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薄命光線  作者: はしもと
7/9

「ヒロくんへたくそ……」




「あえ……?今私たちキスしたの……?」



「……おう」

「……そっかぁ」

びっくりしたアキの涙はいつの間にか止まっていた。少しボーッとして、人差し指を唇に当てる。


「いいの……?私なんかとキスしても……」

「……おう」

「ごめんね……、嬉しい」

「……オレも嬉しい」

「え……?」

「好きだ」

「うそつき……」

「嘘じゃねぇ」

「じゃあ、もう一回して……、よく分からなかったから……もう一回だけ」



僕たちは自然と目を閉じる。何かを照らし合わせたわけじゃないのに、キスをする。僕たちはキスの仕方も分からず、鼻と鼻をぶつける。

「ヒロくんへたくそ……」

とアキが微笑む。


「悪かったな」

今度は顔の角度を少しずらしてキスをした。ちゃんと唇に当たった。

一瞬だけ柔らかい感触がした。

「分かった……?」

「ううん…、分からない。全然……、だからもう一回……」

「うん……」



今度はさっきよりも上手く出来た気がする。今度はさっきよりも長くキスが出来た気がする。

「もう一回だけ……、今度はもっと……してほしい……。分かんないよ……」



お互いを自分の中に受け入れる。普段触れることのない場所に、傷つきやすい場所を優しく、お互いを絡ませる。なにが嬉しいのか、なにが気持ちいいのかさえ分からず、僕らは必死に求めあう。それでもただ、幸せだと思った。



「……ぷはっ、息が出来なかった」

「僕も……」

「キスってこんなに……、幸せなことなんだね……、私もっと……、エッチなことだとばっかり……」

少し照れてアキがそう言った。アキがそういうことを口にするのは初めてだったから、僕は笑った。アキは「笑わないでよ」と微笑んだ。

アキの知らない部分を今日も知ってしまった。まだ明日があればもっと沢山のことを知ることが出来たのに。僕はアキのことをまだ殆ど知ってはいない。



「泣かないで」

アキはそう言うと今度は僕の顔に手を伸ばし、キスをする。

「これズルいよね……。こんなことされたら涙止まっちゃうよね……」

「そうだな……、アキが泣きそうになったら今度からそうするよ」

「今度はもうないから……、今日もっとしたいなぁ……」

「うん……」

「こんなとこお父さんに見られたらヒロくん殴られちゃうかもね」

「本当にありそうだからやめてくれ」



僕たちは手を繋いでキスをした。

抱きしめてキスをした。

気が済むまでしたかったけど、気が済むことはなかった。



「ヒロくんから好きだって言ってもらえて嬉しかったなぁ」

帰り道、アキは僕の手を握ってそう言った。

「ヒロくん絶対、そんなこと聞いても好きだよって言うに決まっているから……。優しい嘘つきだもん」

「褒められているのか貶されているのか分からねぇな」

「どっちもだよ」

「そうか」



家の前まで送ると父親が玄関の前で待っていた。ずっと待っていたのだろうか。僕たちの姿を見ると安心した表情を見せた。



「ありがとう」

「いえ、約束ですし。こちらこそありがとうございました」

「いや、そっちじゃないんだ」

アキの父親は少し恥ずかしそうに視線を逸らして言う。

「アキと仲良くしてくれてありがとう」



二人は僕を家の前から見送ってくれた。曲がり角を曲がるまで、ずっと家の前で見送ってくれた。これが最期なのだとみんな分かっていた。

これが姿を見ることが出来る最期の瞬間なのだと。そう思うと足が止まりそうになる。でもそういうわけにもいかない。だから僕は進み続ける。

曲がり角に入る直前、僕は後ろを振り返った。アキはそれに気付いて手を大きく振ってくれた。僕も大きく振り返した。




僕たちはきっと泣きながら手を振っていたのだろう。




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