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東禧石物語  作者: 渡部 遊雲
6/6

任務

素振り1000本を終える頃には太陽が雲を赤く染めていた。


疲れきった体を休ませているシャオの体をカルディオが雑に蹴り上げた。


さほど力も入っておらずあまり痛みを感じなかった。


蹴られた足を擦りながら、何事かと立ち上がると遠くからある男が歩いてきた。


シャオの横に立つカルディオの目の前まで来ると男は足を止めた。


顔についた裂け目のような細い目、弓状に歪んだ口元には張り付いた嘘の笑顔を感じさせた。


そして何より目を引くのは獣の耳が頭についていることだった。


小麦色の毛色と縁取るような黒い毛色から、狐の耳のようだった。


「キョウ、どうかしたか」


カルディオが機嫌の悪い色を滲んだ顔で問いかけた。

そんなカルディオを気にもとめずキョウと呼ばれた男は飄々とした口調で


「宮様から伝言だよ、君に遠出の任務だってさ」


その言葉に眉尻を鬼のように釣り上げて地の底から這うような低い声で「なに?」とカルディオは呟いた。



それもそうだろう。カルディオは今では新人護の指導係を務めているが、故凌守なのだ。


宮邸に仕える人々は霊力が高く時折、民間の悩みや事件を聞き対処する。


主に任務を請け負うのは護の役目で、宮直轄の兵士・故凌守が任務を遂行することはまず無い。


宮邸の周辺の視察に出かけることはあっても、外部からの任務を故凌守が負うとは前代未聞ではなかろうか。


「まぁ、そうかりかりしなさんな。宮様もお考えあってのことだろうよ。」


「そういうお前が行けばいいじゃないか。オレでなくともお前で十分だ。」


「いやぁね、それが今回絡んでくるモノが問題あって」


歯切れ悪く視線を漂わせるキョウにカルディオは目を細めた。


カルディオの無言の威圧に気圧され、キョウは嘆息する。


「今回、梁楽りょうらくが関わっているらしいんだよね。俺は関われないし、宮様もその方が安心するだろう?」


飄々としたその台詞を口にしながら、キョウの細い目には底知れない憎悪の炎が燃えていた。


その憎悪にシャオは恐怖し我知らず後ずさりをする。


怯えているシャオを横目にカルディオは忌々しげに顔を歪めた。



「致し方ない、詳細は聞いているのか?」


「うん、出発は明日の早朝だから急いで準備してね」


「はぁ?明日って急すぎやしないか。人使いが荒いな」


「でもどうせ新人いびりしかすること無いんだしいいだろう?」


「あまりそういう冗談は好かないな。就寝には気をつけることだ」



背筋の凍るカルディオの言葉をキョウは軽く流した。


(宮様から言伝を賜ったこのキョウとか言う男、故凌守なのかな)


それならばカルディオに物怖じしない態度も納得ができる。同僚ならば気さくに話すことも無理ではない。

たとえ相手が鬼のように恐ろしい形相で、本気で恐ろしい冗談を実行しそうなカルディオでも。


シャオは二人を凝視していた。すると、その視線に気づいたのかキョウがこちらに視線を向けた。



「そうそう、今回の任務は新人護に初任務として同行させるようにだって。」


「はぁ??だから俺が割り当てられたのか」


「だから一人はこの子でいいんじゃない?」



薄ら笑いを浮かべながらキョウはシャオを指差した。


カルディオはシャオを一瞥し口を引き結んだ。珍しく黙るカルディオにキョウは思わず吹き出した。


「何その変な表情!君もそんな表情ができるんだね」


「うるさい…だがなんでこいつなんだ」


探るようなカルディオの視線をかわし、キョウは背を向けた。


「後二人決めておきなよー」


キョウはその言葉を最後に修練場を後にした。




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