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東禧石物語  作者: 渡部 遊雲
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予兆

ほろほろと零れ落ちる。

それは白く、花弁のように見えた。

時折見覚えのあるモノクロの映像がちらつき、それはやはり白い花だと君が笑った。

君が笑うならばそれでいいと私が言う。

ほろほろと溢れるのはまるで、遠く古いあの頃の世界。






気がつくと硬い土が目の前に広がっていた。冷や汗が背中を伝い、荒い息を繰り返しながら、顔を上げ周囲を見渡す。


すぐ横に荒削りされた崖が天につくが如くそびえ立っている。重い鉛色の雲が湿気った空気にゆっくりと漂っていた。舗装されていない道は崖と森に両端を挟まれ延々と続いて、先は森の木々が覆い隠していた。


自分が何をしていたのか思い当たる節がない。思い出そうとすると、つきりと頭の奥に痛みが走る。手を頭を支え、顔に苦痛の色が滲んだ。痛みに耐え、息を整えるため深呼吸を繰り返す。痛みは時間とともに引いていった。


「まだ良くならんのか、シャオ」


痛みの引いた頭上から低い青年の声がした。顔をあげると先程まで目の前にはいなかった青年が仁王立ちにこちらを見下ろしていた。表情は固く無愛想に見えた。


綺麗な顔だ。



整った顔立ちに闇夜を思い出させる深い黒髪はクセがなく首の横にくくってある。黒曜石をはめたような漆黒の瞳。陶器のようなきめ細かい肌にスラリとした体躯は民族衣装に包まれていた。



その姿を認識すると、一瞬遅れて記憶が蘇る。



「あ、隊長」



そうだ、自分はこの仏頂面の青年、カルディオと視察に出かけていたのだ。


帰京中に大きな地震が起こり必死に荒い岩肌に掴まり、一難を凌いだ。



しかし地震に酔ってしまい、地震がやんだ直後にえづいた。その最中気持ち悪さに意識が少し飛んでいたに違いない。



「すみません、隊長と視察中にもかかわらず意識を失うとは…って」



言い終わらないうちにカルディオはシャオの額に指弾を打ち込んだ。痛みに何が起こったかわからず目を白黒させ額を抑えるていると、カルディオが嘆息しながら中途半端に浮いた片手をおろした。



謝罪を受け入れたか否か、今のシャオには理解し難かった。しかし、どうすべきか考えてるうちに隊長は興味を失ったように、シャオに背を向け再び足を進める。歩き出した隊長の背を慌てて追いかけた。


鉛色の空が雨を予感させる中二人は木々の間に姿を消していった。







人が生きる世界を久世くぜと呼ぶ。その東に位置する島国を波子はすといい、地図では久世ノ波子と記されている。




気候は一年を通して暖かいこの国では気候とは裏腹に差別が色濃く残る国でもある。昔ながらの伝統を重んじ神の存在を国民から王まで信じている。



その国では、王と同等の権力を持つ存在がいた。



役職名を宮という。



宮は八百万もいる神々の声を聞きそれを人間に伝える役職を指す。いわば人間と神の間の仲介役である。神を信じているその国では宮は重宝され、王と同様に絶対の存在である。



政には干渉しない建前と陰の政を牛耳るのは宮であるという本音は小さな子供でも知る一般常識だった。



その宮を支え守るのがもりと呼ばれる者たちだ。高貴な家柄で文武に優れ且つ通力を持つ者だけがその職に就くことを許される。



その護の中から最も秀でた人が故凌守こりょうしゅと呼ばれ宮を誰よりも近くで支えることに命をかけていた。だが事実上その役職では世襲制がとられていた。そして、故凌守に選ばれてしまったのが運の尽き。



人生を宮に捧げる代わりに地位と名誉を獲得する。宮が命を捨てろといえば捨て、生きろといえば生きねばならない。



それが宮と故凌守の主従関係である。固く結ばれ二度と解けぬ縁。生まれ落ちたその時から故凌守になることが決まっている。



しかしに指名されいきなりそのような役職を全うするというわけではない。見習い期間が設けてありその期間に故凌守としてふさわしいか見定められる。

見習い期間は護として仕事をするのが通例だ。勿論この段階で落とされる可能性もあるが反例は少ない。


長い歴史も見れば落とされた人は確かにいた。



そしてその見習い期間に今対面している護が1人いた。



名をシャオといい、彼女の持つ類稀な境遇に世界までも翻弄するとは当時は誰も想像できなかった。






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