タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。
「や」 ‐夜・家・矢‐
や行
やめられない。
もはや、夜のお楽しみ化している。
暇つぶしに初恋の人を検索したらホームページを見つけてしまった。
塾の講師かなんかをやっていて、いろいろ活躍していた。
自己紹介ページの画像で絶対に彼だと確信した。
ぜんぜん変わっていない笑顔に対して、大人として仕事をしている小難しい文章が、
あたしの知らない今の彼を教えてくれる。
元々あたしなんかと次元の違う頭のいい人だったけど、
こんなにもいろんなことを考えている人だとは思わなかった。
趣味の領域として更新されているブログもあり、毎日更新してるわけじゃないのに
毎晩のように訪れてしまう。
さかのぼって読んでいけばここ何年かの彼の状況がよく分かる。
記事に時折書きこまれているコメントに今の交友関係も垣間見える。
その社交辞令的コメントのやり取りに、最近知り合ったばかりの間柄なんだなと勝手に推察して
変な優越感が生まれた。
ぜんぜん親しくしくなかったけど、あたしは彼のこと前から知ってるのよ、気分だけは昔の女気取り。
一人、家でブログを熟読してるあたしは一ファンにすぎないけど。
好きなアーティストのラブソングが自分に向けられていると錯覚するみたいに、
ブログに自分に近い人タイプの人ことが書かれていると、
ぜんぜん接触がないのに自分のことのように思えてしまう。
あたしだけに発しているわけないのに、一人で誤解して読み進めるのが楽しかった。
ホームページというネット上の彼の家には気軽に遊びに行く。
あの頃に戻れるような気がした。
あの時は、こんなに近づくことができなかった。
中学生の時に好きになった同じ塾の子。あの時代は顔が好みだけで好きになれる、
ほんとアイドルのファンと変わらない気持ちで恋することができた。
学校は違ったから、名前さえ知らなかった。
結構人数の多いクラスだったし、生徒は同じ学校の知ってる者同士で固まっちゃうし、
まして女子は女子、男子は男子としか話さないので、全く交流がなかった。
出席で呼ばれる名前と声を確認して、やっと名前を知った時、嬉しかった。
クラスのテスト結果のプリントに毎回上位の人は名前が発表される。
耳で聞いた彼の名前だろう名前を見つけ、漢字を知った。
この名前に並びたいと勉強を頑張った時もあった。並ぶことは一度もなかったけど。
なんであんなに、一生懸命になれたんだろう。
好きになれたんだろう。話もろくにしたことがなかったのに。
同じ空間に、彼がいるだけで楽しかった。
彼に追いつきたくて、頑張れる自分も、なんか成長してる気がして好きだった。
恋の力は凄いなって、何一つ実ってないのに楽しかった。
ブログを読んでいて、来月、子供向けだが塾のイベントがあると書いてあった。
その場所にいけば、彼に会える。
市民会館みたいなところで、一般の人も自由に参加できるようだ。
あたしは、すごい宝物を見つけたかのようにその市民会館までのルートを検索しだした。
カタカタとなるキーボードの音だけが響くあたしの家。
ふいに夜の静けさが襲ってきた。
いろんなルートが出てきた画面を見て我に返った。
見つけたところでどうしたいんだ、あたし。
自分の心に聞くより先に指が動いた。
どうしよう・・・と思ったあたしは、また検索しようとした。
最近の癖、なんでも検索して答えを誰かから貰おうとする。
マウスの矢印が指したところを開けば、なんでもかんでも答えが出てくるわけじゃないのに。
「初恋の人 再会」と検索しても探偵事務所の案内や個人の日記が出るだけ。
検索しすぎてどんどん泥沼にはまっていった。
最初の検索で彼の日常をちょっと知っただけでやめておけばよかった。
キーワードを入れてキーボード叩けば、簡単に手に入る彼情報に喜んで、
どんどんエスカレートしていく自分が怖くなった。
あたし何していたのだろうか。
彼をどうしたいんだろう。
彼とどうなりたいんだろう。
なんでもかんでも検索している自分は、過去にしがみついているようで哀れに思えた。
恋に恋する初恋の、あの原動力が懐かしくて、
今の自分から逃げるために、寂しい夜に過去の人を探して慰めていた。
通り過ぎた人たちには、今それぞれの生活がひろがっている。
あたしも新しい生活をしている。だからもう追いかけるのはやめよう。
思い出の人は、同じ時に同じ場所にいたあの時だけで終わらせよう。
もうやめよう。
恋の矢は未来にむけられるように。