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東禧石物語  作者: 渡部 遊雲
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4


※カルディオ視点




カルディオは大広間を後にし、修練場に向かう。


カルディオは故凌守であったが、いまは新人の護の全体指導係を務めていた。


新人の緩みきった精神にカルディオの鬼と表される厳しい指導が効くと同僚の狐目男・キョウが提案し、他の故凌守も賛成したため見事指導係になったのだ。


護の新人はある期間に選出される。そのため最初は一人の指導者が新人に基礎を叩き込む方針で行っていた。


護の新人選出には難問ばかりの試験と面接を重ねる。そこから100人程度に絞り込まれる。


難しい職柄だが、帝と同等の立場の宮に使える職業だ。


危険が伴うが名誉のある職業であり、人気もある。


その護たちはすべて何かしらの身分のある貴族たちばかりだ。


久世ノ波子は差別のが根付いている国で、貴族と平民、農民の間には埋められない溝がある。


その為、宮に仕える護も貴族であることが条件だった。


貴族である故に、苦労を知らない者ばかりだ。


カルディオは昨日行った鍛錬を思い出し頭を抱えた。


見どころあるやつなんぞ一握りの人間しかおらず、その一握りの人間も水準が低い。


(先が思いやられる)


大きく嘆息し、足を進めていると修練場前にできた人垣が見えた。それに目を眇め、罰として素振りを千本やらせるかと心に固く決意をする。


人が気に近づき、一喝しようと大きく息を吸い込むと中心の二人の人物に目を眇めた。


一人は大きな体躯を持つ男で、露わにした筋肉が際立っていた。年は若く20歳に差し掛かる程度で、細い目で目の前に無防備に立っている少女を見下ろしていた。


少女は非常に珍しい容姿だった。星の仄明かり色のよう青白い髪を頭の高い位置で結び、頬には花の模様の赤い痣があった。近くで見て気付いたのだがそれは鉱石のようなものが埋め込まれていたのだ。そして、いつも自分を呆けたように見つめる顔は恐ろしいほど表情が削ぎ落とされ、無に近かった。ただ碧眼だけが燃えるような怒りに殺気を放っていた。彼女は視察を共にしたシャオだった。


思わず詰めていた息を吐き、野次馬にまぎれ観戦に徹する。

尋常ではない雰囲気のシャオに興味を唆られた。


脳裏で宮のことが一瞬ちらついたが、気づかぬように眼前の二人を見つめた。


「かかってきなよ、それともただの口ばかりの男なのか?」


凛としたシャオの言葉は、野次馬の騒音に紛れることなくカルディオの耳朶に届いた。


それは対峙している大男も同様だったようで、怒りに顔を歪め地面を一蹴りした。


一気にシャオとの距離を縮め、右腕をシャオの腹部めがけて拳を繰り出す。


それを紙一重でひらりとかわし、大男の背後にまわる。


それに気づいた大男は急いで体を反転させようと足に力を入れる。


「遅いよ」


シャオは見を低くして大男の片足を足を払う。滑りやすい砂も助けて、大男は見事に軸足を払われ体制を崩した。前のめりに倒れる大男の前に割り込み、彼の顔に膝蹴りをかます。


歓声がいっきに静まり、カルディオも呆気にとられた。


人並み程度の彼女の動きだとは思えなかった。


素早く洗練された動きは、どこか手慣れているものを感じた。


シャオの髪が一本の青白い光が蛇のようにうねるのをみて、過去を思い出す。



胸に沸き起こる感情を殺し、思い出を振り払った。目の前にで繰り広げられる試合に目を細めた。



鼻血を出し倒れた大男を見下ろしシャオは残虐な笑みを浮かべた。



「ここまでにしてあげる。もし今後同じことをしたら…」



シャオは懐から短剣を取り出し、鞘から刀身を抜く。


そのまま大男の顔の横に付きたてた。大男は恐怖で体が大きく跳ね上がる。


彼の表情にはもう怒りはなくただシャオへの恐怖で強張っていた。



「命はないものと思って」



そろそろ仲介に入るべきかと思案し、カルディオは息を大きく吸う。



「お前ら何をやっているんだ!!」



カルディオの一喝にシャオは顔を上げた。そしてカルディオの視線と絡まる。


シャオの表情には先程までの残虐な笑みはなく、いつものように呆けたようにカルディオをみつめた。


カルディオは複雑な気持ちを抱いたが、表情には出さず冷たく周囲に言い放つ。


「鍛錬をサボった罰だ、素振り1000本!!!」


その怒声に人垣は蜘蛛の子のように散り、刀を持ってくる。


残されたカルディオは護が帰って来るまで、空を見上げ思考に耽った。




おこなシャオちゃんやっと落ち着いたよ…隊長にはいつも呆けてしまうシャオちゃん(・∀・)

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