「……したいって思ったらダメかなぁ」
「あんた、アキとどこまでやったの?」
「……やったってなんだよ」
アキとは対照的に、遠慮なく聞いてくるのはアキの友達であり、僕の幼馴染でもある女の子。仲本潤。
「ふーん、まぁ聞かなくても分かるけどね。あんた付き合うの下手そうだもんね」
「うるさいな、ほっとけよ」
休み時間。クラスメイトのジュンは僕の机に座り探りを入れている。
アキはトイレにでも行ったのだろうか。教室には姿がない。
「アキがあんたとキスしたいって言っていたぞ」
唐突な密告に僕は思わず咳き込む。
「うそ……だろ、キスだなんて」
「うん、嘘」
「お前……」
ジュンは「てへ」と普段しないおどけ方をして誤魔化す。
「あんたはどうせそういうこと教えてくれないだろうなって思ってカマをかけてみたの。まさかこんな簡単に引っかかるとは思わなかったけど」
「僕のことをよくご存知で」
「キスくらい男からしてやりなよ」
いつもはふざけた口調なのに、この時だけは真剣だった。
「そうは言ってもタイミングもないし、そもそもアイツは僕なんかとキスしたいのか?」
「バカなの?いや、ごめん。バカね」
「……何でだよ」
「好きな男としたいに決まっているでしょう。……あの子ずっとあんたのこと好きだったのだから。そういう話もしてないの?」
「………」
「せっかく付き合っているのだから、相手の気持ちをちゃんと知りなさい。分かった?」
「……おう」
***
とは言ったものの、そんな話をどう切り出していいのかも分からず。
学校からの帰り道。
目が合うとアキは顔に「?」を浮かべた。「いや、なんでもない」と答える。
沈黙が流れる。
何か話題になるものを探して辺りを見回したが何もない。
結局このことばかりが頭のキャパを埋めてしまうので、僕は聞くことにした。
「お前ってさ、……キスとかしてみたいと思うの?」
「えぇっ!?」
アキは今までに見たことないくらい慌てた。そして顔を真っ赤に染める。
つられて僕も赤くなる。あぁ……、なんて恥ずかしいことを聞いてしまったのだろう。
「……したいって思ったらダメかなぁ」
俯いて表情を隠しながらアキが消えそうな声で言う。
「………いいんじゃねぇ?」
歩きながらアキの小さな手が僕に触れた。そして手繰り寄せるようにして指を絡ませる。
僕たちは顔を合わせないで同じ歩幅で歩いていく。
「でも……、今はまだ明るいから……また今度がいいな……」
「お、おう。そうだな」
家に送るまで、僕たちは何を話したか覚えていない。ただ心臓の音がいつもよりも大きく響いて、それが相手にも聞こえてしまいそうで恥ずかしかった。
キスがこれほどに大変なことなのだと初めて知った。




