね」
ベアトリスはそう言うと、同じく鞄の中からブラジャーとパンツを取り出してきた。
「姫様、それ、私のですけど……」
と、アグネスが言う。
「いいじゃありませんか。これは非常事態です。アグネスには、もっとふりふりしててかわいい下着をあとで買ってあげますよ」
「わ、私はそういうのは似合いません……」
「あら? アグネスもローザに負けず劣らずかわいいと思いますけど」
「姫様、冗談はよしてください」
「冗談じゃないですよ」
と、ベアトリスは言うと、ふふふと微笑んだ。
アグネスが僕のことを哀れみの目で見てきた。どことなく彼女は安堵しているような気もする。もしかして、彼女も今まで散々このお姫様に振り回されてきたのだろうか。そのお鉢が僕に回ってきたと、そういうことだろうか。
「明日にでもローザにちゃんと合う下着を買ってあげます。でも、とりあえずはこれで我慢してください。あ、元々は男の子だってことですよね? ブラジャーなんて着けるのは初めてですよね? 私が着けて差し上げましょう」
「じ、自分でできます」
「遠慮なさらず」
ベアトリスは僕にブラジャーをつけるとき、僕の胸を揉んできた。
「な、な、な、何するんですか!」
「奴隷のおっぱいの感触を確かめるのも主人の務めですから」
「ひゃ、ひゃあ……そんな務めがあってたまるか!」
「そんな強情を張っているのも今のうちですよ」
ベアトリスは僕が床にへたり込むまでおっぱいを揉みしだいてきた。
「何で僕がこんな目に……」
異世界召喚とか異世界転移の物語ってもっとかっこよくチートで敵を倒すとかそういうのじゃないの?
何で女の子の姿になって、女の子におっぱい揉まれてへたりこまないといけないんだ……。
ちなみに、ブラジャーはサイズが合わなくて、めちゃくちゃきつかった。