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第1話 くたばれリア充

この作品は前作『モテない友人の失踪』の登場人物による青春ギャグ(自虐)小説です。この小説を世のモテないサエないイケてない非イケメンの童貞のみなさんに捧げます。リア充の方々や女性の方々にも、登場人物たちのどうしようもなく情けない生き方に、共感と同情をもって読んでいただければ、とてもうれしいです。

 童貞同盟というのは、おれの友人アキヒロが勝手に作り、勝手に会長を名乗っている秘密結社である。結社の自由は日本国憲法第二十一条で保障されているのだから、どんな団体を作ろうと個人の自由だが、許せないのは勝手におれを会員にしてしまっていることだ。それどころか、知らない間におれは副会長にされてしまっていた。というのも、この童貞同盟の会員はおれとアキヒロの二人しかいないのだ。まったく、いかに友人が少ないかがわかるというものだ。実は以前にはケンジという友人がいて、こいつもアキヒロは勝手に会員にしていたのだが、多部未華子似の恋人と駆け落ちをすると言って失踪してしまった。そんな恋人が本当にいたのかどうかはいまだにわからない。


 その日は童貞同盟の集会をやるというので、おれは行きつけの道亭という居酒屋に呼び出された。店の名前は本当は「みちてい」というのだが、アキヒロは「どうてい」と呼んでいる。それにしても、二人しか会員もいないのに、集会も何もないもんだ。

 店の中に入ると、アキヒロはもうカウンターに座って、大ジョッキの生ビールを飲んでいた。そしておれの姿を認めると、焼き鳥の串を持った左手を上げながら言った。

「よう、遅かったじゃないか。今日は大事な議題があるんだから、遅刻してもらったら困るぜ」

「なに言ってんだよ。まだ五時五十分だ。十分も余裕があるぜ」

おれは反論したが、アキヒロは平然としていた。

「あ、そうだったかな。おれは五時からと言ったつもりだったんだが。まあいいや、あっはっは」

おれは頭を抱えた。その一時間の間にビール大ジョッキ三杯はおかわりし、焼き鳥十本は軽く食っているだろう。これで勘定はワリカンなんだから、まったく割に合わない。


「それはそうと、今日の重要議題なんだがな」

とアキヒロは急に真面目な顔になって話を始めた。

「おれたちの神聖なる童貞同盟の重要な使命の一つに、不埒なリア充どもを懲らしめるというのがある」

「おい、ちょっと待て。何だそりゃ。そんな使命、おれは初めて聞いたぞ」

しかしアキヒロはおれのそんな素朴な疑問も無視して、話を続けた。

「こないだは親子連れも多い公園で、真っ昼間からベンチに座ってイチャイチャしているカップルを見かけたから、おれはこっそり後ろに回って、男のセーターに毛虫をつけてやったぜ。ざまあみろ」

なんてヒキョウでセコいことをするやつだ。おれは呆れてものも言えなかった。

「それで今回のターゲットだが、おれと同じ学科に天羽翔(あもう・しょう)というやつがいる」

それはおれも知っているやつだった。超イケメンで背が高く、ファッションセンスもよくて親も金持ちで、当然のことながら女にもモテる。ファッション誌のモデルもやっていて、同じくモデルをしている有名人を彼女にしているという噂だ。

「あいつは付き合っている彼女がいながら、他の複数の女たちともデートしているらしい。こんな不埒なやつは成敗してやるのがおれたち神聖なる童貞同盟の崇高な使命だ」

アキヒロの口調は次第に熱を帯びてきたが、おれは黙って聞いていた。

「それに名前からして気にくわないじゃないか。天羽翔なんて。モテるやつは何で名前までカッコいいんだよ、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう。リア充なんか、リア充なんか、みんなくたばっちまええええ」

アキヒロはそう言うと、急においおいと泣き始めた。それからおれのジョッキを取り上げるとビールを一気飲みし、すぐさまおかわりを注文した。そしてさんざんリア充を罵ったあげく、床にぶっ倒れて寝てしまった。

 おれは仕方なくアキヒロを抱え起こし、タクシーに乗せてアパートまで連れて行った。結局その日の飲み代は全額おれが出し、タクシー代まで合わせるととんだ出費になった。これは絶対あとで請求してやる、と思ったが、どうせ無駄だろうなとあきらめた。


 その三日後、おれとアキヒロはキャンパス内でたまたま天羽翔を目撃した。天羽翔は女子学生と並んで立って、楽しそうにおしゃべりをしていた。

「おい、これからあの不埒なリア充を成敗するぞ」

アキヒロはそう言うと、天羽翔の方へと背後からゆっくり近づいていった。いったい何をするつもりなのだろうと思っていると、アキヒロは天羽の真後ろで止まり、自分の膝で天羽の膝の後ろを押した。こ、これはまさか、あの超古典的なイタズラ、膝カックンではないか。

「わあっ」という声とともに、天羽翔は後ろに倒れた。その拍子にアキヒロも倒れ、天羽の下敷きになった。

「ぎゃあっ」

今度はアキヒロの叫び声がした。アキヒロは膝を押さえて、イテテ、イテテと呻いている。おれはすぐに駆け寄った。顔を見ると、目に涙を浮かべて痛そうな表情をしている。周りにも学生たちが集まって騒ぎ始めた。やがて誰かが救急車を呼び、アキヒロは病院へと運ばれていった。


翌日おれは病院へ見舞いに行った。アキヒロは膝の骨を折る全治一ヶ月の重症だった。しかし自業自得だから仕方がない。事情を知った他の学生たちは誰一人として同情する者はなく、みなせせら笑うだけだった。

「ちきしょう、もうちょっとだったのにな。さっき寝ている間に、ムーンウォーク膝カックンという新技を思いついたから、今度こそリベンジしてやる」

おれはもうただただ呆れはてて、ものも言えなかった。こんな童貞同盟なんか一日でも早く脱退してやる。そのためにはなんとしても彼女を見つけよう、と強く心に誓ったのだった。

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