表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東禧石物語  作者: 渡部 遊雲
3/6

2

宮の君臨する土地の近くを京とよび、その場にに帰ることを帰京とった。


帰京し、宮が御座る宮邸へ2人は足早に向かう。


京から少し離れ木が生い茂る獣道を通る。その間2人とも口も閉ざし黙々と歩いた。


時折シャオはカルディオの顔色を伺ったが、相も変わらずカルディオの表情は硬く美しかった。カルディオに見惚れつつ歩いたため何度か石や木の根につまづいた。


その度転けるのを堪え、顔を上げるとカルディオの忌々しげな眼差しと合う。その眼差しに背筋を凍らせ、再び歩き出すということを繰り返していると、


木々のあいだから目新しいものが見えてきた。


最初に見えてきたのは下層に屋根のない二階建ての門だ。色は神聖な場所を表す赤。二階には高欄つきの回縁がある。


絢爛豪華な装飾に毎度ながら圧巻されているシャオを気にもかけずカルディオは門番に開けろと指示をする。


門番は2人の顔を確認し重々しい音を立てながら扉を開けた。見た目は木製の扉の中には鉄か鉛が入ってるやもしれない。門を開けると白い道が一本通っていた。それがまっすぐ屋敷に向かってる。


「シャオ、あとは私が報告する。お前は修練場に戻っていろ」


視線をカルディオに向けると、隊長は冷たい目でシャオを見下ろしていた。


身長差があるから自然と見上げ見下ろす形になってしまう。感情のない黒曜石の瞳に吸い込まれそうになった。


「はい、隊長」


短く返事をすると隊長は少し目を細める。その目に一瞬いつも見せない温かみのある感情がみえ、心臓が大きく跳ねた。しかしそれは一瞬だった。カルディオは踵を返し一番大きな屋敷に向かう。


その姿を少しの間見惚れ、ふと我にかえる。隊長の指示を思い出し修練場に向かう。


道を逸れ、砂利の上を歩く。


地震酔いのせいかまだ本調子には程遠かった。体が少しだるく時折頭痛が襲う。


息を吐きながら歩いていると突然背後に衝撃が走った。前に仰け反り転けるのを堪える。


恨めしそうに背後を振り返ると、案の定そこには飄々とした表情の女性が立っていた。


前髪を綺麗に揃えた黒い断髪の少女異国の人形を思い出させる。白い肌に小さい顔立ちをしていた。


「ファン、痛いじゃない」


体制を整えつつ恨み言を言うとファンと呼ばれた少女は楽しげに顔を綻ばせ淑女のように出て口元を隠す。


「ぼさっと歩くあなたが悪いのです、シャオ」


鈴が転がるような可愛らしい声音とは裏腹に言葉遣いは悪い。


彼女は宮邸に使える巫女だ。こ


こはもり以外にも宮邸の雑務をこなす巫女がいる。


他にも特別な役職が幾つかあるが今のシャオには関係のないことだ。



「視察はどうでした?」


下品な笑いを浮かべ肘で私を小突いてきた。見た目は儚げな美少女だが言い方と仕草が残念極まりない。貴方は何処かの酔っ払いか。


「ちょっと、聞いてますの?」


反応が薄いことに気分を害したファンは不機嫌そうに顔を歪めた。しかし、直ぐに可憐な少女が浮かべる花のような微笑みを私に向ける。怪しい、笑顔が甚だ嘘っぽい。嫌な予感がし身を引こうとすると、ファンの目に怪しい光が宿る。そして、間髪入れずにファンがシャオの胸あたりに向かって優雅にシャオの胸の上を打つ。


そこに物凄い衝撃を受けシャオの体は後方へ大きな跳躍をした。壁に背中を強打し少しの間意識が飛ぶ。


そう、ファンは巫女であり尋常じゃない怪力を持っている。その所以は彼女が戦闘能力が高い来族だからであろう。来族は今や少数部族であるが、その昔来族のみで構成された先鋭部隊でいくつもの大戦を走り抜け勝利を必ず勝ち取ったらしい。


自ら戦いに身を投じる姿はまさに戦闘狂。その部族出身だから高度な身体能力を持つが、ファンは戦いがあまり好ましくないようだ。


理由は知らないが昔はやんちゃだったと言う風の噂を耳にしたことがある。人それぞれ事情あるからファンの過去に何があってもシャオは気にはしなかった。



「…シャオっ!!!」


名を呼ばれ我にかえる。少しの間意識を失っていたらしい。まだ働かない頭を少し動かす。髪の毛から小さな石の破片が服の上に落ちた。


ゆっくり周りを見渡すといつの間にか自分を中心に人垣ができている。目の前にいるのは心配そうに眉を歪めたファンだった。そういえばファンに突き飛ばされて壁に衝突したのだ。よく見ると壁が崩壊し瓦礫ができていた。その中に自分が深く腰掛けて間抜けな格好をしている。


「いてて、少しは手加減してよ、ファン」


薄ら笑いを浮かべつつ立ち上がる。野次馬は

「何だ大したことないのか」

「驚かせやがって」

と文句を言いつつ解散していく。


シャオには冷たい社会だった。


ただ1人ファンだけが未だ心配そうにその場に残っている。彼女は口は悪いが根は優しい子なのだ。いろいろ事情を抱えてるシャオにも気さくに話しかけてくれる。


今日は久々に会ったから嬉しいのだろう。そのせいで力加減が上手くいかないに違いない。ただもう少し用心して欲しいのが本音だ。シャオはただの人間なのだから。


ファンは衣服についた土埃を叩きながら、怪我ないか確認しているようだ。好きにさせていると、ファンは一通りの確認を終えたようだ。その顔には安堵の笑みをたたえている。


「全く、あのぐらい避けきれなくて故凌守になれるはずないです。しっかりなさいな」


「ごめんごめん、まだ本調子じゃなくてさ」


軽く謝罪の意を示すと、再びファンの顔が曇る。


また何か機嫌を損ねることをしてしまったかと次の衝撃を予期し身構える。


しかし、その予想は外れたらしい。ファンは重おもしく息を吐く。ひどい自己嫌悪に襲われているようだ。そのあと、すまなそうにとシャオを見る。


「また、体調崩していました?」


「あ、うん。地震酔いしちゃって」


「地震?そんなもの今日起こったかしら」


ファンは手を顎に当て思案し始める。可憐な少女が静かに考える様はひどく絵になるなぁとシャオは密かに思う。ただ気難しく、捻くれている性格が玉に瑕だ。


「いいえ、やはり地震なんて起こっていません」


神妙な面持ちでファンがシャオにそう告げる。


「そんなに深刻に考えるべきことかな?」


「今日の視察の場所は鷹ノ山の周辺だったでしょう?あそこから此処までそう遠くない。にもかかわらず宮邸に地震が起こっていないのはおかしいです。」


その言葉にシャオも疑問を感じ始めた。顔を引き締め重い沈黙が降りる。



異常現象の原因となり得るものの心当たりがある。


シャオはファンをじっと見た。ファンも同様にシャオを見つめ返す。


固い表情が互いに考えてることが同様であると語っていた。


「そうなのかな」


沈黙を破ったのはいつもの声音より低いシャオの声だ。


「そうに違いないです」


「「梁楽」」


互いの声が重なった時、両者ともはっと体を強張らせた。その声が、名を持つものに聞こえないかという不安。2人の間に再び重い沈黙が立ち込める。






新キャラ登場しましたね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ